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11 邪石の力

「どうして、ローズ様にあんな言い方をしたんだ」


 無言で歩くジェイドに、パーカーが責めるように言った。


「ローズを巻き込みたくないんだ」


「そんなことは分かっている。だが、ローズ様は無関係ではないんだ。狙われているんだぞ。あの火事の陰謀からずっと。何も知らないことが、かえってローズ様を危険にさらすことになるかもしれないだろ」


 冷静なパーカーには珍しく、声を荒げて抗議してくる。その言い分も理解できる。

 それでも、ローズには何の問題もない安全で幸せな所で笑っていて欲しいのだ。


 あの火事が王族を狙っていたことは間違いない。

 だから、パーカーは今までずっと言い続けていた。居場所が分かるならローズ様に会いに行け、と。何が起こるか分からないのだから側で守るべきだ、と。

 しかし、ジェイドはそれをずっと拒んでいた。王族を守る魔石の加護の力を知っていたからだ。守護石エンジェライトの力は、この王国を守るものであり、代々王族に受け継がれる魔石でもある。その魔石を腕輪とし、王族は身につける。ローズも、あの火事の日にアーリン様から受け継いでいた。魔石の加護の力によって、ローズに危険は及ばない。

 もしジェイドが近づけば、エンジェライトとリビアン・グラスとが反応し、その加護は一時乱れてしまうだろう。

 ジェイドが近づかない限り、ローズは幸せで平和な場所で生きていける。そう信じていたから。


「……それより、問題が起きた。保管庫の警備をしていた騎士達が突然暴れ出した。何人か怪我人が出ている」


「まさか……」


「あぁ。おそらく保管していた邪石の邪気にあてられたんだろう」


 邪石の影響がどのようなものか分からなかった為、保管庫には一応浄化の力があるクォーツを置いていた。

 しかし、邪石の力を抑えるのに、ただのクォーツでは意味がなかったらしい。


(やはり、ローズの力を借りるべきだったか……)


 魔石の力を使えば、クォーツの浄化の力を強めることができるだろう。

 邪石を浄化することもできるかもしれない。

 しかし、敵に闇の魔石商がいることを考えると、ローズの居場所を悟られるかもしれない。

 そう考えると、どうしてもそれができなかった。


「それで、今その騎士達はどうしている?」


 パーカーは説得を諦め、今は目の前の問題に向き合うことにしたようだ。


「とりあえず、俺が気絶させたから、保健館に運ばせている。今から、邪石を確認しに行く。パーカー、お前は騎士達に話を聞いて状況を把握してくれ」


「いや、俺も行く」


「駄目だ。パーカー、邪石の影響がどれほどか分からないままにお前が突っ込んでも無謀なだけだ。騎士達も混乱しているだろう。ついてやってくれ」


 ジェイドには、ローズにもらった魔石がある。

 おそらく邪石の影響を少しは抑えられるだろう。賊と剣を交えた時も、何の問題もなかったのだから。


「……あぁ」


 苦渋の表情で、信頼する友人であり有能な補佐官は頷いた。


 広い基地内の西側に位置する保管庫。

 保管庫も宿舎と同じく赤煉瓦造となっており、横に三棟の保管庫が並んでいる。問題があった保管庫は第一保管庫で、主に事件の資料などを保管している棟である。

 保管庫近くの日陰では、乱闘に巻き込まれ、怪我をしている騎士達の手当てが行われていた。

 実際に保管庫の警備をしていたのは四人だったが、騒ぎを聞いて駆け付けた騎士達が巻き込まれ、数十人規模での乱闘となってしまったようだ。

 ジェイドが報告を受けてかけつけた時も、ほとんどの者がぼろぼろになりながら殴り合っていた。その様子が正気でないことはすぐに分かった。だから、全員を気絶させ、邪気にあてられていない騎士達を呼んで手当をさせていたのだ。邪石の影響を受けた者はまだ気を失っているが、巻き込まれた者達は意識を回復していた。

 騎士達はジェイドとパーカーに気づくと、申し訳なさそうな表情を浮かべた。


「そんな顔をするな。お前達は何も悪くない。怪我がひどくなくてよかった」


 傷ついた騎士達に近づき声をかけるが、彼らは恐縮したように頭を下げる。


「……俺は今から保管庫を調査する。今、誰が鍵を持っている?」


「ジェイド様が中に入るのですか!?」


「危険です!」


 騎士達が口々に批判の声を上げる。それを手で制すると、騎士達はすぐに黙った。


「軍の指揮官である俺が現場を見なければ意味がないだろう。保管庫の外で数人待っていてくれ」


 鍵を預かり、こちらを見つめる騎士達と向き合う。


「もし俺が邪気にあてられて暴れだしたらどうにかして止めてくれよ」


 騎士達に向けて、にっと笑うと何故か数人がびくついていた。


「そんな……王国軍最強のジェイド様には誰も敵いませんよ」


 手当てをしていたロイが弱々しい声で言う。


「どんな手を使ってもいいから、必ずだ。俺を倒せたら昇格間違いなしだぞ」


 冗談のつもりで笑うが、誰も笑ってはいなかった。パーカーも、難しい顔をしている。


「じゃ、行ってくる。後のことはパーカーに任せる」


「ジェイド、気をつけろ」


 という声を背中に受け、保管庫に向かって歩き出す。



 保管庫の中は、何列にも棚が立ち並び、事件や事故の証拠品や押収品などが多く置かれている。中でも特殊な物に関しては、奥の小部屋に保管されていた。

 奥に進むにつれて、ジェイドの魔石が反応し始める。薄暗い室内に、リビアン・グラスの輝きが淡く広がった。

 そして、ジェイド自身も肌で異様な空気を感じていた。

 奥の小部屋にたどり着き、鍵を開ける。

 中に入ると、魔石の輝きが増した。武器に埋め込まれた邪石が、どす黒い光を放っている。兵士達が暴れたのだろう、部屋の中は物が散乱していた。置いていたクォーツも砕け散っている。床に落ちていた武器を手に取り、邪石の怪しい輝きを見つめる。


「何故、いきなり力を発揮したんだ……?」


 あの森で争った時には、ここまでの力はなかったはずだ。だから邪石の力はまだ完全に発揮されていないのではないか、と考えていた。しかし、今のこの状況を見て邪石の力が発揮されていないとは思えなかった。現に、兵士達の心を乱し、争いを生んだ。

 邪石は、あの賊の様子からしても精神面に何らかの影響をもたらしているのは間違いないだろう。

 しかし魔石の魔力に通じていないジェイドでは、推測の域を出ない。

 この王国で魔力に通じているのは、今はもうローズしかいないだろう。本当にこの国を邪石の脅威から守りたいのであればセラフィナイト王家の姫の力を借りるべきだろう。

 先程、ローズを突き放してしまったことを思い出す。あの責めるような視線から、ジェイドは逃げた。ローズが傷つくところを見たくなくて、関わらせないようにしている。

 だが、本当にそれでよかったのだろうか。


「俺は、どうすればいい……?」




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