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もう、恋なんてしない  作者: 桐島ヒスイ
第一部

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小話2


 その日、王宮では第三王子の十五歳を祝う盛大な宴が開かれていた。

 王族で十五歳になってもまだ婚約者がいないということは珍しかった。その宴には十五歳以上の貴族の子女のほとんどが出席していた。

 独身の娘のいる者は例外なく王子の婚約者の座を狙っていた。まだ幼く夜会に出席できない年齢の娘を売り込もうと絵姿を持参する者もいる。

 オズワルドの横には従姉妹のエリザベスが立っていた。

「オズ兄さまも大変ですわね」

 エリザベスはまだ十四歳だが、婚約者のいないオズワルドのパートナーとして特別に出席しているのだ。

 家柄や身分、年齢などから今のところエリザベス以上にオズワルドと釣り合う令嬢は見当たらない。

 オズワルドが初恋(肖像画のレオノーラ)を諦めさえすれば、エリザベスとの婚約がほぼ決定するといってもいい。ただし今のところオズワルドが『レオノーラ』探しを諦める気は皆無だった。

 そんな我儘が許されるのも、オズワルドが第三王子という気楽な身分のためだ。

 オズワルドには二人の兄がいる。二人ともそれぞれ優秀で、歳は長兄の王太子がオズワルドの十三歳上、次兄が十歳上だ。

 二人とも既に結婚しており、王太子には三歳になる息子がいる。次兄にはまだ子はいないが王位がオズワルドに転がり込んでくる可能性は限りなく低い。


 オズワルドは会場内を見渡し、内心小さく失望の溜息を吐いた。

 銀髪の令嬢は一人もいない。紫紺色の瞳の令嬢も。柔らかな金髪の令嬢や、深いブルーの瞳の令嬢などはいないこともないが、瞳が菫色だったり、黒髪だったりと、オズワルドの望む組み合わせではないため、心に響かない。

「バカですわ。令嬢を外見だけで判断するなんて。話してみれば気の合う方もいるでしょうに」

 オズワルドと踊りながら辛辣な意見を突きつけてくるエリザベスに、オズワルドも返す言葉がない。

「一番可能性の高いグランヴィル家に現在姫がいないことがすべてですわね。諦めたほうがよろしいわ。将来的にサイラスさまにお子が生まれれば、可能性はあるでしょうけれど」

 待てますの?と目だけで問われて、オズワルドは苦笑した。

 待つことならいくらでも出来るが、サイラスが自分の娘をオズワルドに嫁がせるはずがない。

「…ジュリアンやクライヴ、…アールの例がある。…だから絶対に『レオノーラ』はいると思う…」

 オズワルドは目を伏せた。エリザベスにはどういう意味か分からなかったが、オズワルドが『レオノーラ』探しを諦める気がないことを悟ってやれやれと溜息を吐いた。


 オズワルドは探しても見つからないなら、相手に探して貰うというのはどうだろうと考えた。幸いにも(?)自分は王子だ。今までは幼かったため、公衆の前に出ることはなく、オズワルドの容姿もそれ程有名ではない。だが、十五歳を過ぎた今ならば徐々に公務も増えていくだろう。それに伴いオズワルドの容姿の噂も人々の口の端にのる機会も増えるだろう。

 やがてそれはどこかにいる『レオノーラ』にも届くのではないか。エルバートにそっくりな王子の存在が。

(『レオノーラ』は…『エルバート』に会いたいと、思ってくれるだろうか…)

 オズワルドの瞳はここにはいない令嬢を探して彷徨うのだった。






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