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プロローグ
レイ領では近年稀に見る程長雨が続いていた。
領内の山間の村を通る主要路が土砂に埋もれて村が孤立無援状態になったという。
領主である父は村を視察に行った帰りに新たな土砂崩れに巻き込まれ、亡くなった。
ローランドはその知らせを学院で受け取った。
身体が震えて目の前が真っ白になった。
(嘘…だろ、こんな……)
最後に交わした言葉はなんだった?
ひと月ほど前、新年の休暇を終えて学院へ戻る日の朝、玄関ホールで笑顔の父親に旅立ちの挨拶をしたことを思い出す。
『身体に気を付けてしっかり学びなさい』
『はい、父上。では行ってまいります』
なんてことのない、こんな別れなど想像すらしていなかった日常の風景。また次の休みには色々と教えて貰おうと当然のように思っていた。
まさかあれが最期になるなんて。
ローランドは立ちくしたまま、動くことが出来なかった。




