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もう、恋なんてしない  作者: 桐島ヒスイ
第二部

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番外編

奇跡のブクマ5000件!ありがとうございます。

時間軸としては030話後あたりのお話です。

(アデレイド10~11歳頃)




※ローズがアデレイドの母親でヒルダがローランドの母親の名前です。


「将来子供が生まれたら結婚させましょうね」と約束していたローズとヒルダ。


 ある日の二人のお茶会での会話。ガーデンテラスにて。

「それにしても、アディが女の子でよかったわ~。年齢的に、ローランド君とぴったり」

「あら、別にジェラルド君が女の子でもよかったわよ?ローランドよりちょっぴり年上だけど、上過ぎというほどでもないし」

「えぇ?そうかしら…。ジェラルドは今17歳で、ローランド君は13歳。…学院での先輩と後輩…。お姉さまと、弟扱いしかして貰えないローランド君の葛藤…うん、いいわね」

「ローランドが女の子だったら、ジェラルド君とセドリック君、どっちがいいかしら~。包容力のあるジェラルド君が一押しだけど、セドリック君も捨てがたいわ。クールなところがいいわよね」

「ローランド君が女の子…。可愛いわ~。いいわ、いいわ。ドレス似合うわね。うちのアディは何故かドレスを着なくなってしまったし、こうなったらいっそローランド君にドレスを着てもらおうかしら」

「あら、倒錯的。それも悪くないわね」


 建物の陰から二人の話を聞いていたアデレイドとアマンダ。

「お、奥様方…、なかなかに濃い会話を…」

「ローランドが女の子……」

 アデレイドの頭の中で、物静かで理知的な女の子・ローラと、やんちゃだけど包容力のある少し年上の幼馴染みジェルドの恋物語が動き出す。ジェルドの弟・セシルは兄の婚約者であるローラのことを密かに好いているが、二人の仲が良いので言えない。

 後に物語は出版され、乙女たちに熱狂的に支持された。特に切ない恋をしているセシルに人気が集まった。


 本を読んだ三人の感想。

「アディ…。この話…、ローラって…」

「ごめんなさいセディ兄さま。でも、安心して!世の乙女たちの九割はセシルの味方だから!次はセシルを幸せにするから」

「いや、ごめんなさいとか言われても…」

 ローランドとジェラルドは無言だった。

「………………」

「………………」

 ジェラルドはちょっと遠い目をしていた。ローランドはちょっと涙目だったかもしれない。

 道理で最近、自分たちを見るローズとヒルダ、侍女たちの様子が妙だったわけだ。

「アディ…?これはちょっと、お仕置きが必要かな…」

 ジェラルドが不穏にニヤリと笑った。アデレイドはびくりと背筋を震わせた。

「に、兄さま…?」

「ジェラルド・セドリック・ローランドの三兄弟と、幼馴染みのアデレイド。さて、アデレイドは三人の中の誰を選ぶ?」

「えぇ!?」

「返答次第では、厳しいお仕置き。誰にする?」

 ジェラルドが楽しそうに言う。セドリックも頷いた。

「次こそはセドリックを両想いにしてくれるんでしょう?」

「アディ、アディは僕の婚約者だよね」

 ローランドまで参戦してきた。

 ずずいと三人に取り囲まれて、アデレイドは降参した。

「ごめんなさい、もう兄さまたちをモデルにはしません~」

「その答えじゃ不合格。お仕置き決定だな」

 アデレイドの顔が蒼褪めるが、ジェラルドは容赦しなかった。


***


 お仕置きは全身くすぐりの刑だった。

 アデレイドは涙が出るほど笑いこけた。


「選べないよ…」

 笑い疲れて、先に眠ってしまったアデレイドがむにゃむにゃと何かを呟いている。

 ジェラルドはそのほっぺたをつんつんと突いて溜息を落とした。

「全く…。こんなあどけない顔して、なんて物語を書くんだ」

「僕たちがアディと兄弟じゃなかったら、アディは誰を選んだだろうね」

 セドリックの言葉に、ローランドはドキリとしてアデレイドの寝顔を見つめた。

(アディの婚約者は…僕だ)

「おいおいローランド、そんな顔するなよ」

 ジェラルドがにやにやしてローランドの頭をぐりぐりと撫でる。

「もう…、やめてよジェル兄」

 ローランドの髪は強めの癖毛だ。ぐりぐりと撫でられて、折角梳かした髪があちこち飛び跳ねている。

「心配しなくても、俺にとっちゃアディは可愛い妹だよ」

 多分兄妹じゃなくてもなー、とジェラルドは愛しそうにアデレイドの髪を撫でた。

 ローランドはほっとした。しかしセドリックの発言に固まった。

「ふーん、兄さんはそうなんだ。僕はアディのこと、好きだよ」

 セドリックはにやりと意地の悪い笑顔を浮かべた。

 ローランドはだらだらと冷や汗をかいた。

(セディ兄は僕をからかってるだけだ、絶対そうだ)

「僕たちはライバルだったかもね?」

「………………」

 追い詰められたローランドは暴挙に出た。

 ローランドは眠っているアデレイドを抱きしめると、ずるずると寝台の端に引きずって行った。

「アディは渡さない!!セディ兄の毒牙から守る!!」

 ちょっと涙目だ。

「おい、ローランド、セディのは冗談だって…」

「ローランド、アディが起きちゃうでしょ」

 二人は焦った。ちょっとからかいすぎた。その時、ローランドの腕の中でアデレイドが目を覚ました。

「ん…、ろーらんど…?」

「アディ、安心して。アディのことは僕が守るから」

 アデレイドは何のことかよくわからなかったが、寝ぼけていたので頷いた。

「うん…、なんかろーらんど、かっこいい…。きしさまみたい…」

 それは最近アデレイドがアマンダから借りて読んだ、姫と騎士の物語の登場人物のことだ。

 格好いいと言われて、ローランドは顔が赤くなった。アデレイドはにっこりと微笑んだ。

「きしさまには、きすをあげるの」

 そう言ってアデレイドはローランドにちゅ、と口付けた。そのままパタリと眠りに落ちる。

「……………………!!」

 恐らくアデレイドはローランドのほっぺたに口付けをしたつもりだろう。だが、丁度タイミングよく(?)ローランドがアデレイドに顔を向けたため、その唇はローランドのそれに重なったのだった。

 ローランドの顔は林檎よりも真っ赤になった。

「あ―――……」

「ローランド…、誰の毒牙から守るって…?」

 低い低い声が響く。

「なんで今顔動かしたのローランド?確信犯なの?だとしたらお仕置きだよ?」

「ぐ、偶然!!全然そんなつもりは…」

 セドリックの顔が怖い。ローランドの顔が蒼褪めた。

ジェラルドは無駄だと思いつつも一応セドリックを宥めにかかった。

「どう見ても今のは不慮の事故だろ。ローランドにそんな故意が出来るはずない…」

「兄さんは黙っていて」

 ぎろりと睨まれて、ジェラルドは口を噤んだ。こうなっては誰にもセドリックを止められない。実はジェラルドよりもセドリックの方がシスコン度が重症だった。



 その後、休みが明けて学院へ戻るまで、ローランドはアデレイドに近付くことが出来なかったのだった。













アディが無自覚なのでノーカウントだと思っています。

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