063 書簡
親愛なるローランドへ
お元気ですか?
早いもので、ヴェネトでの生活も半年が過ぎ、大分こちらでの生活に馴染んできました。
学院での勉強はとても有意義で楽しいし、先生方も親身になって教えてくださるので頑張れます。
でも一番はセレスティアのお陰です。
彼女は男装の似合う王子様のような女の子よ。とても楽しくて可愛い人です。いつかローランドにも会わせたいな。きっとローランドも彼女を気に入ると思います。でも、見惚れちゃダメだからね。
彼女には私が小説を書いていることを見破られてしまいました。この間書いた小説は彼女をモデルにしています。それが元でバレてしまったの。
今では一番の読者であり、厳しい評論家でもあります。アマンダ先生と気が合うようで、二人で私の書いた小説について延々と楽しそうに語り合ったりしています。そんな時は私は蚊帳の外に置き去りにされてしまったような心地です。
この間は、精霊節というお祭りで精霊の恰好をしました。背中に翅を纏うのよ。街中精霊で溢れて、とても神秘的だったわ。その日は一瞬でもすれ違った人と出会いを祝して乾杯するの。
街中の人が仲良くなれてとても素敵なお祭りでした。
今まであまり喋ったことのなかった学院の生徒たちとも打ち解けることができたわ。
留学生活は充実しているけれど、ローランドに会えないことが淋しい。春休みがとても待ち遠しい。早くローランドに会いたいです。
貴方のアデレイドより
*
アディへ
手紙ありがとう。
元気そうでよかった。留学生活も楽しんでいるみたいで安心しました。
アディの精霊姿、見たかったな。帰国した時に見せてね。
僕も元気にしているよ。
夏休みに実家に帰って領地を回りました。そろそろ領地経営について本格的に学んでいかないといけない時期だからね。
ジャレッドと一緒に二人で各地の村長に挨拶をしてきたんだ。
屋敷に戻ってからは父上から様々なことを学んでいます。
週末にはデシレー領へ行ってジェル兄からも色々教えて貰ってる。歳の近いジェル兄の話はとても参考になるよ。
ジェル兄もデシレーご夫妻も変わりないけれど、やっぱりどこか淋しそうだったよ。アディのいないデシレー邸は火が消えたように静かで。
ここだけの話だけど、セディ兄は帰省して二日でアディがいないことに耐えられないと言って王都に戻ってしまったんだ。セディ兄はクールに見えて実はとっても淋しがり屋だよね。
勿論僕も淋しい。でも今はアディを守れる頼りがいのある大人の男になるために精進する時だと思っているから頑張れるよ。
アディも留学先で頑張っているのが分かるからそれも励みになっている。
僕も春休みが待ち遠しい。
君を迎えに行きたいくらいだよ。エリスティアとヴェネトの真ん中の町で落ち合えば少しは早く会えるね。
アディ、身体に気を付けてね。
いつも君のことを想っている。
ローランド
*
(兄さまったら……)
ローランドからの手紙を読んでアデレイドはくすっと笑った。セドリックは学院卒業後は大学院へ進学する予定なのでその研究で忙しいという事情もあるのだろうが、アデレイドが屋敷で待っていれば何を置いても飛んでくる勢いで帰って来ていた。怜悧な美貌と美しい所作が冷静で物静かな印象を与えるが、内面はジェラルドよりも情熱家かもしれない。思い出すと途端に会いたくなる。アデレイドは軽く頭を振ってその気持ちに蓋をする。
春休みまでの辛抱だ。
(ローランド、領主の勉強頑張ってるのね)
婚約者の頼もしい言葉に自然と頬が染まる。
(真ん中の町で落ち合って観光とかも楽しそう!)
アデレイドは地図を広げて道を指で辿り幾つかの町を見繕う。見知らぬ街をローランドと一緒に過ごすと考えるだけでわくわくしてくる。
(遺跡の町とかいいかな。ローランド好きそう)
明日、セレスティアに街の情報を教えて貰おうと決めてベッドに入った。その日は幸せな気分で眠りにつくことが出来た。
手紙はローランドのレイ領へと送られてから学院へと届けられるため、アデレイドが投函してからローランドの手元へ届くまで早くても四週間はかかる。
アデレイドは沢山手紙を書いた。ローランドからも直ぐに返事が途切れることなく届いた。
週末にセレスティアと一緒に城下町を散策したこと、その際アデレイドは町娘の格好、セレスティアは青年の格好だったこと、店の売り子にセレスティアが告白されたこと。
課外学習でヴェネトの南の港湾都市へ一泊二日で旅行したこと、そこで食べた海鮮料理がびっくりするほど美味しかったこと。女子学生全員でお揃いの髪飾りを購入したこと。セレスティアも「髪が短いから着けられないよ」と言いつつも皆に押し切られて買ったことなど。
アデレイドは城下町で見つけたお気に入りの青いインクで手紙を綴った。とても趣のある老舗の文具屋で、便箋やカードも豊富に取り揃えており、アデレイドはじっくり時間をかけて幾つかの便箋を選んだ。それはとても心躍る時間だった。
留学生活は順調で楽しく、書くことが沢山ある。けれど同時にローランドに会って直接話したいという欲求もじわじわと膨らんでいた。
(ローランドからの返事……早く届かないかな)
日中は慌ただしく過ぎて行くため意識下に眠っているが、夜眠りにつくときには淋しさが胸を衝く。それは日に日に大きくなっていくようだった。
アデレイドは既に身体に馴染んだ首飾りのトパーズをそっと握りこんだ。目を閉じると、金色の瞳で優しく自分を見つめてくれる大好きな婚約者の顔が浮かぶ。
(春休みまであとちょっと……)
今はその日を指折り数えて恋しさを我慢するのだ。
に、2か月連続更新!(ぎりぎり!)
遅くてすみません。待っていてくださった方、ありがとうございます。
感想くださった方々も本当にありがとうございます!←糧になってます。
なかなかお返事できなくてすみません。




