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もう、恋なんてしない  作者: 桐島ヒスイ
第一部

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45/98

042

 長い睫毛に縁どられた少しつり気味の水色の双眸がオリーブ・グリーンの髪と金色の瞳を捉える。

 心配そうに自分を見つめているのは今の自分の主のローランドだと気が付く。

「ローランドさま…」

 口から出た声は酷くしゃがれていて、しかもうまく声が出せずに小声になってしまった。けれどローランドはふわっと微笑んでくれた。

「よかった、ジャレッド。…ずっと目を覚まさないから心配したよ」

 ジャレッド、と呼ばれて、やっとそれが今生の自分の名であることを思い出す。

「俺、は…」

 ジャレッドが「俺」と言ったことにローランドは微かに違和感を覚えたけれど、顔には出さずに優しく話しかけた。

「…突然倒れて三日間、高熱にうなされていたんだよ。喉がかわいてない?水があるよ」

 ジャレッドはこくりと微かに頷くと起き上がろうとしたが、うまく身体に力が入らず起き上がれなかった。ローランドはもう一度身体を起こそうとするジャレッドの背に手を当てて彼が起きるのを助けた。そして水の入ったグラスをジャレッドの口元に宛がう。今のジャレッドには水の入ったグラスを持てる体力すらないように見えたためだ。

 ジャレッドが一口飲んだのを確認すると、ローランドは嬉しそうに微笑んだ。

「待ってて。今医師を呼んでくるから」

 ジャレッドは主に世話を焼かれている自分の不甲斐なさに歯噛みした。なんて情けない。

 そんなジャレッドに気付いたローランドは微笑んだ。

「ジャレッド、そんな顔しないで。疲れがたまっていたんだよ。それに気付いてあげられなかったのは主の僕の責任だ。ごめんね。今はゆっくり休んで」

 ジャレッドは呆然としたように目を見開いていた。ローランドの言葉がゆっくりと心に染み込んでいく。ジャレッドは俯いてぎゅっと両手で自分を抱きしめた。

 ローランドは扉を開くとすぐそこにいたらしい青年に声をかけた。

「トマス、医師を。ジャレッドが目を覚ました」

 それから程なくして医師と食べ物を持ったメイドがやって来て、あれこれとジャレッドの世話をやいてくれた。ジャレッドは少しだけお粥を食べたあと、また眠りについた。





 ジャレッドはアールがエルバートの元を去った後、どうなったか記憶が曖昧でよく覚えていない。

 でも碌な死に方じゃないことは確かだ。

 そのまま記憶は今生の幼少期に繋がる。母親はどこかの貴族のお屋敷のメイドをしていたらしい。その後屋敷を追い出され、貧民街に身を寄せた。

 貴族の主人の手がついてジャレッドが生まれたのだ。だがそのことを知った正妻に追い出された。母親は亡くなる直前、一人取り残されるジャレッドのことを案じて家族に縋った。家族はずっと、行方をくらませた娘を探していた。だが母親の両親は既に亡くなり、残っていたのは母親の従兄弟に当たるグレアムだけだった。そうしてジャレッドはグレアムに引き取られ、ローランドの従者になったのだった。




 アデレイドはジャレッドと対面することを躊躇していた。

(レオノーラ、嫌われていたしね…。病み上がりのジャレッドを刺激するのは良くないし)

 けれどいつかは対面しなくてはならない。ローランドの従者なのだ。大切な人の従者とは仲良くなりたい。でも相性というものがあり、それが悪ければどうにもならないことを既にアデレイドは知っていた。

 人の気持ちは無理矢理変えられない。レオノーラはなんとかアールと仲良くなりたくてかなり無茶もした。けれどそれは逆効果だった。

(靴とか投げちゃって…あれで増々嫌われてしまったわ。…当然か)

 レオノーラもこどもだったので、少々むきになったのだ。

(ジャレッドにも嫌われちゃうのかな。それは嫌だな)

 でも仕方ないのかもしれない。レオノーラはアールにいろいろやらかしている。

(今度こそ、穏便に。友好的に)

 アデレイドはジャレッドが嫌がるようならなるべく距離を置こうと決めた。


 ジャレッドの熱も下がったので翌日にローランドとともにレイ領へ帰ることになった。

 その前にジャレッドを紹介したいと言うローランドに、アデレイドは頷いた。

(もう覚悟を決めるしかないわ)

 ジャレッドが嫌悪の瞳を向けて来ても、耐えるしかない。前世のことについては後で一度ローランド抜きで話をしなければならないと考えながら。




「ジャレッド、具合はどう?」

 ローランドが扉を開けるとジャレッドはベッドの上に上半身を起こして座っていた。

「はい、もうだいぶ…」

 そこまで言って言葉を失う。ローランドの後に続いて部屋に入って来たアデレイドに目が惹きつけられたからだ。

「ジャレッド、紹介する約束だったね。彼女はアデレイド・デシレー。僕の婚約者だよ」

 ローランドがはにかみながら紹介した。アデレイドは精一杯の笑みを浮かべて口を開いた。

「アデレイドです。よろしくね、ジャレッド」

「………………」

 ジャレッドは目を見開いたまま愕然としている。アデレイドはやはりジャレッドが前世の記憶を取り戻していることを確信した。ジャレッドが何か変なことを口走る前に話をした方がいいと思った。

「ローランド、お医者さまを呼んで来たほうがいいかも」

 どこか様子のおかしいジャレッドにローランドも心配になったようだ。頷いて外に飛び出す。本来であれば廊下にはトマスか、誰か侍女が控えているはずだが今は誰もいない。アデレイドが人払いをしておいたのだ。

(ごめんね、ローランド。ちょっとだけジャレッドと二人で話がしたいの)

 アデレイドはローランドに申し訳なく思いながらもジャレッドに向き直ると慎重に問いかけた。


「…アール・ラングリッジ?」

「!」

 ジャレッドは弾かれたように身体を震わせた。

「…わたしが誰かわかる?」

 アデレイドが真っ直ぐにジャレッドの瞳を見つめると、ジャレッドは信じられないというように微かに瞳を揺らしたが、アデレイドの瞳から目を逸らさずにこくりと小さく頷いた。

「レ、オノーラ…さま…」

 アデレイドは微笑んだ。ジャレッドの瞳にあるのは驚愕だけだ。嫌悪ではないことに少しほっとする。

 アデレイドが微笑んだ瞬間、ジャレッドの水色の瞳から涙が溢れ出た。アデレイドは目を見開いた。

 涙は壊れた井戸のようにあとからあとから溢れてくる。

 ジャレッドは放心状態だった。夢でも見ているような心地だった。目の前にレオノーラがいる。それが信じられない。

 アデレイドは突然ジャレッドが泣き出してしまったことに戸惑っていた。

(どうしよう…混乱しているのかな)

 アデレイドは躊躇ったが、そっと手を伸ばすと、ジャレッドの背を撫でた。ジャレッドは避けなかった。というよりも、全くの放心状態のため、何が起こっているのか把握できていないのだろう。そのまま静かに時が過ぎ、ふとジャレッドは頬が冷たいことに気付いたように、片手を当てた。するとすっと目の前にハンカチが差し出された。ジャレッドはそれを反射的に手に取り、彷徨っていた焦点が目の前の相手に定められた。

 アデレイドはジャレッドが落ち着いたことにほっと小さな安堵の吐息を零した。

「…ローランドは私に前世の記憶があることを知らないの。…だから貴方もそのつもりでいてね」

「………………………」

 ジャレッドの返答がないことにアデレイドは不安になってジャレッドの顔を覗きこんだ。

「ジャレッド?」

「……っ」

 至近距離で紫紺色の瞳に見つめられてジャレッドは覚醒した。距離の近さに驚いて咄嗟にのけぞる。アデレイドは地味に傷付いた。

(やっぱり嫌われているみたい…)

 アデレイドの表情が僅かに陰ったのを見て、ジャレッドは胸を突き刺されるような痛みを覚えた。

 また、自分は彼女を傷付けてしまったのか。

「俺は…、貴女に会わせる顔がない」

 ジャレッドは絞り出すように言葉を紡いだ。アデレイドは驚いてジャレッドの水色の瞳を見つめた。

「……俺が、愚かなことをして、貴女を……苦しめた」

 ジャレッドの少し吊り上がった瞳が歪められ、目尻から再び涙が零れる。

 アデレイドは瞠目した。嫌われていると思っていた。でも、こんなにも苦しそうに懺悔するジャレッドを見ると、そうではなかったのではないかと、少し希望が湧いた。

 アデレイドは、ジャレッドはアールがレオノーラに「きらいだ、ちかよるな」と言ったことを言っているのだと思った。

 その言葉は幼かったレオノーラにとっては確かに痛かった。けれどもう、レオノーラの記憶は日々遠くなっている。レオノーラの胸に刺さった小さな棘は既に抜けているのだ。

 だからちょっと笑った。

「…もう、いいのよ。こどもの頃のことだし」

 ジャレッドは緩く首を振った。子供の頃のことも大概酷いと思うが、そんなレベルの話ではない。アデレイドは知らないのだ。アールがどれ程レオノーラを苦しめたか。魔女に加担して、エルバートとの仲を引き裂いたことを。

 けれどジャレッドが口を開くより前にアデレイドはジャレッドの手に自分の手を重ねた。

「ジャレッド。私、あなたには嫌われていると思っていた。…だから本音を言うと、会うのが少し…怖かった。…でも、もしもあなたがやり直したいと思ってくれるなら…。…私は、あなたと仲良くなりたい」

 真っ直ぐに自分を見つめる紫紺色の瞳は、レオノーラと寸分変わらない美しさを湛えていた。

 ジャレッドは喘いだ。

 こんな自分が彼女の前に居ていいのか。いいわけがない。…けれど、今ここで彼女を拒むことも残酷な仕打ちに思えた。もう二度と傷付けたくない。

何が正しい選択なのか分からずに俯いたジャレッドの目に、己の手に重ねられたままだったアデレイドの手が映る。

 ジャレッドは瞬間的に手を振り払った。

 アデレイドの驚いた顔が目に焼き付くけれど、それどころではない。

「あ、貴女は、ローランドさまの婚約者なのですから!き、気軽に他の男の手に触れるべきじゃない…!」

 顔を真っ赤に染めながら叱ると、アデレイドは気圧されたように頷いた。

「う、うん」

 ジャレッドは狼狽えたように目を泳がせ、パッと横を向いた。アデレイドの手が重ねられていた手をぎゅっと握りしめる。

 温かい手だった。小さな手だと思った。火傷をしたように手の甲が熱い。

 胸がどくどくと鳴ってうるさい。

(僕は何を浮かれているんだ。そんなこと許される立場じゃないのに)

 それでもやはり、目の前に「レオノーラ」がいることに喜びと、切なさがこみ上げる。同時にまだ信じられない気持ちもある。夢じゃないのか、幻じゃないのかと疑わずにはいられない。

(レオノーラさまの生まれ変わり…アデレイドさま。ローランドさまの婚約者…)

 ジャレッドは躊躇いがちにそっと視線をアデレイドへ戻した。そして我が目を疑った。

 ジャレッドはもう一度確認するようにアデレイドをじっと見つめた。何故かジャレッドの顔はみるみる蒼褪めていった。

「え…、と…、ローランドさまの婚約者…なんですよね…?」

 恐る恐る訊ねるジャレッドに、アデレイドはこくりと頷いた。

「そうよ。……何か問題?」

「な…なんですか、その服装は!?しかもその髪……!!」

 ジャレッドはアデレイドの男装に衝撃を受けた。今の今まで気付かなかった。既にジャレッドが倒れる三日前に一度対面しているのだが、熱の影響か、その時のことはすっかり記憶から抜け落ちていたようだ。

(あ、そうだった)

 アデレイドにとって男装は既に身体に馴染んだ普通のことだったが、ジャレッドには確かに衝撃だろうと思った。

(でもハロルドは特に何も言わなかったな。表に出していないだけかしら)

 後で聞いてみようかと考えながら、曖昧に微笑む。

「男装しているだけよ。ええと、まあ趣味みたいなもので…」

「ふざけないでください、どういうつもりですか、勿体無い!」

「え…」

「……っ」

 アデレイドが驚いてジャレッドを見ると、ジャレッドの顔は林檎のように真っ赤になっていた。ジャレッドは口元を押さえて横を向いてしまった。

(勿体無いって言った?ジャレッドが…?私の髪を?…いや、まさかね)

 アデレイドはふふっと笑った。ジャレッドは一瞬アデレイドの笑顔に目を奪われた。だが表情は不機嫌そうに顰めて問う。

「……何がおかしいんです」

「…ジャレッドが言うはずがない幻聴が聞こえておかしくなっちゃったの。きっとみっともないって言ったのよね」

「言ってません」

 心外だと言わんばかりにジャレッドの眉が吊り上がる。アデレイドはパチパチと瞬いた。

 ジャレッドはアデレイドが自分なら「みっともない」などというだろうと思われたことに少なからず心を抉られていた。己の過去の愚行を呪いたくなる。

「……レディが髪を切るなど…あるまじき行為だと言っただけです」

 取り繕うように言うと、アデレイドは苦笑した。

「…わかってるわ。でも、男の子として生きていくつもりだったから切ってしまったの」

「…は!?」

「あ、でも髪は伸ばすことにしたの。もう切らない」

「………」

 ジャレッドは思考停止状態だった。アデレイドが何を言っているのか理解できない。

「……男の子として生きる、とは?」

「ローランドの親友として、ずっと仲良くできたらいいなって…」

「……婚約者なのでしょう…?」

「婚約は破棄されたら終わりだもの」

 アデレイドの言葉にジャレッドは胸を衝かれた。

 ジャレッドはアデレイドを凝視した。

(…では、その髪は…。レオノーラさまが負った苦しみを、今も貴女は)

「……馬鹿馬鹿しい。ローランドさまが婚約破棄など、するはずありません」

ジャレッドはアデレイドから視線を外して口早に言った。アデレイドの心配などただの杞憂だと切って捨てるために。

 ジャレッドはローランドが優しい眼差しでアデレイドのための花を選んでいたことを思い返した。

 あのローランドがアデレイドを裏切るなど考えられない。だが、それはエルバートも同じだった。

(安易な慰めなど、言うべきじゃなかったか…)

 言ってからしまったと思ったが、口にしてしまった言葉は取り消せない。余計なことを言ったと謝ろうとしてジャレッドが口を開く寸前、アデレイドが微笑んだ。

「ジャレッド…ローランドのこと好きなのね」

 アデレイドはジャレッドがかなりローランドに懐いていることに感動していた。

「…!!…なんでそうなるんですか…」

 ジャレッドは脱力した。確かにローランドのことは嫌いじゃない。むしろ好感を抱いている。だが今はローランドがアデレイドを好きだという話をしていたはずだ。

 ジャレッドはアデレイドをそっと窺うように見つめた。

 髪を切っても、男の子の格好をしていてもアデレイドは可愛らしいと思った。けれど女の子らしさを取り払った分、レオノーラが放っていた女神と見紛う程の麗々しさは鳴りを潜めている。それはむしろジャレッドにとってはありがたかった。

(レオノーラさま…いや、アデレイドさまはこれくらいのほうが世の中平和かもしれない)

 複雑な表情のジャレッドにアデレイドは微笑んだ。

「ローランドに他に好きな人が出来たら教えてね。ローランドは優しいから、自分からは言えないと思う。苦しむと思うの。私のこと、妹みたいに大事にしてくれているから…。苦しめたくないの」

 ジャレッドは今アデレイドは自分がどんな顔でそれを言っているか知らないのだろうと思った。

 酷く胸が痛い。

「…身を引くおつもりですか」

「…ローランドが望むなら」

 ジャレッドは俯いた。それ以上何も言えなかった。

 丁度そこへローランドが医師を伴って戻ってきたため、二人は口を噤んだ。アデレイドはローランドを安心させるように微笑んだ。

「ジャレッドと少し話したわ。ジャレッド、ローランドのこと、すごく好きみたい」

「え…どんな話をしたの」

「いろいろ」

 ジャレッドの診察が始まったので、アデレイドは退室した。ローランドは二人がどんな会話をしたのか気になるようだったが、ジャレッドの診察に意識がいったため、それ以上は追及してこなかった。

 アデレイドはジャレッドと話せてよかったと思った。

(会うのが怖かったけど、…アール程嫌われなかったかな?)

 男装については好意的ではなかったが、それは当然だと思うので批判は甘んじて受けよう。収穫はジャレッドがローランドを慕っていることを知れたことだ。

(よかった。私の婚約者だからってだけでローランドを嫌いになったりしたらどうしようかと思った)

 少しだけ気分が軽くなってアデレイドは軽やかに自室へと戻った。


 ジャレッドの診察は滞りなく終わり、特に問題がないと言われローランドはほっとした。けれど先ほどのジャレッドのどこか愕然とした様子を思い出して僅かに眉根を寄せた。心なしか今も心ここに在らずといった様子で、ぼんやりしているのも気になる。

「……ジャレッド」

 ローランドが心配そうにその名を呼ぶと、ジャレッドははっとした様子でローランドへ顔を向けた。

「はい」

「……どうしたの、何か心配事?」

「…いえ…」

「……アディと何を話したの」

「!………え、と…」

 ジャレッドは狼狽えた。前世のことは言えない。けれど咄嗟に作り話をでっち上げられる程ジャレッドは器用ではない。ついポロリと零してしまった。

「…その、アデレイドさまのお召し物に、驚いてしまって…」

 目を泳がせて困惑した様子のジャレッドに、ローランドはくすっと笑った。

「ああ、それで驚いていたのか…。…そのことをアディと話したの?」

「は、はい…」

「何の説明もなしにアディを見れば驚くよね。ごめん、もう見慣れてしまって説明を忘れていた。…アディはもうずっとあの格好なんだ。でも可愛いから何も問題はないんだよ」

 ジャレッドは唖然とした。それは全くなんの説明にもなっていないと突っ込むべきか、問題はないと言い切るローランドの惚気っぷりに突っ込むべきか。

「え…問題ないですか…?」

 恐る恐る訊ねるジャレッドにローランドは逆に首をこてんと傾げた。

「?…似合ってるよね?」

 そういう問題じゃないですとジャレッドは言えなかった。

「はい、お似合いです」

 何かもう自棄っぱちな気分で超絶いい笑顔を浮かべてしまった。するとローランドはとても嬉しそうに瞳を輝かせた。

「そうでしょう?アディは何を着ても可愛いんだよ」

 それから小一時間程もローランドの惚気話を聞かされる羽目になった。

(うわぁぁ…。ローランドさま、どれだけ婚約者ラブなんだ)

 若干頬を引き攣らせながらもジャレッドは胸の奥が温かくなるのを感じていた。

(ローランドさまが心変わりするなど、あり得ない…)

 ローランドに他に好きな人が出来たら身を引くつもりだと言ったアデレイドに、そんなことをする必要はないのだと伝えてあげたかった。けれどそれを言ったところで彼女の憂いが晴れるとも思えなかった。

 人の気持ちは永遠に同じではないと二人とも知っていたから。






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