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もう、恋なんてしない  作者: 桐島ヒスイ
第三部

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089 第1回魔女対策会議




 グランヴィル公爵家の次期当主であるサイラスがジュリアンの生まれ変わりであることは公にされていない。

 しかしグランヴィル公爵家は聖堂院公認の王家の監視者であるため、対魔女対策会議に次期公爵であるサイラスが出席することは当然のことと受け止められている。



 その日、大聖師に就任したばかりのヴィンセントを筆頭に、実に三百年ぶりに甦った魔女への対策会議が秘そやかに開催された。


 出席者は王国の重鎮たちだ。

 国王、王太子、第三王子オズワルド、宰相、グランヴィル公爵家次期当主サイラス、シェリンガム公爵、エインズワース公爵、大聖師ヴィンセント、エリスティア聖導師長、近衛騎士団長、そしてマクミラン侯爵家の次男ハワード。


(いや、なんで俺こんなところに………!!)


 滅多なことでは集まらない三大公爵家の当主がそろい踏みである。重鎮が揃う中、ハワードだけが場違いだった。

 ちなみに宰相はグランヴィル公爵のため、公爵家当主に代わってサイラスが公爵家として出席している形である。

 他の公爵家であれば、当主が出席している場合次期当主は基本出席できない。グランヴィル公爵家が別格なのである。


 王族三人と各方面の有力者七人の計十人が楕円形の円卓を囲み、宰相の席の後方、部屋の隅っこにぽつんとハワードが座っている。

 正確にいうともう一人、宰相の側近がハワードの隣に座っていた。彼は優秀な文官で、会議の書記役である。

 王族であるオズワルドはともかく、ただの学生にすぎない自分が参加出来る会議などあるはずがない。

 心なしか王太子も二人の公爵も近衛騎士団長も不思議そうにハワードをちらちらと見ている気がする。


「それでは全員揃いましたので第一回魔女対策会議を開催します。えー、本日はお忙しい中お集まりいただきありがとうございます。僭越ながら司会はわたくし、エリスティア聖導師長の職位を頂いておりますニコラス・コーエンが務めさせていただきます」


 エリスティア聖導師長が挨拶をし、開会を宣言する。

 ニコラスは三百年前に「魔女」が現れ王国に危機が訪れたこと、「魔女」が蘇ることは三百年前に聖王メイナードによって予言されていたこと、そのため王家と聖堂院では代々そのことを後継者に継承していたことを説明した。

「それから、本日の人選についての説明をさせていただきます」

 エリスティア聖導師長ニコラスの言葉に一同が一斉にハワードを凝視した。

「!!」

(いや、俺もしりたいつーの!!)


「まず、オズワルド殿下ですが、殿下はエルバート王子の生まれ変わりであります。そのことは同じく聖王メイナードの生まれ変わりである大聖師ヴィンセントさまによって確認されております」


 この説明は大聖師の王宮訪問時に同席していなかった宰相と公爵たち、近衛騎士団長、サイラス向けのものだ。

 そして、このことは書記官によって公式記録として残される。


「お二人の証言により、大聖師ヴィンセントさまは聖王メイナードと、オズワルド殿下はエルバート王子とそれぞれ全く同じ容姿であることが判明しております。そしてプローシャ王国の第三王女であらせられるレオノーラ王女は三百年前に消滅した『魔女』と瓜二つであることがわかりました」


 こちらをご覧ください、とニコラスは聖王メイナードの肖像画を公開する。

「おぉ……!本当にそっくりだな」

「………………………」

 公爵や騎士団長が興味深そうに肖像画とヴィンセントを見比べる。

 ヴィンセントは儀礼的な笑みを浮かべている。



「つまり、レオノーラ王女は『魔女』の生まれ変わりである確率が高いということですな」

 シェリンガム公爵が確認をするように口を挟む。

 彼は文官を多く輩出する名門公爵家の次男で、国王とは同年代の五十代半ば、敏腕財務大臣である。


 ヴィンセントが頷いて生まれ変わりの補足説明をする。


「我々はある日突然三百年前の記憶を思い出した。殿下は八歳頃、私はほぼ生まれながらに、という状況だ。これは個人差があるようで、覚醒条件は不明だ。件の『魔女』が覚醒しているのかは確認できていない」


 ニコラスが説明を続ける。

「現在王女殿下は王立学院に留学中であり、オズワルド殿下とはご学友というご関係です。学院が舞台となってしまうことから、学生の中から協力者を得ることもやむを得ないとの国王陛下及び聖堂院の判断により、オズワルド殿下のご学友のハワード卿を招聘しております。彼はオズワルド殿下への忠誠と友情のため、志願してくれました」


 パチパチパチと拍手が起こる。

 国王と王太子と宰相と公爵、近衛騎士団長が感動した様子でハワードに目配せをしてくる。


(いや、強制的に招集されたんだけど!?)


 ハワードにとっては寝耳に水だ。この会議が魔女対策会議であることを知ったのは今だ。

 サイラスは「素晴らしい友情ですね」などと微笑んでいる。


(絶対にサイラスさまが陰で糸を引いてるだろ!?)


 勿論、ハワードにはサイラスを睨み付けることも問い質すことも出来ないが。

 キーパーソンである王子の側近には遅かれ早かれ対魔女の盾となることが命じられるだろう。

(まぁ、別に異存はないけどな)

 ハワードだっていざという時はオズワルドを守る心積もりくらいある。

 別に忠誠心が高いわけでもないが、オズワルドは弟みたいなものなのだ。

 それに、妹の想い人でもある。

 変な女に惑わされて欲しくはない。




 それからニコラスは三百年前の悲劇を簡潔に説明した。

 感情を排した説明だったが、「魔女」の異様さは際立っていた。


 ハワードは「魔女」が放った呪いと、「魔女」が灰になったことについて俄かには信じられない気持ちだったが、王国の錚々たるメンバーが揃った中での報告がお伽噺のような曖昧なものでないことは火を見るよりも明らかで、それが紛れもない事実であることを受け入れざるを得なかった。

 そしてそのことにゾッとした。

 お伽噺のようなその出来事はオズワルドが前世で経験したことなのだ。


(オズから少しは聞いていたけど……)


 気付かぬ間にするりと「魔女」に近寄られ、気を許してしまったら。

 大事な人を己自身で傷つけてしまったとしたら。


 それは途方もない苦しみだ。

(今は誰が「魔女」なのか、分かるからいいが――……)

 だからこそ、余計に気を引き締めねばならない。二度と同じ悲劇を繰り返さぬために。




 会議は今後の対応策について、王女が覚醒しているのかの確認とその方法について、またその際の学院内の警備体制等を話し合って終了した。



 最後にニコラスは出席者全員に聖堂院謹製の護符を配布した。

「こちらは『魔女』の魅了を封じるものです。常時携帯するようお願いします」

 この三百年の間に聖堂院はずっと研究をしていたのだ。

 いずれ訪れる『魔女』の危機に対処するために。




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