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魔法の石に願いを込めて  作者: 奏 舞音


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22 守護者の心

「……うっ!」


 ローズは痛みに顔をしかめる。

 手の平が燃えるように熱い。熱を帯びた部分からは、どくどくと鼓動に合わせて痛みが走り、赤い血が溢れ出る。


「ジェイドの馬鹿! 何してるの!」


 ローズは目に涙を浮かべながら訴える。

 ジェイドは、ローズではなく自分自身に向かって剣を下ろそうとした。死ぬつもりだったのだ。

 そのことに気づいたローズは、咄嗟に剣の刃を握りしめた。

 細く白い手から流れ出る血は、剣の柄まで垂れている。その赤い血が邪石となったリビアン・グラスに触れると、石は淡く光を放った。

 そして、ジェイドは手に持っていた剣を手放し、じっとこちらを見つめていた。

 感情のなかった緑の瞳には、徐々に戸惑いと焦りの色が見え始める。


「……ローズ」


 そう彼の口から紡がれた途端、思わず抱きついていた。

 もう、邪気は感じない。

 しかし同時に、ジェイドは思い切りローズを引きはがした。


「……手は、大丈夫か!……すまない。俺のせいで……」


 血が流れているローズの手に、素早くシャツを破ってジェイドが巻きつけてくれる。白い布に、赤いしみがすぐに広がる。かなり深く切ったようだ。


「……ジェイドは、悪くないわ」


 痛みに耐え、笑顔を作る。自分は大丈夫だと伝えるように。

 そして、真っ直ぐに元凶である男を見つめた。


「あなたからは邪石そのもののような力を感じる。この守護石エンジェライトを使って、あなたは何をするつもりなの?」


 何の為に、八年前多くの命が奪われたのか、知りたかった。それを聞いたからと言って許せるはずもないのに。

 ローズの真剣な眼差しを受け、男は突然腹を抱えて笑い出した。


「……ははっ。あいつと同じことを聞くのだな」


 誰が、ということは聞かなかった。

 ローズにはその人物が誰かも、目の前の男が何者なのかも分かってしまったから。

 かつて国民の命を邪石の為に奪った男。

 アレクサンド王は問うたのだろう。

 何の為に、国民の命を奪ってまで邪石を作るのかと。

 そして、その答えは…………


「自分の為に決まっているだろう。魔石の力を使えば、不老不死にだってなれる!」


 身体が怒りに震えた。しかし、冷静な部分で考えていた。

 百年前の時点で、不老不死となる邪石が完成している可能性をアレクサンド王が思いつかないはずがない。何故なら、この男はずっと魔石の力に執着していたようだったから。


(そうだわ……だからアレクサンド王はすぐに守護結界を張ったのね)


 邪石によって、何らかの形で不老不死となれる可能性があるなら、邪石の力を使えなくすればいい。そして、守護結界によって邪石は力を失い、魔石の魔力が王国を包み込んだ。



「フェイル・コラート。あなたは王にふさわしくない。この国は絶対に渡さないわ!」


 凛とした声で、ローズはフェイルに言った。

 ここで怯んではいけない。今の王族は自分だ。

 このサーレット王国を守る責任はローズにある。


「ふっ。守護者を取り戻して強気になったか? 私が一人でこの森に入っているとでも思ったか……」


 その言葉を聞いて、ジェイドはすぐにローズを庇う形で前に出た。

 ぞろぞろと、フェイルの後ろから現れたのは賊ではない。


「なっ……!」


 目の前で剣を構えているのは、王国軍の軍服を着た兵士、そして王に仕える貴族達だった。コラート侯爵派の貴族がほとんどだが、その中にはジェイドの父ケインもいた。

 ざっと見て、三十人はいるだろう。


「みんな、操られてる……」


 この森に着くまで誰ともすれ違わなかったのは、皆がフェイルによって操られていたからだったのだ。


「ローズ、どうする?」


 ジェイドは、こちらに背を向けたまま言った。守護結界を張り直すことができれば、邪石の力によって存在しているフェイルも消すことができるだろう。


(でも、こんな少ない魔力でできるのかしら……)


 今は邪石の力の方が強い。

 目の前で笑うこの男が国中に邪石を広めたからだ。

 そのせいで、守護結界の魔力は邪石の浄化に使われ、魔力は底を尽きはじめた。

 自分にできるのだろうか。


「ローズ、大丈夫だ。俺が今度こそローズの力になる」


 心強い言葉、真摯な瞳。ジェイドは自分を信じてくれている。

 ローズも、彼を信じている。

 その時ふと、ジェイドの剣に目が留まる。剣の柄には、美しく輝くリビアン・グラスがある。もう、邪石の穢れは全くない。

 それを見て、はっと閃いた。


「できるだけ傷つけないで、ここから遠ざけてくれる? 誰も守護石に近づけないで」


 ジェイドに頼んだことは、かなり無理がある。

 三十数人の相手を一人で、しかも誰も守護石に近づけるな、なんて。

 それでも、ジェイドならできると信じていた。


「お任せください、ローズマリー王女殿下。今度こそ王女殿下の期待に応えてみせます」


「ありがとう」


 その言葉を聞いて、ローズは真っ直ぐ守護石エンジェライトに向かう。


「何をするつもりか分からないが、無駄だ。私がここに存在できている時点でもうその守護石に以前のような浄化の力も守護の力もないのだろう?」


 フェイルは、どこか興奮しているようだ。

 おそらく、ここまで守護結界が弱まっていたことなどないのだろう。

 一体どうやって、百年前の人間であるフェイルがこの世に存在しているのか気になるが、今はそれを考えている場合ではない。


(きっとできる。これは、私にしかできないことだから)


 目の前には、空青色の天使像。

 手に巻かれた、ジェイドのシャツを取る。まだ、深い傷口からはどくどくと血が溢れている。


「私の身体には、アレクサンド王の、セラフィナイト家の血が流れている!」


 ローズは、血に塗れた手で天使像に触れた。

 ひんやりとした天使像の感触が、傷口に心地いい。

 天使像は、ローズの血に反応し、うっすらと淡い光を放つ。傷口から流れる血が、どんどん天使像の中に吸い込まれていく。

 血を媒介として、直接魔力を注ぎ込んでいるのだ。

 リビアン・グラスは、ローズの血に反応して浄化されていた。だったら、守護結界にも王族の血が反応して魔力を高めることができるかもしれない、と考えたのだ。

 目を閉じ、魔力の流れを探る。

 薄くではあるが、まだアレクサンド王の血でつくられた道は残っている。おそらく初代国王は同じように血を媒介としてこの魔力の道を繋いだのだろう。

 ローズは、その道に沿って魔力を繋いでいく。


 最初はブルーム地方の魔石ブルータイガーアイ。

 活性化と安定の力を持つ石だ。この石によって魔石の力を活性化させ、守護の力を安定させる。直接ブルーム地方に行った方が力のコントロールができるが、今そんな余裕はない。この王城から魔力を扱わなくてはならないのだ。


 守護結界を張るためには、かなりの集中力と体力が必要だった。



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