小話
アデレイドは四歳のとき、二対のうさぎのぬいぐるみを作って貰った。
ひとつは雪のように白い毛並みに紫紺色の瞳のぬいぐるみ。もう一つは緑がかった茶色に金色の瞳のぬいぐるみ。瞳はそれぞれ本物の宝石を使っている、豪華な逸品だ。名前は『アディ』と『ローランド』。
アデレイドはローランドの誕生日に『ローランド』をプレゼントするつもりだった。お揃いのぬいぐるみを贈りたかったのだ。
ところが、二対のぬいぐるみを見たローランドは、『アディ』を気に入ったようだった。
「この子がいいな」
アデレイドは驚いたが、今日はローランドの誕生日だ。普段だったら「ダメ、それはアディの」と言ったかもしれないが、ぐっと我慢した。
「…だいじに、してね」
自分の分身のように感じていた『アディ』をローランドに手渡した。ローランドは『アディ』を受け取るとふわりと微笑んだ。
「大事にするよ。ありがとう、アディ」
アデレイドはローランドが嬉しそうに笑ってくれたことに嬉しくなった。
「アディは『ローランド』を可愛がってやって」
ローランドは『ローランド』をアデレイドに手渡した。アデレイドは『ローランド』をぎゅっと抱きしめた。
「うん。まいにちおはようとおやすみのキスをするの」
ローランドは微笑んだ。ちょっと羨ましそうに。
「…『ローランド』になりたい…」
「?ローランドはローランドでしょ?」
アデレイドは『ローランド』ごと、ローランドに抱きしめられた。
*
うさぎの『アディ』は現在ローランドの寮のクローゼットにこっそりと隠されている。
突発的に級友が部屋に来た時に見つからないようにしてあるのだ。ローランドは誰にも『アディ』を触らせるつもりはない。見られるのも嫌だ。でも手元に置いておきたかったのだ。
「『ローランド』なら、置いてきたかもな…」
『アディ』にして良かった、とローランドは独り言ちて微笑んだ。『ローランド』だってアデレイドの側に居たほうが幸せだろう。
*
『ローランド』はアデレイドの部屋に専用の椅子を用意されて鎮座している。
「おはよう、『ローランド』」
幼い頃の約束通り、日課の挨拶をする。いつもはそれだけだが、今日は『ローランド』を抱き上げると、『ローランド』が座っていた椅子に腰を下ろした。
夏休みが終わってローランドは王都へ行ってしまった。楽しかった時間の後は淋しさが際立つ。アデレイドはぎゅっと『ローランド』を抱きしめた。
『ローランド』の金色の瞳はローランドのそれとよく似ている。
「『アディ』はローランドの寮にいるのよね…」
この間デシレー邸に遊びに来ていたローランドは『ローランド』を見つけて嬉しそうにしていた。アデレイドが『アディ』のことを聞くと、照れくさそうに教えてくれたのだ。
寮にまで連れて行ってくれていたと知って、アデレイドは嬉しかった。
(大事にしてくれていたんだ)
自分の分身を。
思い出して、ちょっとにやけてしまう。もう一度ぎゅっと『ローランド』を抱きしめてアデレイドは立ち上がった。
「補填完了!」
自分の元に『ローランド』が居てくれて良かったと思いながら。




