太陽系興亡史 外伝 10月事件
と、あらすじに書いてありますがそんなに大したものではありません期待せずにお読みください。
2015年10月
北太平洋 ミッドウェー諸島沖 南西
1隻の船舶が西に進路を向け航行している。 白地の船体に赤の太いラインと青の細いラインが艦首方面に入っており、一見すると、この船体の白地が灰色であったのなら、軍艦である、と言われても違和感がなかったであろう。実際、前甲板にはステルス性に十分考慮した、と思われる砲塔、ボフォースM110 57㎜単装砲塔、が鎮座している。艦橋はノッペリと傾き、これもまたステルス性を考慮されているものと思われる。艦尾にはヘリ甲板か備わっており、それに続く2つのヘリ格納庫、そしてそのの上には西側の有名な近接防御火器システムであるCIWS、ファランクスがちょこんと乗っかっている。ヘリ甲板の後ろも艦載挺用の収容スペースと揚収容のスロープが見える。この船はアメリカ国土安全保障省、沿岸警備隊、太平洋方面隊所属のレジェンド級カッターの1隻でバーソルフである。
「艦長、当該船は進路をそのまま、接触予定海域は、当該船の船速を落とさない限り日本のEEZ(排他的経済水域)内になってしまいそうですが」
艦橋の真ん中で腕を組ながら座っている、いかにも艦長だ、という感じのする男性に、横に来た男性が話しかけた。
「方面隊からの命令は当該船の捕捉、臨検だよ、副長。たぶん、だが日本との話しはついているのだろう。たとえ先に日本のコーストガードのあきつしまが接触したとしても、此方が出張ることになるんだと思うよ」
「気の早いことに、すでにTACLET(戦術法執行チーム)分遣隊は準備万端、だそうです」
まだ接触まで時間があるのにご苦労なことだ、と言う風に副長がすこし笑いながら話しかける。
「我々、沿岸警備隊の初のPSI(大量破壊兵器拡散に対する安全保障構想)になるかもしれないと思って気張っているのだろう。しかしこの海域に来るまで捕捉できなかったのは何とも背筋の凍る話しだがね」
「すでに海軍のP-8、ポセイドンが先行、接触を開始しようとしておりますが航続距離を考えますと、彼らも厳しい任務をしているような気もします。それより気になるのはIOC(初期作戦能力)を獲得していないMQ-4Cトリトンすら投入しているのは今一つ腑に落ちませんが」
P-8ポセイドンはアメリカ海軍の最新鋭対潜哨戒機でボーイング737ー800を原型としている。この原型機体は日本国内でも国内線の主要機体として運用されていおり、多くの旅客を短距離を中心に運んでいる。そしてこのPー8もこの航続距離の問題を長時間滞空可能な無人機よって補い、連続した対潜ならび海上哨戒任務を可能にしようとしている。そしてその無人機こそがMQ-4Cトリトンである。この機体はノースロップ・グラマン社製RQ-4グローバルホークを元として開発された広域海上諜報、監視、偵察、すなわちISR(intelligence,surveillance and reconnaissance)を目的として開発された無人偵察機である。(なおIOC(初期作戦能力)は2015年12月に取得が予定されていたが2018年まで延期されてしまっていた、書いてる途中に調べてよかった、と。でも登場はかえないよ)
ハワイ州 オアフ島 海兵隊 キャンプH・M・スミス内太平洋軍司令本部 作戦指揮所内
「トリトンが当該船を捕捉中、P-8も間もなく当該船を捕捉します」
指揮所内の前一面に設置されている大形スクリーンに対面して、ずらっと並ぶオペレータデスクの中の一人、おそらく航空関係を統括するオペレータなのであろう、が自分のモニターを見ながら報告する。
「P-8のETA(到着予定時間)修正なし。トリトンの映像、来ます」
「中央3番モニターに出します」
一瞬その場にいる全員が手を止めずに、顔だけ、あるいは目線だけでモニターに注目する。
一番後ろにいる太平洋軍司令官と、その横にいる背広を着た、どこか掴み所の無い感じのする男性がモニターを見ながら回りに聞こえないように話している。
「あれが君達の目的の船か?」
太平洋軍司令は太平洋艦隊司令官を兼任しているので、彼は海軍の制服を着ている。しかし、その所為もあってか一層、横にいる背広姿の男がこの中で目立っているが、男は別に気にしていないようだ。
「ええ、そうでしょう、ばら積み船、クレーンなし、特徴は報告書と一致します」
表情を変えずにその男は答える。
「昨日、ONI(海軍情報局)から連絡がきた時にはそれほど驚きはしなかったが、君が来て、話を聞かされた時さすがに驚いたよ」
司令は前を見ながら少し困ったように呟いた。ONIは南北戦争後、低下した海軍力を再建する計画の中で設置された情報機関である。大東亜戦争中は日本外務省の暗号、通称九七式欧文印字機、アメリカ軍コードネームパープル暗号を解読、外務省の通信は完全にアメリカ側に丸見えであった。さらにこれに加えて日本海軍の暗号もほぼ完全に解読し、ミッドウェー海戦の勝利に大きく貢献、そして極めつけは山本五十六連合艦隊司令長官搭乗機撃墜事件、海軍甲事件 アメリカ軍 作戦名 ヴェンジェンス作戦の成功にも大きく貢献した。戦後はこの強力な暗号解読部門を維持したまま、これに加えて電波傍受、音響情報の収集、電子情報の収集、分析と言ったシギントを中心とした諜報活動を行っている。またアメリカ唯一の民間船舶の移動情報収集も行っており、海上を輸送される武器、麻薬、放射性廃棄物の監視任務、さらに密漁、なんてのも監視していたりする。
「いえいえ、私もこの情報を受けたときは驚いたものですよ、何せ半世紀ぶりに捕捉したのですから」
別に驚いてもいないように背広の男が喋る。
「説明は受けたが……、どうもな。はっきり言って未だに信じれんよ」
話しは背広の男が司令に合ったところまで遡る。
ノックをした後、司令長官公室に背広の男が入ってくる。長官は前のソファーに彼を座るように勧めて自分も彼の前に座る。
「君かね、ONIが捕捉した船について話したいと言うのは」
「はい、始めまして、CIAのブレナンです。早速で申し訳ないのですが、これをご覧ください。そうです、このファイルです」
ソファーに座っているブレナンが申し訳なさそうな仕草もせずファイルを手渡す。
「えらく古いファイルだな」
司令はそのファイルを受け取り中の書類を見て、驚く。
「少し待て。どう言うことだこれは」
「それに書いてある通りです。ご説明してもよろしいでしょうか」
しかし司令は驚いたまま、書類を睨み付けながら目だけでその書類を速読している。
「重要なのは3枚目からです、ご覧ください、はい、1969年ニクソン政権下、ニクソン・佐藤会談の結果として沖縄の返還が決定します。返還は1972年5月15日と決定しました。返還を目前に控えた1971年、沖縄の嘉手納基地の巡航ミサイル、加えてB52戦略爆撃機、ならびに那覇基地の高射部隊の有するナイキハーキュリーズ、これらに搭載される核弾頭の一部を本国に移送する計画が持ち上がりました。空軍主導で輸送するか、あるいは海軍がその任に付くか、はたまたあるいは、か。一悶着国防省内で有ったそうです、65年の海軍の失態、66年と68年の空軍の失態が背景にあるそうですが、まあ、これはあまり関係のない話ですね。紆余曲折の末、結局我々が移送を担当することとなりました。同年6月17日沖縄返還協定に調印、10月22日CIAのダミー会社所有のばら積み船、クレーンなし、スモールハンディ級の1隻、登録船舶名ラッシュモア、重量トン数28000、パナマ船籍、にこれら核弾頭を積み込み那覇港をハワイ・真珠湾に向けて出港、数日後ミッドウェー近海で消息を絶ちます。海軍の大規模な捜索にも関わらず、同年暮れ、遭難と判断、当該船は登録を抹消されました」
「それは……、それがこの船だと……、信じられんな、護衛を付けなかったのか」
書類から目を離し、ブレナンの方をみる。
「5枚目に書いてありますが、日本政府の懸念と、韓国、中華民国の沖縄返還に対する東アジアの安全保障に対する影響への懸念、そして沖縄に配備されていた巡航ミサイルの主な標的であった中国、それに北朝鮮とソ連に対する核抑止の維持と言う観点から極秘裏に核を持ち出す、と言う制約により大規模な護衛は行わなかったようです。大分欲張った作戦である、と今から思えばそう言うことも出きると思いますが……。護衛は潜水艦1隻、無事に、といっていいのかわかりませんが、真珠湾に入港しております。そして、おそらく十中八九この船がこれかと」
ファイルのなかの写真を指し示しながらブレナンがこたえる。
「どうすればいい、こういう状況は……。いや、とりあえずこの進路ならば先に接触しなければ日本のEEZ内に入られると優先捜査権も危ういか」
「いえ、大丈夫だと思います。すでに国務省には日本側と話しはつけてある、とのことです。それと大統領にもこの件は行っている、かと」
「とりあえず近くにある艦艇をリストアップさせよう」
デスクにある電話に手を伸ばし、司令は指示を出し始める。
そして話しは作戦指揮所に戻る。
P-8が接触して当該船の船名を確認、この船の情報を知っている士官達の動きが俄に殺気だってくる。
「そろそろP-8の接触時間限界だな。この近くには着陸、給油可能な飛行場が少ないからな。ギリギリまでよくやってくれたよ、代わりにトリトンが接触を続けるよ。まあ当該海域に一番近い船が沿岸警備隊のカッター、バーソルフなのは運がいいのか、悪いのか、わからないがね。それにサンディエゴ所属のLCS-4 コロラド、同基地 第9空母打撃群隷下第23駆逐隊所属サンプソン 横須賀の第5空母打撃群隷下第15駆逐隊所属ステザムが現場海域に急行中だよ。さらにSEALSのチーム1もヘリで臨検のためにコロラドに急行中だ。ただ当該船の船脚ではおそらく沖ノ鳥島の定期警備に向かおうとしている日本の海上保安庁の巡視船あきつしまが先に接触するだろう」
「ご協力感謝します」
ブレナンが司令にお礼を言って、またモニターに写る船を睨み付けるように見る。
太平洋 小笠原諸島 東端 南鳥島 近海
「当該船を捕捉、本船は当該船の左舷、後方3000につけます、なお当該船の進路、速度変わらず」
艦橋に元気のいい声が響く。
海上保安庁第三管区海上保安本部所属PLH-32あきつしま。本州の古い別称でもあるこの名前をつけられたこの巡視船は、しきしま級巡視船二番艦である。巡視船としては大きく、その大きさは海上自衛隊のこんごう級護衛艦にも匹敵する。元々の建造目的はMOX燃料を用いたプルサーマル発電をする為のプルトニウム輸送の護衛であった。輸送任務中給油をせずに無補給でフランス、シェルブールから、東海港まで航行するため長大な航続能力と核ジャックに対抗するための強力な警戒、監視、防護能力を備えた巡視船である。一説によると軍艦より防弾性だけは高いのだとか。ただし実際プルトニウム護衛には専従することは少なく、この長大な航続能力をいかした長距離救難や様々な警備案件に重宝されていた。もっともこの巡視船は見た目通り建造費が高額であったので二番艦以降の建造はほぼあり得ないとも思われていたのだが、2000年以降の国際情勢、マラッカの海賊事件、ソマリア沿岸の海賊事件、さらには、尖閣諸島を巡る領有権の問題、広がる海洋権益の保全などに対処するため同型艦2隻の建造が計画され、その二番艦があきつしまである。もっともこの2隻、しきしま、あきつしま両艦の建造期間が21年も開いた為に、その外見は少し、いや大きくと言っていいかもしれないほど異なる。主な差異は艦首にある砲塔であろうか、エリコン35㎜連装機関砲であったものが、ボフォース40㎜単装機関砲に、艦載機がシュペルピューマからシュペルピューマMK2に、全幅が17mに増加、総トンも180t増加している。なお、三番艦は尖閣警備専従体制構築が優先されたために目下、全力? 棚上げ中である。
「あれか、やけに古くさい船だな、北にしては洒落た名前を付けるな、ラッシュモアか、ふん、ネーミングセンスあるじゃないか」
艦橋の窓ガラスに近づき首からかけた双眼鏡を覗き込みながら横にいる目付きが厳つく姿勢のいい男に話しかける。
「ラッシュモア山ですか、まあたしかに洒落っけはありそうですな」
目付きの厳つい男も双眼鏡を覗きながら答える。
「さて、アメリカさんの到着まで数時間はある、こちらも用意だけはしておいてくれよ、何があるかわからんのだからな」
「まかせてください、我々としても訓練は何度もしてきましたが、初の実戦になる可能性もあるわけですから」
この目付きの厳つく姿勢のいい男は海上保安庁の特殊部隊、特殊警備隊の隊長である。SSTは1985年に創設された関西国際空港海上警備隊、92年に創設されたプルトニウム郵送護衛のための輸送船警乗隊、これも関西国際空港警備隊からの枝分かれでもあるのだが、が95年の地下鉄サリン事件の発生を受け海上におけるテロ事件の対処のために96年に合併、発足した部隊である。
当該船の監視を始めて数時間後、ようやくアメリカの巡視船が到着する。
「ようやく来たか。ほう最新鋭のバーソルフか、豪勢だね。よし、これから本船はアメリカ沿岸警備隊の臨検に対してこれを援護する、普段の訓練と同じく、冷静に対応してくれ。以上だ」
マイクで艦内放送をして、バーソルフと協議の後、当該船に左舷後方から右舷にいるバーソルフと挟み込むように接近していく。
バーソルフからシーホークに良く似た、塗装が白地に赤のヘリが発艦する、おそらく臨検要員が乗り込んでいるのだろう、終に用意が整ったのか当該船に停船命令が出される。しかし当該船は命令を無視。進路、速度そのままで航行している。逃げる気もないのだろうが、止まる気もないのだろう。船脚を早める気配もない。
「我々を舐めているのか、チームを突入させろ、第一目標はブリッジの制圧、第二目標は貨物室だ。暗くなる前にやれ」
バーソルフの船長が指示を出す。それに答えるように前甲板のボフォース57㎜ MK110砲塔とヘリ格納庫上のファランクスまでもが目標の船に狙いを定め、ヘリ甲板にスナイパーとスポッターがヘリからのラペリング降下の支援のために当該船に向けて狙いを定める。当該船を挟んで対峙するあきつしまも前甲板の砲塔と艦橋横にある20㎜ガトリング砲JM-61RFS、ヘリ格納庫上にある前甲板と同じ砲塔を当該船に向け、さらには各所に設置された機銃座にM2機関銃を設置して支援体制に入る。あきつしまも結構重武装である。
目的の船の上を数回、行ったり来たりして安全を確認していたヘリが甲板上に船との相対速度を合わせ船に対して静止し、ヘリから終にロープが垂れる。
ヘリから6人が目標の船に降り立ち、3人ずつになり別れる、3人は一列になりその二つの列がお互いを補助するかのごとく艦橋に近付いていく。
彼らは全員M4ライフルにダットサイト、フラッシュライト、フォアグリップを装着している。右側の列の一番後ろの一人は背中にエントリーツール(突入用装備)を二種類、背負っている。大型の斧みたいなのと、電動式であろう大型の回転する円盤がついたカッターである。
ハンドサインをしながら艦橋の下にあるの扉の前で一旦タイミングを合わせ、そこから船内に入っていく。
数分後艦橋で、彼らは合流。ここまで船員の誰とも会わず抵抗すらないことに訝しみつつ、お互い首をかしげている。
「おい、おかしいと思わないか」
回りを警戒しながら隊長は部下に尋ねる。
「ええ、隊長。何がおかしいかはっきりと言えないのですが、確かに違和感は感じます」
緊張した様子でやっぱり回りを警戒したまま部下も答える。
一人の部下がこの異様さについて答えに近いものを声にした。
「船が古くさいと突入する前から思っていたのですが、中にある装備が古い型のわりに綺麗すぎるんですよ。廃墟に入っているのに中の物は朽ち果ていないかのような、そんな違和感を感じますね」
「これを見てください、このチャート表」
チャートデスクの前にいた隊員が声を張り上げる。
「落ち着け、どうした?」
隊長がその隊員に近づきチャート表に目を落とす。
「なんだこれは、冗談にしても……、いや有り得ん。どういうことだ誰か、航海日誌だ、航海日誌を持ってこい、そこら辺にあるだろ。早く」
そのチャート表には那覇港を出港した時間だけでなく年月日までもが書き込まれていた。そして最後のチェックポイントを通過した時間も書き込まれていたのである。さらに悪いことに海図は1970年製でこれはもう今なら役に立たないこと間違いなしな一品であった。
「航海日誌が破りとられています」
航海日誌を見つけてきた隊員が報告する。
「と、取り合えず停船させよう。命令をさっさと済まして、早くこの船から出た方が良さそうだ」
隊長は自分の気持ちを落ち着かせながら、皆の気持ちも落ち着かせようとする。
速度計のレバーをもって隊員の一人が停止位置にあわせてもいいか聞いてくる。
「よし、さっさと停船させちまえ。停船したら貨物室に向かうぞ」
隊長は無理矢理にでも気持ちを切り替えながら次の任務に向かおうとする。これでも特殊部隊の要員で隊長までできるぐらいだから、当然優秀な軍人である。
数分後当該船は完全に停船する。もっとも外洋で完全に停止することはできない。当たり前だが波があるので、ある意味漂流し始めたといっても過言ではない。
「よし、全員気持ちに切り替えは終わっただろうな、さっきの気持ちのままだと簡単に死ぬぞ。よし大丈夫そうだな。では、行こう」
また彼らは3人一組になって、ただし今回は別れずに、貨物室に繋がる通路を目指して艦橋から階段を降りていく。互いにフォローしながら、一部屋づつ念入りに誰もいないのを確認してクリアリングしていく。
終に船体中部の貨物室への入口通路の扉の前に全員が到着した。彼らはハンドサインを出しながら、スルスルと貨物室と通路を隔てる扉に取り付いていく。扉に鍵が掛かっていないことを確認して全員が数を数え、貨物室に突入していく。
「結局、生存者は誰もいない、か。やはり、といえばやはり、と言った感じなのだが。どうも腑に落ちないな」
突入から数分後、白骨化した大量の遺体を確認した隊員達は首を傾げながら、遺体を検視する者と積み荷を確認する者に別れ貨物室を捜索している。
「遺体の数が多すぎる、軽く20人はいるぞ、しかも積み荷はなんと言うこともない、ありふれた物ばかりだ、砂糖の袋、セメント袋、その他、どうもな。偽装されているようすもないし、な」
検視していた隊員が声を荒げる。
「隊長、これを、これを見てください」
一冊の手帳をその隊員が隊長に手渡し、隊長は一目見て以後唸りながらそれを読んでいく。
この日記は後に我々を発見する者、いればだが、に残す。我々の困難の記録である。
1971年10月22日 那覇港をカンパニーの命令を受けた積み荷とさらに秘密の積み荷、そしてその護衛40人程を乗せ出港。
おそらくこの積み荷はよほど重要なものなのだろう、この船の偽装貨物室に護衛達のみで運び入れ、我々の手伝いを彼らは固く拒んだ。この積み荷は恐らく核だろう。これほど厳重に警戒すると逆に解ると言うものだ。
24日 航海は順調。接触してくる日本公船、加えてソ連船舶もなし。このまま順調に真珠湾までいきたいものだ。
26日未明 強烈な衝撃に当直から解放されまどろみ始めた私は起こされた。衝撃で2人が軽い傷、1人が骨折、護衛達にも怪我人は出ているようだが、彼らはやけに秘密主義だ。こんな時に秘密もなにも無いと思うのだが、エンジンは故障、うんともすんとも反応がない。直ぐに救援を呼ぶことを護衛達の隊長と協議、提案するも却下される。こちらに指揮権がないのは、久しぶりだからかもしれないが少々苛立ちを覚える。取り合えず、エンジンを修理することに傾注する。チャート表よりミッドウェー沖であることを確認するも、通信機に電波灯台の信号受信なし、一抹の不安を覚える。数時間後船体になにか当たる音がする。たまたま甲板にいていた、さぼってタバコを蒸かしていたとも言う、甲板員が海から出てきたタコだか、イカだかの足を見たと大騒ぎする。護衛達はこの非常時にバカなことを言うなとバカにしたように笑う。しかし彼はまだその事を強く主張している。艦橋にいた二等航海士も一瞬それらしきものを見たと私に告げてきたが、見間違いかもしれないとも言っている。しかし暑い赤道直下でないはずなのに、しかもこの季節の北太平洋にしては暑すぎる。結局この日はエンジンの修理は成功しなかった。機関長が言うにはどこもおかしいところは無いような気がするとのこと。夜天測の為に空を見上げ驚く、全く見たこともない夜空の星々、ここは地球ではないのかもしれないとの疑念がふと頭を過る。
27日早朝 さらに船体に何かがぶつかる音、加えて揺れまでして肝を冷す、今度は艦橋にいた操舵手と一等機関士が例の足を見たとのこと。今度は護衛達もバカにせずただ単純に不気味がる。エンジンの修理の目処がたたないことを報告して救援を求めることを隊長に強く主張する。隊長は到着が送れると直ちに捜索がかかるから救援は、と言うよりは無用な電波の送信は避けろとのこと。護衛も潜水艦ではあるが要るから安心しろと言っているが、この状況下その程度の情報で安心する船乗りはいないことを私は確信している。そろそろ水、食料が厳しい。このままなら持ってあと2日だろう。
28日 大変なことが起きた。エンジンの修理、いや殆ど考え付くことはしたがまだ動かないこれの前に要るだけだ、の途中甲板から悲鳴、それに続いて銃声が鳴り響く。直ぐに甲板上に駆け上がる。そこで我々のほとんどがそいつを見た。護衛はたまたま甲板に上がって気分転換をしていた2人、そして最初にそいつを見た甲板員とは別の甲板員がそのとき甲板にいたようだ。そしてその甲板員がそいつの足に捕まり、助けようと護衛達がM63をそれに向けてばらまいていた。それは弾が利いた風もなく悠然と捕まえた甲板員を海面下にあるであろう自分の口のなかに沈め、海上からその姿を隠した。我々は狂い叫ぶほどの光景を見たはず、であった。しかし護衛達の行動はすこし違った。そいつが、そんなやつが核兵器を奪取するつもりは無いと私は思うのだが、核兵器を奪取する敵であると考え、パニクった隊長の指示のもと、全員偽装貨物室のなかに籠城し始めたのだ、しかも無線機を敵に使われるかもしれないと言う理由から破壊していく周到性まで持ちながら。まあ、確かにこの通信機はカンパニーの最新式の暗号機を組み込んではいるが、この船、唯一の通信機なのだが……、しかも、イカだかタコに通信機を使えるはずもなかろうに。まあ馬鹿、といっていいのかわからないが、には本当にてこずらされる。
それから4日が過ぎた、全員が貨物室に身を寄せて頑張ってきただが、もう限界だろう。呼んでも反応のない者も少なくない。歯茎からは絶えず出血しているし私ももう長くはないだろう。まあ思えば、面白い人生だった、最後にこんなところで日記をつけるのも面白いものだ、始めて乗った船。第二次世界大戦中の味方の誤射で乗艦が沈没、海を漂った記憶。戦争が終わって故郷に帰り、結婚して子供を持ち、そしてまた海に戻った。自分のこれまでの記憶が止めどなく思い起こされる。悔いは残してきた家族と部下だけだが、もうどうしようもあるまい。ああ、我が人生はおもしーーーーーー
「なんだこれは、どう言うことなのだ」
隊長は叫ぶ。それとほぼ同時に、隊員の一人が偽装された扉を発見した。
「隊長、ここに偽装扉を発見しました」
皆、また軍人の顔に一瞬でもどる。訓練された彼らにしても平常心を保つのはこの状況下では酷であろうと思わなくもないが、彼らは強固な精神でそれを成し遂げる。まあ、それが出来ないと死ぬだけだ、とも言えるが。
「よし扉を開けろ。全員、これが最後だろう。準備しろ」
カッターで偽装された扉の一部を破壊、さらに持ち込んでいた扉破壊用のC-4爆薬で強引に扉を固定していると思われる部位を破壊、ようやくこの船の最終目的地である秘密貨物室への入口が開く。ハンドサインでタイミングを計りながら一斉にこの終着点になだれ込む。
そう、なだれ込むまではこの話しは、別にこの時代に生きている人間にとって、ああ、不思議なこともあったもんだね、ですんだのだ。彼らはある意味パンドラの箱を開けてしまったのかもしれない。その部屋で彼らが最初に見たものは折り重なって死んでいる白骨化した40体程の死体であった。当然彼らはそれが死体であろうともその部屋の安全が確認されるまで気を抜くことはない。それら死体に近付き、これら死体が自分達の脅威となりうるか、を確認しようとするや、状況は一変する。そう、近付いて銃先でそれにをつつこうとしたときに、その白骨化した死体が立ち上がり始めたのだ。隊員は驚いてすかさず飛び退く、しかしこの状況を飲み込めず、立ち上がったこの骨、ベトナム戦争に出てくるような軍服を身に纏った、に発砲も警告もせず、暫しの間、彼らとそれら、あるいは無念にも任務遂行中に死んでいった物達、の間に奇妙な静寂がもたらされた。まあ、彼らがここにくるまでこの部屋は静寂以外の何者でもなかったのではあるが……。彼らはこの後、一晩中このスケルトン、とでも言うべき存在と死闘を繰り広げる。後の歴史において、口悪い者達はこの事件を終わりの始まり事件、または10月の悪夢事件、などという、一部には終わりの始まりは5月のコウジの事件こそがこれに該当する、と言ったことも一部ではささやかれるのだが……、今この状況に直面している彼らには関係のないことであろう。ただ一方で始まりの始まりであると言う意見もある、ということも記載しておきたい。この永遠に続くとも思われた静寂も、結局は破綻する。先に動いたのはこの自分達の守る聖域に侵入してきた不届き者を排除しようとしたスケルトン達であったのか、はたまた任務を遂行しようと乗り込んできた彼らであったのか、答えはわからない。ただここで別の存在がこの権に関与したことは事実であった。そう、この船と、不運にも? 、一緒に向こうの? 世界から来てしまったタコだかイカだかの怪物である。地球の名前で言えばクラーケン、とでも言えばいいのだろうか。彼、あるいは、彼女がこの船に再度揺さぶりをかけたのだ。この揺さぶりにこの部屋にいた者達、と物達は戦闘を開始する。ただこの6人運が良かったことにこのスケルトン達側に落ちているM63を銃器としてではなく鈍器として使用したところにあるだろう。まあ、骨だけになって、普段人間が無意識の間にかけている躊躇というものを完全に無視して殴り付けてきたスケルトンに対応した彼らは十分に称賛に値すると思う。
「くそう、弾が当たっても死なねえぞ」
「なんだこいつら、人間の動きじゃないだろうが」
「そもそももう死んでるし、人間でもない」
「筋肉もないのになんで動けるんだ」
「知るか、口を動かさず、体と頭を動かせ、死ぬぞ」
「さがれ、扉までもどれ、カバーする」
「フラッシュバンを投げろ。後退するぞ、援護するから早くしろ」
「くそ、リロードだ、カバーしてくれ」
「カバーする早くしろ」
「全員出たな。フラッシュグレネード投げるぞ、すぐに艦橋まで後退だ」
「くそ、前にも骨野郎だ」
「まだこいつらこっちを見つけれていないぞ。訓練と同じでカバーしあえよ」
飛び交う銃弾、撃っているのは人間のみだが、飛びかかってくるスケルトン、殴りかかろうとするスケルトン、そいつらを打つ隊員、倒れるスケルトン、しかし首がとれても、腕がとれても、スケルトン達は再度立ち上がってくる。
ほぼ数十秒のうちにこれら会話と行動とまた会話がなされて彼らは淀みなく貨物室から後退していく。
そしてクラーケンがこの貨物船にぶつかった? はたまた、揺さぶった、少し前、既に辺りは暗くなり始めていた。監視、援護活動をしている2隻の日米の巡視船は当該船の後方の左右両弦で突入した部隊の帰りをまっていた。が、そろそろ光源がほしくなってきた。まあ別に暗視装置を使用してもよかったのだが。結局バーソルフがサーチライトをつけた時にそれが起きてしまったのは6人にとってさらなる不運の始まりでもあった。
「当該船が揺れて? います」
監視していた沿岸警備隊の兵士が報告する。
「なに? 波じゃないのか?」
ただこの報告は前後した2つの大きな報告によって描き消される。
そう、1つ目は船内で戦闘が開始されたという報告と、さらに続いてきた、より大きな報告である。
当該船とバーソルフの間に5本の足が出てきてバーソルフに絡み付いたのだ。一本目は船首、砲塔の前、二本目が艦橋の際砲塔の後ろ側、三本目が艦橋横に合ったサーチライト目掛けてさらにその上にあるレーダーマストに絡み付くように、四本目はヘリ格納庫の前にある煙突とヘリ格納庫の間、ファランクスの前、最後の五本目がヘリ甲板とヘリ格納庫の境であった。
「交戦の状況が要領を得ないぞ、報告は明瞭に」
突然の衝撃と衝突音さらには船体のきしむ音が鳴り響き、立っていた場所から艦長以下艦橋要員は投げ出されてしまう。そして立ち上がりながら回りを見渡す彼らの目に飛び込んできたのは吸盤のついた足であった。
「どうした、なんだこれは、ジャイアント級のダイオウイカに巻き付かれでもしたのか。振り切れ機関最大、前進全速」
頭から血を流しながら艦長は、取り合えず命令を下す。
「ダメです凄い力で押し戻されています」
操舵員は口から血を流している。多かれ少なかれ艦橋にいた者達は血を色々なところから流して入るが、一番出血が酷いのは副長であろうか、彼は目の下から血を流している。その副長は闘争心を滾らせながら、艦長に進言する。その間にも船体のきしむ音はなりやまない。
「艦長、発砲しましょう」
「それしかないか、よしやれ」
ボフォースの57㎜が咆哮する。船首に巻き付いている足に向かって、艦橋に巻き付いている足にも。ファランクスもまた唸る、煙突に巻き付いている足に。それら足はさすがに高威力の57㎜にも、連射性の良い20㎜にも耐えることは出来ず、足は打たれたところから千切れてしまった。しかし一ヶ所だけどうしても両方の砲が撃てない足があった。船体が遮蔽物となってその一本の戒めのみがとれないのだ。
「ダメです、ヘリ格納庫脇に巻き付いている足が射角外で撃てません。しかも悪いことに結構力強いです。まだ動けません」
「なんだと」
当然、この出来事はあきつしま側からも見えていた。もっとも見えていたから、といってどうこうできるとは限らないものだが。しかし見ているだけでは僚船を助けようもない。
「援護の要ありか、聞け、後ろの足が邪魔なんだろう、こっちの20㎜で狙えるぞ、と言え」
咄嗟に状況を判断した船長が命令を的確に下していく。
「日本船から支援の申し出です。こちらで撃とうかと言ってますが」
通信を聞いた艦橋員が艦長に報告する。
「射角的に少し怖いが、お願いする。と返信しろ」
少しも考えずに即答する。
「よし、支援要請受理。あのタコかイカかわからんがともかくあの足を千切ってやれ。船体の位置が変わったら発砲開始だ」
すでに動き始めていた船体は滑らかに射撃開始地点に滑り込む。
数秒の発砲のあとバーソルフと引き留めていた足が振り払われ、2隻は警戒しながら貨物船から離れていく。現代の船は横にも斜めにも動くことができる。
「なんだ? あれはなんだったんだ。とにかくあいつを警戒しながら攻撃を受けている臨検チームの援護をするぞ。足は止めるな、また巻き付かれるかもしれん」
人間危機から脱出すると原因が知りたくなるものなのかもしれない。
これがもしバーソルフの前級であるハミルトン級、且つ近代改装後、さらに兵装撤去前、であったのならソナーも、ましてやMK32短魚雷発射管すら装備していたのだが。余談ではあるがハミルトンは現在南沙・西沙諸島紛争の当事国でもあるフィリピンに海軍艦艇グレゴリオ・デル・ピラール級2隻として、白地を灰地塗り替え、中国の南シナ海への海洋進出に対抗する海軍の切り札として再度お役目をはたしている。
閑話休題。
この場合警戒しながら事態の推移を見つつ、援護もしなければならない2隻は大変そうだな、と上空のトリトンを通して見ている者達がいた。
「なんだったのだ。おい、あんなものがいるとは聞いてないぞ」
司令は横にいたブレナンに向かって呟く。
「い、いえ、私も知りませんよ」
本人も何年ぶりに狼狽えてしまったな、と思いながらなんとか答える。
「取り合えず対潜装備でP-8を向かわせるしかあるまい、か。コロラドは対潜装備なんか装備してないからな」
LCSー4コロラドは沿海戦闘艦、あるいは沿海海域戦闘艦などと訳される、一様、最新鋭の戦闘艦である。
元々ポスト冷戦型の戦闘艦開発計画3つの中の1つであった。 その内訳はDDX計画、ズムウォルト型駆逐艦、旧計画名DD21、当初スプールマンス級駆逐艦の後継として32隻! もの建造が計画せれたものの価格高騰により結局3隻! にまで削減される、という一万トン超級大型ステルス駆逐艦である。満載(すべての装備、武器、弾薬を乗せること)排水量は16014トンでサイズ的に駆逐艦というのはだいぶ憚られるものがあるのだが……。しかもどう考えても彼女達は対地攻撃能力が大きく、対空、対潜攻撃能力は限定的だからさらにそう思ってしまうのかもしれない。
そして2つ目、CGX計画、旧計画名CG21、この計画も老朽化の進むダイコンデロガ級巡洋艦、といっても本級もスプールマンス級の船体をベースに開発されたものではあるが、を更新する為に計画された防空・弾道ミサイル防衛重視の巡洋艦として19隻の建造が計画されたが、膨大すぎる開発費、技術の未成熟を理由に開発を中止されてしまった。開発には日本も内蔵するシステムの技術に協力していたらしい。もっともこの巡洋艦もズムウォルトの船体をベースに開発が検討されていたりもする。ついでに老朽化の進むダイコンデロガ級巡洋艦の更新はアーレイ・バーグ級駆逐艦フライトⅢを当てることになっている。
そして最後の計画が沿海戦闘艦 LCS である。旧計画名ストリートファイター、そこの突っ込んだあなた、本当にそう書いてるのだ。ただし意味は明確である。ネットワーク中心戦の概念に基づき、それを活用して強力な攻撃(援護)を導き、その名前の通り俊敏で攻撃的に沿岸海域を中心とした戦域の前戦で対小型艦艇、対潜水艦、機雷と戦う、というものである。思うにスト○ートファイターが好きな人間が本計画の開発に関与したのではないかとちょっと思っていたりする。本級はオリバー・ハザード・ペリー、幕末日本にきたマシュー・ペリー提督の兄である、(ついでにマシュー・ペリー ルイス・アンド・クラーク級貨物弾薬補給艦の九番艦として東日本大震災にも救援活動に参加していたりする)級フリゲート、アベンジャー級掃海艦の後継として当初55隻の建造が計画されていたが価格高騰から52隻に、性能・運用面から32隻に削減されてしまった。この小型の、今までの計画のなかでは、戦闘艦艇の最大の特徴は従来型の戦闘艦が普通搭載しているであろう対艦・対空ミサイルを搭載せず、徹底的に想定される任務に適した装備と、そのための優位性の確保のための高速性能を持つことである。え、対艦・対空ミサイルを装備しないで大丈夫か? と思ったあなた。最初は大丈夫だと思って開発したんですよ、と開発者は思っているだろう、と開発者の名誉の為に記載しておく。開発当時LCSが作戦海域においてこれらのミサイルが必要な場合、高度なネットワーク能力を活用して他の大型戦闘艦艇からの強力、高性能なミサイルの援護を受ければ大丈夫だと考えられていた。つまり、上記二つの計画の32隻と19隻の内のどれかに援護されれば怖いものなし、と思っていたのだ。 まあ、実際はさっき書いた通り、結局、ズムちゃん3隻のみになってしまったのだが……。
このLSC見た目が違う、当然能力も違う、2タイプの船体がある、ロッキード・マーチン製 LSCー1 フリーダム(奇数番号はこのタイプだ)ゼネラル・ダイナミクス製 LSC-2 インディペンデンス (偶数番号はこれ、三胴船体を持っている)だ。最初は各1隻だけ建造して試験、どちらのタイプにするか判断後量産のはずだった。しかしなにをどうとち狂ったのか性能が両方優秀だから両方採用してしまった。両方採用すると維持コストが増加するだろうに。どうもこの時点で雲行きが怪しいことになってきたな、と思っていたのだが、彼女の不運はさらに続く。対潜、対小型艦艇、対機雷に対応するためにミッションパッケージ、換装みたいなもの、例えば同じ戦闘機だが搭載するミサイルによっては対空戦闘も対地戦闘も対艦戦闘も出来るんだぜ、やったね、みたいな感じである(いわゆるマルチロールファイター、マルチロール機のことだ)、と言う形を採用し、どの状況にも対応出来るし、さらにそのお陰でコストパフォーマンスにも優れている、といった夢のようなお話であった、開発さえちゃんと出来ていれば。現在(2016年初頭)どのMPも完全に完成していないし、MPの開発費も高騰し始めてきている。さらにさらに悪いことに、元々この対小型艦艇という任務、2000年にアルカイダがイージス艦にボートで自爆攻撃を仕掛けたことに由来するのだが、目下米海軍の主要な仮想敵対勢力は南シナ海・東シナ海での海洋進出をしている中国、クリミア半島・ウクライナ問題に代表されるロシアである。敵は偽装した非力な自爆ボートではなく、強力な対艦・対空攻撃能力を持った高性能戦闘艦であるのだ。
これではいけないと米海軍も思ったのだろう、この事態を踏まえての性能・運用面からの32隻への削減だと思っている。残りの20隻は建造しない、のではなくて、昨今の状況に適合した発展型LSCを導入したいのだそうな。実際現行のLSCを作っているこの二つのメーカーは開発当初からイージスシステム付、強力な対空ミサイルであるSM-2ミサイル搭載、対艦ミサイルのハープーンも搭載したタイプもちゃかり提案していたので、それの採用にアプローチをかけるのだろう。が、イージスシステムみたいな物積むと価格の高騰は避けられない事態になること間違いなし、ならば、とHII社は沿岸警備隊のレジェンド級カッターをベースに安価、比較的、なフリゲートを提案し始めた。
イヤー、大いに脱線してしまった感があるが。話をもとに戻す。
「これが対艦任務ならコロラドでもよかったんだがな。こちらのサンプソンもステザムもまだ到着には時間がかかる。それならば近くの海域に海上自衛隊のてるづきがいたと思うが、どうだ」
司令が幕僚に確認する。
コロラドには第2次実証試験の為にノルウェーのコングスウェル社の海軍打撃ミサイルが搭載されている。
「はい。います。硫黄島東方海上海域で訓練中、だそうです」
自分のデスクのモニターを見ながら同盟軍の運用、調整幕僚がこたえる。
「支援要請を出すか。いや、現場には日本の海上保安庁の船もいるのだし、連携ぐらい取れるのではないか。しかし現場に一番近いのはてるづきなのも事実だ。こちらから要請をだせば彼らも動きやすいのではないだろうか。しかしそうなると情報が」
司令はブレナンの方を見る。
「日本政府にはある程度の情報をカバーストーリ含めて渡しております。大丈夫だと思いますが、電話をかけさせていただいてもよろしいしょうか、上司に連絡いたします」
顎に手をおきながら答える。
「すぐにしてくれ、ゴーサインがでしだい要請する。おい、要請文の起草してくれ。おい、P-8装備を整えて到着するまでどれくらいかかる」
ブレナンに応じ、彼が後ろを向き携帯で電話したのを確認するいなや幕僚に起草を命令し、またモニターを見て部下に矢継ぎ早に質問、命令していく。
「ゴーサインがでました。よろしくお願いします」
数分後電話を口を押さえたブレナンが司令に報告する。
「よし、すぐに要請しろ」
この時からさらに数十分後てるづきを示すモニターの光っている点が現場海域に向けた進路を取るのであった。
貨物室から艦橋に命辛々逃げ込み、籠城している臨検チーム。ほとんどここに逃げ込む途中で弾薬を打ち切ってしまった彼らだが、まだ諦めていないようだ。弾は集中させて、各々消火用の斧や、エントリーツール斧、電動式の大型カッター、運よく手にいれた結構丈夫な棒切れで武装している。彼らを援護したい、あるいは救出したい、バーソルフとあきつしまであったが、こちらはこちらで自分達のことで精一杯のようだ。あきつしまにも絡み付いて、案の定強力な反撃でまた足を3本もぎ取られたクラーケンは攻撃方法を水中からの体当たりに限定して頑張っている。おそらく向こうの世界ではこれでも多くの船を沈めてきた猛者なのかもしれない、足をこれほどまでに失いながら闘争心を失っていないのだから。しかしバーソルフもあきつしまも、軍艦型の船体なので、必死に浸水区画を水蜜隔壁で封印しながら、いまだに全速で貨物船から付かず離れず頑張っている。この両者の攻防も次に来た船によって、終に終止符を打たれることになる。そう、てるづきの到着である。もっとも、その数十分前には艦載の対潜ヘリが到着して攻撃しようとしていたのだが、クラーケンが2隻に近付きすぎて攻撃を断念していたのだ。
てるづきは最新鋭の護衛艦であきづき級二番艦である。主な目的は、ミサイル防衛任務中イージス護衛艦の探知能力が全力で弾道ミサイルを補足している間のイージス護衛艦の低空からの攻撃に対する護衛である。もちろん対艦ミサイルも対潜ミサイルも積み込まれているので安心してほしい。
到着する前に艦載ヘリを発進するまで、てるづき艦内はこの艦内放送とアラームで秩序だちながらも騒然とした。もちろん何時も訓練の時に聞いた言葉ではあるし、いきなり訓練航海途中に進路を変え始めたときからおかしいなと皆思っていたのだ。
CIC(戦闘指揮所)
「そろそろ現場海域だな。よし、各部対潜警戒を厳となせ」
「了解、対潜警戒を厳となします」
対潜担当のオペレーターが反応する。
「艦長、総員配置につけます」
副長が艦長に報告する。
「うん、相手がいまいちよくわからん相手だが始めよう」
頷きながらも、少し首をかしげる。
「イカかタコの足を持った全長数十メートルの怪物ですからねさぞ打ち込み甲斐があるかと思いますが、こちらの手持ちで相手できますかね」
自信無さそうに副長が尋ねる。
「まあ、始めようや、やってみて無理そうなら、考えるわ」
「了解。対潜戦闘用ー意」
副長が指令をだすとマイクを手にした部下が艦内アナウンスをする。
「対潜戦闘用ー意」
同時にアラームがカーン、カーン、カーンとなり始める。各所でヘルメットやライフジャケットを着て乗り組み員達が走りながら自分の持ち場に滑り込む。
FAJ、投射式静止型ジャマーが起動して、MOD自走式デコイとその横にある右舷68式短魚雷発射管を海に向ける為に、普段は閉じている艦側面のハッチが開く。
「対潜戦闘準備よし」
対潜担当のオペレーターが報告する。すでに大きな物音1つ聞こえてこない。
「副長、先に上げて現場を確認したい、航空機発信即時待機なせ」
「了解しました、航空機即時発信待機致します」
「うん、よろしく」
「航空機即時発信待機、準備出来しだい発艦」
マイクを握る部下が艦内アナウンスをする。
「航空機即時発信待機、準備出来しだい発艦」
ヘリパイロットの待機室にいるヘリ搭乗員がヘリ格納庫のヘリに向けて駆けていく。ヘリ甲板にはすでに整備員が慌ただしく動き、ヘリと一緒に待機している。彼らパイロット達はヘリに乗り込み、チェックリストを確認する。数分後、腹に短魚雷を抱えた愛機を重力に逆らい空中に舞い上がらす。
「アクティブ捜査始め」
対潜担当のオペレーターが復唱する。
「アクティブ捜査始め」
アクティブとは自ら音源を出して、潜水艦に当たった音波が帰ってくることによって、これを探知、さらに帰ってくるまでの時間で距離を割り出す音波探知機である。もっとも相手は潜水艦ではないので、どこまで役に立つか、という問題もあるのだが……、はてさて、どうするつもりであろうか?
「航空機より通信、目標はあきつしま、バーソルフの近くにあり。攻撃を断念、これより監視に当たるとのことです」
「ふん、面倒な、どうしようか? おい、あきつしまに連絡目標の行動パターン、気付いたことなんでもいいから教えろと要請しろ」
「了解、要請します」
クラーケンから逃げているあきつしま、バーソルフに上空のヘリの音が聞こえたときは、これでようやくどうにかなるか、とか、よし騎兵隊の到着だ、と口に出す者もいた。海軍の知識のある沿岸警備隊の士官、海軍軍人である、とあきつしまの艦長達一部はそう、簡単なもんじゃないだろうな、と思ってもいた。そして、やっぱり簡単にはいかなかった。理由は三度目なので書かない。そしててるづきからの通信が入る。
「近すぎて攻撃できないから知恵を貸せ、と言うところか。と言われてもな」
漁師でもないが、知恵を絞って考え始める。
「イカ釣り漁船みたいに集魚灯でおびき寄せますか?」
艦橋にいた一人がすぐに思い付いたように答える。
「集魚灯ですか。あれはどこかで聞いたんですが、イカはライトから逃げて船の影に隠れ、それを捕まえてるという話だったと思のです、自信があまりありませんが」
魚釣りが趣味の操舵手が返答する。
「そ、そうなのですか」
案を出した人が駄目か、とへこむ。
「アメリカさんにも連絡して誘導出来るか試してみよう。例え誘導出来ず、奴がこっちに来たとしてもバーソルフよりは大きいからな、囮にゃうってつけよ」
艦長が決断して誘導作戦が始まる。
「了解、付き合いますよ。となると上にも連絡しますか」
「ああ、たのむ」
「集魚灯でおびき寄せるのか。まあ巡視船なら海洋生物の本も積んでる、か」
なるほどなと思いながら艦長はCICで座って結果の報告を待っている。
「艦長、ダメだったそうです。怒ってサーチライトを叩き壊されたとのこと」
「あらら」
「ソナー探知、ドップラー高い、目標は……、結構大きい?」
水測員がソナー室より報告してくる。
「測的始め」
「測的始め」
復唱が続く。
「初めて聞いたわ。目標は大きいって。目標、サイズは、進路、速度、距離報告」
「えー、え、目標は大きさ50m、し、進路、3ー4ー0! 速度12、いや14ノット、なおも増速中、距離40000」
進路3ー4ー0とは、北を0ー0ー0として340°の方向に進んでいますよ、とのことである。つまりてるづきの進路は現在1ー6ー0であるのだろう。
「こっち来てるじゃないの、やけに早い? のか音源に誘われてるのかな。0-3-0ヨーソロー」
「0-3-0ヨーソロー」
艦橋にいる操舵長が復唱する。
「誘い出してVLAでとどめさすか、しかし魚雷、有効なのかね。アクティブ捜査こちらが指示する一時やめ」
「了解、アクティブ捜査やめ」
対潜担当のオペレーターが復唱する。
「魚雷は有効と思いますが」
「ふむ、あきつしま、バーソルフに攻撃するから全力で離れろと要請、送れ」
「了解」
「まあいい、やってみる、か。VLA用意」
VLA 対潜魚雷をミサイルの前方の弾頭にしてVLS、垂直式発射装置から打ち出す。ミサイルは高速で目標潜水艦の潜む海域に飛行、到達後弾頭がパラシュートで減速されながら、着水パラシュートを切り離した後、目標を撃破できるまで追いかける。
「了解、LVA攻撃行います」
「目標、進路変更、0-1-0、速度変わらず」
「追いかけてきてるな。0-9-0、ヨーソロー、MOD使用、射角215、食いついたら、VLA攻撃行え」
「0-9-0ヨーソロー」
「了解、MOD発射始め」
副長が指示を出す。
「了解、MOD発射始め」
対潜担当のオペレーターが自分の前にある操作パネルを素早く操作していく。
「射角215 発射よし」
MOD自走式デコイがやかましい音を奏でがら、水中を爆走する。
「目標進路変更3-1-5、速度26ノット」
「VLA攻撃始めます」
罠にかかりましたね、と副長が報告する。
「よし、行え」
罠にかかったな、と艦長がしてやったり顔で応じる。
「斜線方向255、射線方向クリア」
「VLA用意よし」
対潜担当オペレーターが終にLVAの発射準備完了と報告する。
「VLA用意」
「てー」
「てー」
発射のタッチパネルを押す。
ジリジリジリとベルが鳴り響いたあと、艦橋前にあるVLSから07式垂直発射式魚雷投射ロケットが翔んでいく。
「VLA飛翔」
「VLA発射終わり」
「VLA発射終わり」
「VLA弾着」
「了解」
数分後軽い爆発音が水面を揺らす。
「攻撃効果の確認を行え」
現場に急行していたヘリが暗い海面を必死になって確認する。
「ウェイト アンド アウト」
ちょっと待って、今調べるから、交信終わり、といったところであろうか。
「あー、現場海域に大量の肉片確認」
数分後ヘリから交信が入る。
「艦長、弾着地点に大量の浮遊物を確認しました、撃沈したと思われます」
やりましたね艦長、と副長が顔で会話してくる。
「了解」
やったな副長、と艦長も返す。
「VLA攻撃やめ」
「VLA攻撃やめ」
対潜担当オペレーターが復唱する。
「目標、破壊したそうです」
あきつしまの艦内はこの通信に喜び沸き立つ。
「おいおい、まだ当該船の臨検チームは戦闘中だよ。が、ようやく鬼ごっこから解放されたか」
艦長は諌めながらも嬉しそうだ。
「バーソルフから通信、本船損害多数、臨検チームの回収を要請したい、とのことです」
ここにバーソルフからの通信が舞い込んでくる。
「了解、そちらも救助の要ありか、と尋ねとけ」
通信用のレシーバーを片手に持った通信員が英語で早口に聞いていく。
「要なしとのこと、臨検チームを是非救助してほしいとのことです」
「よし、複合挺用意、SSTを中心とする特別警備隊(海保の機動隊みたいなもの)を含む臨検隊はヘリ甲板へ、急げよ」
数分後両舷の複合挺があきつしまから離れ、貨物船ラッシュモアに近付いていく。
「よし、最初は我々がいく。お前達はこちらの合図があったら乗船、艦橋にいる隊員の救護を優先しろ」
目付きの厳つい男が部下に指示を飛ばす。全員89式小銃、折曲銃床式になっている、を装備して、さらに特別警備隊、以後特警隊とする、の2人はレミントンM870ショットガンを装備、ポリカーボネード製の盾をと折り畳み式の警棒まで複合挺に持ってきている、格闘する気、満々かもしれない。
終に縄梯子が船にかけられ、隊員たちが、1人、1人、また1人と上っていく。
SSTの全員が登り終わると8人は4人づつに別れて。回りを警戒する。一様、なんの音も聞こえないようだ。
「よし、上がってこい」
特警隊の面々も全員乗船して回りを警戒する。終に盾と警棒も船上に引き上げられる。
「特警隊の第1小隊はここを維持、第2小隊は俺達の後ろを合図を待って、付いてこい」
「了解」
ハンドサインを交わしながら、SSTの面々は艦橋下の扉に近づき中に入っていく。
クリアリングをしながら、また貨物室に繋がっていると思われる扉を閉鎖しながら艦橋までの道を着実に進んでいく。
後もう少しで艦橋にいくための階段の前というところで、彼らは1体のスケルトンと遭遇する。
彼らはハンドサインをして、タイミングを会わせ、一気に近づき、そのスケルトンをの両腕を各々の隊員が固定もう一人の隊員がタコ殴りにしてスケルトンを骨の塊にしていく。案外、野蛮な戦いかたである。
「ふん、簡単だなつまらん」
ボソッとタコ殴りにしていた隊員、いや目付きの厳つい隊長だった、が離れる。
次にこの野蛮人の集団、に出会ったのは8体のスケルトンだった。今度は銃を撃つのか、と思いきや、彼らはまさかの釣りだしをはじめてしまった。
まさかそんなのに引っ掛かる人間は、そうだ人間じゃなかったわ、これ。
まんまと釣り出されてしまった不運なスケルトンは1体、1体また1体と数を減らしていく。
結局2体以上同時にこっちに来なかったので彼らは消耗することなく艦橋にたどり着いてしまった。
「前まで来たぞ、バリケードを退けてくれ」
バリケードに向かって隊長が話しかける。
「わかった、今どける少し待て」
扉の向こうから籠城している彼らの命綱であった、バリケードをどける音がする。
「ようやく援護が来たか、ありがとう、銃声はしなかったがスケルトン達はいなかったのか?」
アメリカ側臨検チームの隊長が疲れはてた顔をしながら聞いてくる。
「9体ほどであったがすべて始末した。これで」
と折り畳み式の警棒を見せる。
一瞬アメリカ側に間が空いたが、TACLTの隊長はなんとか納得して引き継ぎをしようとする。
「そ、そうか。いや、我々も弾薬がもう切れたも同然だったから、同じことをしようとエントリーツール等で待ち構えていたからな、それどころか拾ったモップまで使おうとしていたしな、本当にありがとう。それより無線では報告してないのだが厄介なことが沢山この船には眠っている、スケルトンはその一つにすぎないんだが、任務に取りかかる前にこんなことを言うのもなんなんだが、これを見てほしい」
一冊の手帳をSSTの隊長に見せる。
「これを見るとこの船の異様さが理解できると思う、命令はどう受けた? 」
「この船を南鳥島に移送するために内部の敵対勢力の排除とあんたらの救出、そしてこの船の護衛だ」
それ以外は受けてないぞ、と思いながら見返す。
「すまない、こんなことを聞いて気分を悪くしたか? そう命令を受けたのなら後は任せるぞ、よろしく頼む」
う、別にこの目付き生まれたときからなんだけどなー、と思った隊長であったが、早く彼らを休ませてやろうと特警隊に肩を貸して引き返すように指示をだす。
結局行きと同じようにSSTが先頭にたって来た道を彼らを護衛して縄梯子まで、途中不運なスケルトン2体を瞬札しながら帰ってきた。
彼らの退艦を見届け残ったSSTと特警隊の面々は、貨物船ラッシュモアのスケルトン掃討を開始、数に勝るスケルトン達を連携と格闘で屠っていったのであった。
あきつしまの艦長から途中朝になったらスケルトンも消滅いや骨に戻るのではないのかとアドバイスをもらっていたが、
「それは待機しろと言うことでしたら待機しますが、私1人でもいいから突っ込みたい気分です」と冗談か本気かわからない応答をして、艦長を困らせていた。部下達はそんな命令されたら黙って突っ込むだろうなと思っていたとか思っていなかったとか。
結局、朝になるまでにすべてのスケルトンを倒しきり、実は朝になったら骨になったらどうしようと思って早めに倒したのだと後に隊長は語る、回航準備が昼飯がそろそろだろうかなと思う時間に整い、ラッシュモア、あきつしま、てるづき、バーソルフそ4隻は真ん中にラッシュモアを取り囲むように南鳥島に向けて出向した。この船は次の日正午を少し過ぎた辺りで、南鳥島に到着。南鳥島にたまに来る船が停泊する沖合いに動かされた。その後、米海軍の大型補給船が横付け、なにかを大事そうにに運ぶ姿を南鳥島に居た飛行場を管理する海上自衛隊の自衛官、気象庁職員、国土交通省職員が見ていたのだそうだ。さらに数日後、珍しく米軍機が到着し、一団20人ほどの集団が降り立ち護衛している米軍艦艇からの迎えのヘリに別れて乗っていった。そのなかには彼らチャールズ・モーガン、リチャード・ローガン両教授の姿もあった。他にも赤い髪のサングラスをかけた女性が彼らから離れるようにこそこそといたのだとかいなかったのだとか。その彼らも1週間程で全員、機上の人となった。
「ついに始まったわね」
ラッシュモアの艦橋で赤い髪の女性が誰かと話している。もう一人は男の子のようだ。
「そうですね、ついに始まりましたね。これが吉とでるか、凶とでるか」
「しかし少し早いような気もするわ」
「それほどの誤差ではありませんよ、我々はすでに4000年待ったのです。これぐらいは誤差の範疇ですよ。それより気になるのは向こうの動きでしょう。少々急かしている気もします。」
「そうね、彼らは、保険だからね」
「セセミンターに敵対して、あなただけが帰ってきたときに決めたことですが、私はありとあらゆる可能性を考慮にいれて計画したつもりです」
「わかっているわ。この質量を利用しない手はないんじゃなくて? 計画を早めて、日本にいった方がいいかしら」
「そうですね。かの世界への扉を開く絶好のタイミングです。しかし日本はなにか我々に縁があるのかもしれないですね」
「そうね、こんどはしくじらないわ、彼らももうすぐ帰還することだしね」
「彼らの帰還が先か、セセミンターが来るのが先か、ですか」
「だからこその保険よ、帰ってきたら困ったような顔するでしょうね、彼。自分の同胞まで利用するのだから」
「しかし、負けるわけにはいきませんから、ね」
「そうね。さてとそろそろ行くわ。3、4ヶ月で帰れると思うから、あのおばさんにも連絡よろしく」
「わかりました、御武運を」
彼女が出ていってヘリに乗り込むのを確認した後、男の子はため息をつきながらこう呟く。
「早く帰ってきてくださいよ、自分にはこの責務は重すぎますよ、コウジ殿、シャムシ・アダド。僕はもう疲れました」
彼も数分したのち、迎えのヘリを呼びこの船から飛び立っていく。
その後、当該船の消息は不明である。