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11歩目「馬車の旅」

「正規の街道を通れないのは分かったが、まずどうやって防衛網を突破するつもりだ」

 あの食事から数時間後、数日分の食料と水を買い込んだマルスたちは馬車上の人となっていた。ラドリオの馬車は荷台に八人程度が座って乗ることのできる中型で幌付きだ、揺れる荷台はお世辞にも快適とは言えないが雨風や日光をしのげて二人ならば寝転がることもできることを考えれば贅沢は言えない。少々気になるのは馬が一頭立てであることだが、今のところ馬は一頭でも力強く馬車を引いていた。

「簡単話だ、あの防衛装置は起伏の激しい場所には設置できないらしくてな、この先の十字谷付近には設置されていないんだ。勿論見張りの兵士や英雄が巡回してはいるが、防衛網ほど強固な見張りじゃない」

「まあ、防衛網が大軍に対する備えだっていうなら納得だな」

 人が多くなればなるほどその移動を隠すことは難しい。まず第一に目立つ、遠くからでもその人影は容易に発見できるだろう。特にこの辺りは乾いた砂で大勢が歩けば砂埃がたつ、人影以上に彼らがたてる砂埃は狼煙の様に遠くからよく見えることだろう。仮に見つからずにこの付近まで接近できたとしよう、すると今度は谷が大人数の行く手を阻む、武器や燃料、兵器や食料を谷越えさせようと思えばそれだけで数日かかる。この辺りは夜は冷え込むから火は必須だ、当然煙や明かりは遠くからでも目立つ。

「鳥や虫に擬態した使い魔も多いしな、だが小さい馬車なら見つかりにくいし、見つかったとしても近くに対処できる奴がいなければチェックされるだけで見逃されることもある……はずなんだが」

 ラドリオは手鏡を使いそっと後ろを確認する。町を出てからずっと大型の馬車が後を付けてきている。民間、軍両方で使われている平均的なタイプの馬車だが、周囲に護衛が見えないことを考えると恐らく軍用だ。民間の商人の馬車ならばあえて傭兵や護衛を周囲に歩かせたり見える場所に乗せたりするのだ。こちらには襲われても対処できる人間がいることを見せ付けることで、獣や夜盗などの襲撃を防ぐのが目的だ。最近ではそういう馬車こと英雄崩れの小悪党に狙われたりするらしいが。

「お二人さん、そっと後ろを覗いてみな?」

「え?」

「おい、思いっきり顔を出すな木乃美」

 木乃美を少し幌の陰に押し込みながら、マルスは背後を確認する。馬車の御者も唯の旅人風に偽装してはいるが、マルスには見覚えがあった。

「あの時私たちに声をかけてきた人だよね」

「……だな。どうやら顔写真が回ってきたか頭の切れる指揮官でもいるらしい」

 少し妙なのはさっきから距離を詰めずに一定の距離を保っていることだろう。こちらが道を逸れたらそれを理由に捕縛するつもりなのか、それとも……

「前から何か……くそ『錬金馬車』だと?!」

 正面の丘の向こうからラわれた馬のいない馬車を見てラドリオが驚きの声を上げる。


 マルスの嫌な予感が当たった。もう一つの可能性、前と後ろから挟撃するつもりなのだ。

次回カーチェイス、ならぬ馬車チェイス。

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