人間というものは
「……血液型占いとか信用ならん」
ぺい、とこちらに本を投げつけて来る彼女に視線を向ける。
飽きた、つまらん、死ね、と酷く乱暴な言葉を投げて別の本へと手を伸ばしていた。
俺は仕方なく、投げ付けられた本を掴む。
彼女の言っていた通り表紙にはデカデカと『A型さんの特徴』と書かれていた。
そういえば彼女はA型だったはず。
となると、友人辺りから借りたのだろう。
自身でそんな本を買うとは到底思えない。
「そもそも、根拠は?血液型で性格が分かるその根拠を示して欲しい」
そう言いながら、パラパラと別の本を捲る彼女。
その傍らには『B型さんの特徴』『O型さんの特徴』『AB型さんの特徴』が積み上げられていた。
見事に全部借りた上に読んだらしい。
律儀なことだ。
「いや、君の場合は血液型占いの前に根拠のないもの全てを信じないだろう?」
「……当たり前じゃない。根拠の一つもなしに、相手を納得させようとする方がどうかしてるわ」
視線は別の本に向けられているが、きちんと受け答えはするらしい彼女。
そんな彼女の言っていることはもっともだ。
根拠がないのに信じるのは難しい。
特に彼女のような理論型は。
最も、実際血液型で性格なんて分かるわけもない。
良くある性格を並べれば自然と当てはまるようになっているだけで、言われてみればそうかもなんて思い込みにも似た錯覚だ。
しかも別の血液型でも当てはまるものは多いはず。
だからこそ、彼女は尚更血液型占いなど根拠のないもの信じられない。
「自分の目で見て、触れたものじゃないと不安になるじゃない。分からないじゃない。不確定なものは凄く怖いわ」
ぺらり、と彼女が本のページを捲った。
視線は上から下へ右から左へ。
淡々と話しながら、淡々と文字を追っていた。
不安、怖い、そういう風に言葉として吐き出してはいるが、その言葉の本質のようなものは見い出せない。
彼女が無感情な訳じゃない。
少し見えにくいだけなのだ。
感情の起伏が少なくて緩やかで、ほんの少ししか滲ませないから分かりにくいだけ。
本を読むペースがいつもより遅いから、多分本当に血液型占いは好きじゃないんだと分かる。
それでも人間というのは好きなのだ。
目に見えないものが、根拠のないものが。
噂だってそうだ。
血液型占いも心霊特番も、全部。
「それでも人間は興味関心の多い生き物だよ」
「それがまた恐怖心を煽る」
俺が彼女の信じられないものを、肯定するような物言いが気に入らないのだろう。
早口で被せるように言葉を吐いた。
彼女はいい意味でも悪い意味でも素直だ。
分かりにくいかも知れないが、とても分かり易い素直で純粋な女の子。
誰よりも恐怖心を持っている。
信用出来ないものは全て拒絶するから。
自分を危険に脅かすものや、傷つけるものは徹底的に遠ざけないといけないと考えているのだ。
つまりとても弱い生き物。
「大丈夫だよ」
「……何が」
とうとう彼女が本から顔を上げた。
形のいい眉を寄せて眉間にシワを刻んでいる。
「そんな本一冊で、人間を知れたら苦労ない」
パラパラと彼女の気に入らないことの書いてある本を捲って、彼女の顔を見た。
まるで鳩が豆鉄砲でも食らったような顔で、笑が溢れる。
たった一冊の本に人間をまとめるのは、何年経っても無理なんだと信じたい。