VISITOR 3
†
死体が動いたと世間が大騒動になって数日が経ち、慌ただしかった祐と香の生活も、ようやく普段と変わらなくなった。
色々恐い目にもあったが、二人は彼女の葬儀に出た。出棺まで見届けた後、制服姿のまま二人帰り道を歩いていた。
「あの子…死んでまであんたを追いかけるなんて、本当にあんたが好きだったんだね…こんなろくでなしなのに」
「うっせぇな」
不満げに、祐が唸る。
執念かもしれない。ただ好きで好きで、その一念で、心が歪んでストーカーになって。
彼女がした行為は決して褒められることではないけれど、彼女が祐を好きだったという気持ちを非難するつもりは香にはない。
「で、あんたの好きな子って誰?あんたが人に優しくするなんて気持ち悪いけど、一度見てみたいわ、その相手」
「…鏡でも見ろ」
ぼそっと呟いた祐に、香は意味が解らないと首をかしげる。
物分かりの悪い相手を引き寄せて、彼女を抱きしめる。
「な、なななな何?」
「解るか?俺の心臓、動いてないの」
何の冗談かと思ったが、そっと左胸に耳を押しあててみた香は、全く鼓動の聞こえない相手を見上げる。
そう言えば、幼馴染の顔色がずっと血色不良のままで、自分を抱きしめている祐に全く温もりがない事にようやく香は気付く。
「え、い、何時から?」
「あの事件から」
「う、うそ!?じゃ、何で動いているの?」
「…死んでも執念で生きたのは、あの女だけじゃねぇって事だよ」
そう言って、祐は香の唇に軽く口付ける。
熱の無い、冷たい口付けだった。
「俺は諦めねぇ。お前を置いて逝かねぇから、覚悟しろよ?」
ニヤリと不敵に笑った相手に、香はわなわなと震える。
「いやぁぁぁぁっ!!今すぐ成仏してぇ!ファーストキスも返せぇ!!莫迦祐~っ!」
泣きそうになりながら叫んだ香の声は、雲一つない空に吸い込まれるように響き渡る。
前途多難な彼女の横で、厄災を運ぶ男はただ嬉しそうに笑った。
END
本当は、一話まるっと短編で投稿したかったのですが、描写が描写なので、クッションを置く意味で三話に区切ってみました。
ドロドロな残酷描写ではありませんが、苦手な人は不快かと思われるので救済処置的な感じです。
どうしても作品がホラーになりきれなかったのは、自分の背後が怖くて仕方なかったから(笑)
閲覧いただき、ありがとうございました。