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もう、恋なんてしない  作者: 桐島ヒスイ
第一部

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48/98

小話


 アデレイドは四歳のとき、二対のうさぎのぬいぐるみを作って貰った。

 ひとつは雪のように白い毛並みに紫紺色の瞳のぬいぐるみ。もう一つは緑がかった茶色に金色の瞳のぬいぐるみ。瞳はそれぞれ本物の宝石を使っている、豪華な逸品だ。名前は『アディ』と『ローランド』。

 アデレイドはローランドの誕生日に『ローランド』をプレゼントするつもりだった。お揃いのぬいぐるみを贈りたかったのだ。

 ところが、二対のぬいぐるみを見たローランドは、『アディ』を気に入ったようだった。

「この子がいいな」

 アデレイドは驚いたが、今日はローランドの誕生日だ。普段だったら「ダメ、それはアディの」と言ったかもしれないが、ぐっと我慢した。

「…だいじに、してね」

 自分の分身のように感じていた『アディ』をローランドに手渡した。ローランドは『アディ』を受け取るとふわりと微笑んだ。

「大事にするよ。ありがとう、アディ」

 アデレイドはローランドが嬉しそうに笑ってくれたことに嬉しくなった。

「アディは『ローランド』を可愛がってやって」

 ローランドは『ローランド』をアデレイドに手渡した。アデレイドは『ローランド』をぎゅっと抱きしめた。

「うん。まいにちおはようとおやすみのキスをするの」

 ローランドは微笑んだ。ちょっと羨ましそうに。

「…『ローランド』になりたい…」

「?ローランドはローランドでしょ?」

 アデレイドは『ローランド』ごと、ローランドに抱きしめられた。



 うさぎの『アディ』は現在ローランドの寮のクローゼットにこっそりと隠されている。

 突発的に級友が部屋に来た時に見つからないようにしてあるのだ。ローランドは誰にも『アディ』を触らせるつもりはない。見られるのも嫌だ。でも手元に置いておきたかったのだ。

「『ローランド』なら、置いてきたかもな…」

『アディ』にして良かった、とローランドは独り言ちて微笑んだ。『ローランド』だってアデレイドの側に居たほうが幸せだろう。



『ローランド』はアデレイドの部屋に専用の椅子を用意されて鎮座している。

「おはよう、『ローランド』」

 幼い頃の約束通り、日課の挨拶をする。いつもはそれだけだが、今日は『ローランド』を抱き上げると、『ローランド』が座っていた椅子に腰を下ろした。

 夏休みが終わってローランドは王都へ行ってしまった。楽しかった時間の後は淋しさが際立つ。アデレイドはぎゅっと『ローランド』を抱きしめた。

『ローランド』の金色の瞳はローランドのそれとよく似ている。

「『アディ』はローランドの寮にいるのよね…」

 この間デシレー邸に遊びに来ていたローランドは『ローランド』を見つけて嬉しそうにしていた。アデレイドが『アディ』のことを聞くと、照れくさそうに教えてくれたのだ。

 寮にまで連れて行ってくれていたと知って、アデレイドは嬉しかった。

(大事にしてくれていたんだ)

 自分の分身を。

 思い出して、ちょっとにやけてしまう。もう一度ぎゅっと『ローランド』を抱きしめてアデレイドは立ち上がった。

「補填完了!」

 自分の元に『ローランド』が居てくれて良かったと思いながら。







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