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23 守護結界

「くそっ! きりがない」


 ジェイドは目の前の敵と対峙しながら叫ぶ。

 ただの貴族連中は体力もなく、操られているから簡単に気絶させることができたが、王国軍の兵士はそうはいかない。すでに、父は気絶させた。親を昏倒させるなどジェイドにとって初めての体験だった。


「どうした? 先程の勢いはどうした?」


 こちらを嘲笑う黒いフードの男。

 夜の闇に包まれ、男の力はさらに増した気がする。闇の魔石商だけあって、闇に好かれているのだろうか。

 何にせよ、この男に操られてローズを傷つけてしまったことを思うと、真っ先に殴りに行きたい。

 〈守護者〉として、守るべき王族を傷つけたのだ。それなのに、ジェイドが今無事ということはローズの力なのだろう。

 ローズは、ジェイドを救おうとしてくれたから。


 しかし、闇の魔石商に近づくどころかジェイドはじりじりと天使像に追い詰められていた。


 鍛え上げられた精鋭のみが、王城勤務に就く。

 ここにいる騎士達は、自分と互角に近い戦闘力だ。操られているとはいえ、攻撃に対して反応するのはそれこそ個人の力量であり、感情がない分相手の方が有利だろう。

 ジェイドは、王国軍に所属している人物を全て把握している。この中には自分が推薦して王城勤務にした者もいる。しかし、下手に手加減を加えようとすればこちらが危ない。本気で戦わなければならない。

 後ろには、守るべき王女がいる。

 ローズは、自らの血を使って魔力を高めているようだ。ジェイドの持つリビアン・グラスも反応を見せている。

 そうだ。これ以上ローズに近づける訳にはいかないのだ。

 さっさと全員を倒して、奥に控えているあの男を再起不能にしてやりたい。怒りで頭がおかしくなりそうだった。


 ローズの話を聞く限り、闇の魔石商を名乗る男はかつて滅びた王国の王フェイルだという。

 にわかには信じられない話だが、ローズが言うのだからそうなのだろう。諸悪の根源でもあるあの男を倒せば、少しはこの状況を打開できるかもしれない。貴族数人はもう気絶したまま起き上がる気配はない。しかし残りの人数を考えると、ジェイドがフェイルを狙っているうちに、ローズの邪魔をされるかもしれない。


(せめて、あと一人いれば……)


 自分一人でローズを守りながら、闇の魔石商を倒すことは不可能だ。

 今は、ローズの身を守ることだけに集中しなければならなかった。


(こんな戦い方では、こいつらの身体が持たない)


 操られ、無理矢理動かされている身体。

 自分の意志に反して酷使され続ければ、いつかは身体が壊れてしまうだろう。戦いを止めたくても、ジェイドにその力はない。操られた彼らを助けられるのは、ローズしかいないのだ。


「早くあの姫を殺せ!」


 守護の力が強まり、焦りを感じたのかフェイルは強い口調で命令した。

 ローズは絶対に殺させない。もう、目の前で何かを失うのは御免だ。


(あの男さえ倒せば……)


 ジェイドは舌打ちをし、フェイルから目をそらす。

 五人の騎士が一斉に切りかかってきたのだ。


「……ジェイド様!」


 どこからか、自分の名を呼ぶ声が聞こえたかと思うと、隣にジェイドが受け損ねた刃を受けているロイがいた。


「これは……どういう状況でしょうか?」


 同じ王国軍の騎士がジェイドを襲っていることに、ロイは顔をしかめた。


「邪石のせいだ。みんな操られている。この状況を作り出したのは、奥にいるあいつだ」


 真っ直ぐに、フェイルを睨みつける。


「お前は何故ここに?」


「ローズ様に置いていかれまして……それで王城に入ってみたらこの森に人が集まっていたので追ってきたんですけど、何故か森には入れなくて……でも、さっきジェイド様の声が聞こえた気がして走ってきたんです」


 いつの間にか森の中にいてびっくりしました、と剣を交えながら話すロイを見て、ジェイドは不思議に思う。ジェイドには、叫んだ覚えなどない。

 何故ロイはこの森に入ることができたのだろう。

 そう考えた時、ふとリビアン・グラスが目に入った。


(……そうか。呼んでくれたんだな)


 あと一人いれば、フェイルを倒せる。そう強く願ったから。


「ロイ、ここを任せても平気か?」


「はい!」


「できるだけ傷つけずに、気絶させるんだ」


「……が、頑張ります!」


 少し緊張気味だったが、任せても大丈夫だろう。普段は少し弱腰なロイだが、決して弱くはない。

 運動神経も良く、相手の攻撃を先読みすることに長けている。ロイなら問題はない。ジェイドは安心して背を任せた。



 * * *



 クロムド地方の魔石クォーツの力は浄化だ。

 この国に広まった邪石の力を浄化してくれる。

 今、魔石ブルータイガーアイによって魔力は活性化されている。このまま持続していけば、徐々に邪石は浄化できるはずだ。

 ローズは、魔石の力を感じながら、その力を引き出すことに集中する。少しでも気を抜くと、今まで繋げてきた魔力の道が崩れてしまう。

 ヘンデリュッヒ地方の魔石ハウライトは、思った以上に魔力が薄い。そういえば、一番初めに賊の被害を受けたのがヘンデリュッヒ地方だった。

 ずっと血を流し続けている為、頭がくらくらする。それでも、自分がここで倒れる訳にはいかない。この魔石ハウライトと守護石エンジェライトと繋げることができれば、守護結界は完成するのだから。

 魔石ハウライトには、強力な保護の力がある。

 この力が守護結界には必要不可欠だ。魔石ハウライトに集中しながらも、魔石ブルータイガーアイの活性化を引き出し続けなければならない。


(アレクサンド王って、本当にすごい……)


 同時にいくつもの魔石の魔力を引き出し、保つことができなければ守護結界を張ることはできないのだ。

 ローズは、無理だと悲鳴を上げてしまいたかった。もうこんな苦しい思いはしたくない、と。

 しかし、この守護結界にサーレット王国の命運がかかっている。これが国を背負う王族の責任。それは、あまりにも重かった。放棄することは簡単だ。この手を離せばいい。だが、それは信じてくれたジェイドとパーカー、教会の子ども達、ペイン神父、協力してくれた王国軍の騎士達、そして何よりこの国に住まう人々、その全てを放棄することになる。


「……やってやるわよ!」


 自分の身体がどうなったって、この守護結界は絶対に張ってみせる。ローズは、抑えていた魔力を全て解放した。

 それにより、ほとんど無いに等しかった魔石ハウライトは一気に力を取り戻した。保護の力が加わったことによって、守護結界はほぼ完成に近い程の力を発揮し始めた。

 力を解放したローズは、天使像に寄りかからねば立っていることさえできなかった。

 今にも意識が飛びそうだったが、ここで意識を手放す訳にはいかない。

 この守護石エンジェライトに結び付け、守護結界を完成させなくてはならないのだから。

 その為に、ローズは再び神経を集中させ、全ての力を守護石エンジェライトに注ぎ込んだ。



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