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もう、恋なんてしない  作者: 桐島ヒスイ
第三部

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 サイラスはハワードからリュッカーが「銀髪に紫紺色の瞳の女」を探している、と聞いた時点で「魔女」の復活を確信した。

 ただし、オズワルドも覚醒前からレオノーラに惹かれていたのでレオノーラを彷彿とさせる外見の女性を探していることが無意識なのか故意なのか、実際のところはまだ不確定だ。

 それはそうと、相手が一国の王族であることが厄介だ。明確な証拠もなしに捕縛できる相手ではない。


(今一つ王女とブリジッドのイメージが重ならないことももどかしい……どちらかというと「王女周辺からは魔女の気配がする」、という感覚に近い……)

 腑に落ちない点はあるものの、それは感覚的なものなので状況証拠としては王女が魔女として覚醒済みであると見做すべきだろう。


 今後の対策としては王女本人より側近のリュッカーを警戒すべきだろう。

(アディに何らかの危害を加える可能性があるのは実行役となるであろうあの男だ)


 リュッカーは既にジャレッドの前に現れている、正体を隠して無害を装った「アベル」として。

 それはサイラスが学園内に放っているグランヴィル公爵家の影の部隊、通称「庭師」から齎された情報だった。

「庭師」によると、アベルの正体は王女の側近のリュッカー侍従であり、彼は王女からの信頼も厚いという。

(王女はジャレッドを探っている……)

 ジャレッドからローランド、果てはアデレイドへと辿られるわけにはいかない。

(とはいえ、ジャレッドがそれを知ったら今まで通り「アベル」と接せられるか……)

 良くも悪くも真っ直ぐな少年だ。彼は腹芸など出来ないだろう。となるとアベルに警戒されてしまう恐れがある。

(いや……。情報を伏せたままのほうがかえって危険か)

 サイラスはアベルの情報をハロルドへ伝え、警戒するよう命じた。






 深夜、ジャレッドの寮にてハロルドは辺りを憚るように小声で、けれどはっきりきっぱりとありのままを包み隠さず伝えた。


「……は?……え、ちょっと待って。頭が追いつかない。アベルが……誰だって?」

「…………プローシャ第三王女の側近、リュッカー侍従だ」


 それは最悪な真実だった。

 出来れば知りたくなかった。

 ジャレッドは頭を抱えた。真実が重すぎて受け止めきれない。頭の中が真っ白だった。


「はは……嘘だろ……あいつが?……え、俺何かヘマしたかも……」


「……あの方のことが漏れていなければいい。……恐らくその点はあの方が無事なことから相手には掴まれていない。肝心なのはあちらがなりふり構わずあの方を探しているということだ。……おまえは今まで通りアベルと接してくれればいい。ただ、相手が敵であることを忘れるな。心を許すな」


 真実を知って、今まで通りでいることはかなり難しいとジャレッドは思った。

(俺にそんなことできるのか?……何も気付かなかったふりなんて……。今まで通りってなんだっけ)


 頭の中がぐるぐると無意味に回転する。

「………………」

 ハロルドが何か言いたげに見つめていたが、ジャレッドはそれどころではなかった。



 アベルとはそれ程頻繁に会うわけではなかった。

 初めは偶然、その次も偶然、そしてその次も。

(……。偶然ばっかりだな。……今も別に約束とかしたことないし……)


 会っても、大抵アベルが転ぶので彼の私物を拾ってやるだけで特に話はしない。

 お礼にご馳走すると言われたことはあるが、ローランド最優先のため断っている。


(……。あれ。別に問題ないか……?)


「……アベルから食べ物や飲み物を貰っても口にするな」

「……わかった」


 ハロルドの忠告にこくりと頷く。

 その夜の会合はそこで終わり、ハロルドは闇にまぎれてどこかへ消えた。



(……まぁ、落ち着いて考えると本当にアベルは王女の側近なのか?ってくらいあいつドジだよなぁ………)


 まぁ心配することもないか、と割と暢気に眠るジャレッドだった。





 次の日、いきなりアベルが目の前で盛大に転んだ。

 ジャレッドは唖然としながら一部始終を目撃していた。

(いや、ホント。何?この喜劇役者みたいな滑り方)


 バナナの皮に盛大に滑って転ぶアベル、ボサボサ髪によれよれセーター、瓶底眼鏡のひょろ男。おまけに若干猫背。


(リュッカー侍従ってなんか鋭い目付きの殺し屋みたいな怖そうな雰囲気の人だって噂で聞いてるんだけど!?………む、結びつかない………)


 教科書を拾ってやりながら頭の葉っぱを払ってやる。

(正体は王女の侍従ってことは観花会の時は王女の側に侍るのかな。それともアベルとして?)

 間者を相手に緊張してうまく話せる自信がなかったが、アベルのいつも通りのドジ振りを見て気が抜けるジャレッドだった。

「アベルは観花会、参加者だろ?ちゃんとした服って持ってるの?」

「いや、俺は……」


「――分かってるぞ、同士よ。悩める貧乏学生のお悩み第一位、金欠。そんな時は俺に任せろ!」


 どこからともかく現れた青年―パットにがしりと肩を掴まれたアベルは何を言う間もなくどこぞへと連行された。


(多分、例の酒場で緊急給仕かな……)


 ジャレッドは空を見上げた。爽やかな風が梢をさやさやと揺らす。木漏れ日が温かく、眠気を誘う。

 なんだか平和だ………。


 束の間の平和に現実逃避するジャレッドであった。






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