087 ー観花会・準備2ー
観花会の執行役員の中にはローランドの寮の寮長がいる。
彼は伯爵家の嫡男で、既に婚約者がいるため主催者に回っていた。
彼の名はネイサン・バルフォア。
ネイサンはやるからには徹底的にやる、完璧主義の男だった。
「親睦ゲームについてだが……借り物ゲームはどうかな」
「借り物?」
「そう。参加者全員に事前にお題を出して持参させ、それを当日籤で引き、それを持参した者を探すゲーム。お題は男女別に指定して、必ず異性に借りるようにする」
「なるほど、親密度が上がるな」
「女性は手作りの刺繍入りハンカチとか……」
「男性はリボンとか、小物がいいのでは」
「それ、ただのプレゼント交換。やはり本人の私物を混ぜるべきでは」
「それだけじゃやっぱり面白みに欠けるから、ちょっと変わった物も入れた方が」
「いや、会の趣旨は交流会だから正統派プレゼント交換で良いのでは。いいきっかけになる」
他の役員も楽し気に話に乗って来た。
「いいなぁ、俺も参加したい~」
「婚約者に言いつけますわよ」
「やめてください」
軽口をたたき合いながらも会議は順調に進んだ。
「そうだ、今年は男性給仕係は全員オールバックでお願いします」
執行役員の進行係がローランドに告げた。ローランドは瞬いた。
「なんですか、それは」
「顧問のオーウェン女史のたっての希望です」
「……………………」
ローランドは真顔で無言になった。
一応、学院の行事ということで殆ど名ばかりとはいえ教師が顧問として後見しており、学生が無茶をし過ぎないよう見守り、監督を行うことになってはいる。
しかしこれまで歴史あるこの行事に於いて教師から髪型についての指定などされたことはなかったはずだ。
(ナタリアさまの趣味か………)
眩暈がしてくるが、それ程非常識な申し出ではないので断る程のことでもないと判断する。
(もっと無理難題を言われるよりはマシかな)
「……承知しました」
ネイサンはもう一つ提案をした。
「それと、仮面コンテストをしたらどうだろう。一番誰だかわからず、かつ優美でセンスの良い仮面卿を選出する――」
「いいね、それ。抜き打ちでやる?それこそ、審査員を覆面にして……」
「パーティーの最期に発表する」
「全員投票の方が盛り上がらないか?」
「それだと集計が大変だから却下」
「確かに。もう執行部の独断と偏見でやり通すか」
「なんでもいいや」
「それでいこう」
若干疲れ気味の執行部は勢いとノリでサクサクとイベントを決めていった。
*
「ところで今年もオズワルド殿下は参加されるのか?」
「あー、今年はどうなんだろうな。プローシャの王女殿下もいらっしゃることだし」
「去年はパーティーに顔出しだけされたんだったか」
「王族なのに婚約者がいないって結構レアだよな」
「まぁ、殿下が来るとなると庶民は大喜びだよな~」
「王子様だもんな、本物の」
「殿下の出欠についてはマクミラン卿に確認しといてくれ」
「同じ寮のやつ、いるかー?」
「王女殿下の確認については女子寮で頼む」
「わかりましたわ。では次に料理の種類についてですが……」
料理の品数や出すタイミング等、ローランドは発注係と打ち合わせをした後、衣裳係と制服の打ち合わせをする。
すると衣裳係がとんでもないことを言いだした。
「あ、制服についてですが、女生徒も男装にしては如何かと、オーウェン女史が」
(……また、ナタリアさま……)
ローランドはがっくりと膝から力が抜けそうになった。
「あー、最近男装少女が流行っているんだってね~」
「何それ?」
「小説で……」
(アディの小説か――!!)
「いや、でもやっぱり女子にはひらひらの可愛い制服を……」
「男装は意外と合理的かもしれませんね、動きやすそうです」
「そこは任意で選べるようにしては如何でしょう」
男子学生は女子の男装案には悲観的だったが、女子には好評だった。
***
その噂はどこからともなく囁かれていた。
―――全寮主催の観花会には花の妖精が現れる―――
(花の妖精~?……なんじゃそら)
ハワードは友人から齎されたそのおとぎ話のような噂話に乾いた笑いを漏らした。
(あー……パーティーの中の余興の一環だろうけど……)
奇妙にむず痒い、というか。恥ずかしすぎないか、その企画、と溜息を吐きながら次の授業の教室へと向かっていると、すれ違った学生たちの話し声が耳に入った。
「……なんでも、銀髪に紫色の瞳の清らかな乙女らしい……」
(―――は……?)
ハワードの足が止まり、くるりと踵を返す。すれ違った学生たちを追いかけ、声を掛けた。
「今の話、詳しく教えてくれない?」




