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晴れ、ときどき

作者:

ファンタジーとか銘打ってますが、実際そんなファンタジーじゃないです。

ちょっと非日常?的な感じ。

『……今日は、全国的に晴れ間が広がり、絶好のお出掛け日和となるでしょう。しかし、一部地域では――が降る可能性がありますので、念のため傘の持参を……』

 ピッ。

 天気予報を映していたテレビの電源を切り、急いで支度を整える。年甲斐もなく、心が弾んだ。

 ――そうか。今日は、アレが降る日なんだ。

 お気に入りの日傘を手にした私は、鼻歌混じりに外へ向かって歩いて行った。


 午前中の空気は冷たくて、心地がいい。あまり寝起きはよくない私だが、この爽快感だけは堪らなく好きだった。

 日傘越しに視線を上げれば、青く澄んだ背景に、白いカーテンが薄く掛かっている。確かに、絶好のお出掛け日和のようだ。

 せっかくだから近くの公園にでも立ち寄ろうと考えた私は、それまで当てもなくフラついていた足を、そちらに向けて進めていった。

 途中の並木道に入ると、仕事や学校へと向かうのであろう人たちと幾度かすれ違った。……そっか。お出掛け日和だとか言ってたけど、今日って平日だったっけ。私は振替休日をもらっているから完全にお休みモードだったけど、世はそうじゃないみたい。こんな日に仕事だの勉強だのしなくちゃいけないなんて、みんなもったいないなぁ。

 まぁ、他人のことなんて私には関係ないから別にどうだっていいけどさ。

 やがて並木道を抜ける少し手前ぐらいで、不意に濃密な香りが私の鼻腔を満たした。甘ったるい、独特な蜜の香り。あまりに甘美な空気に、私の胸が大きく高鳴った。

 ――もうすぐだ。

 そう思ったと同時に、薄くカーテンの掛かった青空から、待ち望んだモノが落ちてきた。

 目に眩しい、オレンジ色の小さな花。微かな風に乗って、ふわりふわりと漂いながらゆっくりと落ちてくる。

 それは、金木犀の花だった。甘い香りが、落ちてくるたびにどんどん強くなっていく。甘美なまでの濃厚さにクラクラして、まるでお酒に酔っているみたいな気分になった。

 小さなオレンジ色が、徐々に灰色の武骨なコンクリートを鮮やかに染めていく。その様子もあまりに美しくて、思わず見惚れてしまった。

 あと数分ほどで、この現象も終わるだろう。それまでの僅かな時間こそが、私にとっての至福の時間なのだ。


 ――ある地域では年に数度、限られた時間に花が降る。それぞれが持つ香りを振り撒きながら、その存在を主張する……いわゆる、貴重な晴れ舞台というやつだ。

 今回は、甘く強い香りを放つ金木犀が降った。


 さて……次は、何の花が降るだろう?

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