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もう、恋なんてしない  作者: 桐島ヒスイ
第三部

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091 ―観花会・開幕―



 ついに観花会当日になった。

 


 給仕係を担当する女生徒のうち、半数は男装を選んだ。

「男装少女……ときめきますね」

「動きやすいわ」

 男女ともにパンツスタイルは執事服の昼の正装であるモーニングコートである。

 パンツを選ばない女生徒は黒のロングスカートに白のエプロンを着けるスタイルだ。

 一見シンプルだが、学院のイベントで貴族の令嬢が着るため、一般の使用人が着るものよりも装飾が多く施され、エプロンもフリルが可愛い。

 男子生徒は全員オールバックで、心なしか普段より凛々しく見える。

 女生徒はこの日、「執事はオールバック」というナタリアの謎のこだわりを理解したのであった。



 前半の仮面パーティーの後、パートナーの前で仮面を取るところまでは婚約者を探している者たちが主役だが、後半のダンスパーティーからは裏方に徹していた者たちもドレスに着替えてダンスに参加できる。勿論相手は婚約者だ。

 裏方担当組もちゃっかり婚約者同士でチームを組むため、仲良くじゃれ合いながら楽しく参加している。

 



 ジャレッドはデザートの補充を担当し手際よく皿に盛り付けていく。

 ジャレッドも平民の婚約者のいない学生という立ち位置なので参加者として出席する資格を有しているが、主であるローランドが毎年裏方の為、自然と裏方に回っていた。

 それを残念に思う少女たちもいるが、彼の給仕を楽しみにしてもいる。




 観花会の間、アデレイドはローランドの部屋で大人しく待っている予定だった。

(でも、ちょっとだけ。ローランドが給仕係長として頑張っているところを見てみたい……)

 ローランドの給仕姿はこの寮祭でしか見ることは出来ないだろうから。


 木立の間からちらっと覗くくらいならば大丈夫だろう。

(確か、給仕係は男装の子もいるって聞いたし)

 それも少し見てみたいアデレイドであった。



***


 観花会は執行役員を代表してネイサン・バルフォアの宣言により開幕した。

「……参加者の諸君には学年や寮の垣根を越えてより多くの者と交流を図って貰いたい。とはいえ、これまで殆ど交流のなかった者といきなり親しくするのは難しいと思う者もいるだろう。そこで執行部ではいくつか余興を用意している。存分に楽しんでくれたまえ」

 全員にグラスが行き渡ったタイミングで同じテーブルに着いた者同士で家名を名乗らない自己紹介が始まる。名前も敢えて愛称で告げるのがルールだ。

 席は受付で籤を引き、ランダムに振り分けられている。

 仮面を着けているため、まだ互いに誰が誰か分からぬ状況だが、それがスリルになって面白い。

 しかし、今回の観花会は例年とは一線を画していた。



「な、なんだこれは……」

 呆然と呟いたのはオズワルドだったが、それはこの光景を目撃した全員の気持ちだった。

 同じデザインの白いドレスを着た令嬢達。その上彼女たちは揃いも揃って梳き流した銀髪だった。

 仮面の目元はレースが覆っており、瞳の色は分からない。

 令嬢たちのドレスはシンプルなデザインで色は白。清楚なイメージだ。

 オズワルドは観花会の余興のシークレットゲストとして登場するため控室で待機していた。

 庭園の隅にある温室だ。温室内には螺旋階段があり屋根の上のテラスへと通じている。テラスは3階に相当する高さがありそこから観花会のテーブル席が一望できた。

 

「鬘も仮面のうちなのですわ」

「!!」

 後ろから声を掛けられてオズワルドは内心びくりと飛び跳ねた。

 声の主はナタリアだった。

「殿下が運命のお相手を見つけられますよう、お祈り申し上げますわ」

 諸々に驚き過ぎて声も出せない間にナタリアは朗らかに笑うと軽やかに螺旋階段を駆け下りていった。

「あ……」

 何も聞けずに取り残され、オズワルドは呆然とした。

(な、何故皆銀髪なのだ)

 ドクドクと心臓が痛い程激しく拍動して、オズワルドは眩暈がした。

 仄かな期待と、居るはずがないという悲観、夢か現か分からなくなりそうな困惑と酩酊感。

 さまざまな感情がない交ぜになって、息も出来ない程だった。


***


(これは………)

 ローランドは銀髪の令嬢の群れを見て眉を顰めた。女生徒の三分の一程を占めるだろうか。

 明らかに王子が追い求めている「銀髪の乙女」を模した扮装だ。

(でも……なんでこんなに大勢……)



「これはナタリアの遊戯だ」

 セドリックの声に振り向くと、少しだけ面白そうに口の端に皮肉気な笑みを湛えて令嬢たちを見ていた。

「王子はこの中の誰かと恋仲になってしまえばいい」

「…………………………」

(王子はまだ……アディを探しているのかな)

 心臓を掴まれたみたいに不快な胸騒ぎがする。


 元々この観花会の趣旨はまずは相手の中身を知ることだ。

 仮面を外して名を名乗るのはダンスのパートナーを申し込んで一曲踊りきった後。

 勿論、ダンスのパートナーを申し込んだからと言って婚約しなくてはいけないわけではないし、その後別の相手と踊ってもいい。

 ナタリアの遊戯は敢えて外見を統一することによって中身で選ばせる作戦だ。



 王子がこの中の誰かを選んでくれるならアデレイドは安全だ。

 実際のアデレイドは今、ローランドの寮の部屋にいる。

 黒髪に眼鏡をかけた男装姿で。


 本物の銀髪の乙女がそんな格好でひっそりと寮の部屋にいることに気付ける者はいないだろう。

 見つかるわけにはいかないので、安心していいはずだ。


 けれどローランドの気持ちは晴れなかった。銀髪の乙女に扮した令嬢たちを見て複雑な気持ちになる。

 隠されているアデレイド。

 本当は、この中の誰よりも銀髪の似合う女の子なのに――。








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