政略結婚で産まれた誰にも愛されない子と義母と異母妹にいじめ抜かれていましたが、政略結婚で麗しい盲目公爵様に嫁いだら、激甘に甘やかされてしまいました。
パリーンッ。
まただ……。
夕食中、異母妹のカミラが皿を割ったのだ。
よりによって熱々のトマトスープの入っていた皿をわざと割ったのだ。
(熱い……。)
隣の席に座っていたサフィアの水色のドレスには、ベットリとトマトスープがつき、赤色に染まったのであった。
カミラは悪意のこもった眼差しを隠すことなくニタニタと笑っていた。
「あら~。ごめんなさい。お姉様。手が滑ったみたい。」
赤茶色の髪の毛にピンク色のリボンを付けている異母妹のカミラが、サフィアに謝った。
言葉では謝ってはいるが表情はそれとは反対である。
トマトスープをかけられたドレスは、貿易業をしている父がサフィアに贈った物であった。
サフィアが声を発する前に、前の席に座っていた義母が遮るように言葉を放つ。
「可愛い妹がしたことは、姉は当然許してあげるものよ。わざとではないのだし。あなたは姉なのだから。」
わざとではない……。姉なのだから……。
いつものお決まり文句でサフィアを咎めた。
「はい。わかりました。」
サフィアも、またいつものお決まりの返事をする。
他の言葉を選択しようものなら、どんな罵声が飛んでくるかわからない。義母の気分によっては叩く等のしつけという名の体罰になる可能性もあるのだ。
スープをかけられた箇所がジンジンと痛かった……。
それを表情に出さず、サフィアは、2人に綺麗にお辞儀をした。
その後ニコリと微笑んだが藍色の瞳は少し揺れていた。
食事の途中で退室し、自分の部屋へと戻っていく。
部屋の去り際に、良い気味だ。パパからあんなドレス貰うなんて生意気よ!私の宝石の装飾がある可愛いドレスと違って、地味な色に刺繍しかない地味なドレスたけれど許せないわ!
例え地味なドレスがお似合いだとしても!
あの子は本当に愛想もない、お高く止まって目障りね~!流石、親子共に誰にも愛されてないだけあるわ~。
わざと聞こえるように義母と異母妹はサフィアに向けて言っているくるのだ…………。
クスクスと笑い声も聞こえてくる。
誰にも愛されていない………。
言葉が心に楔のように差し込んでくる……。
駄目だ……表情を崩しては……余計に事態は悪くなってしまうから。
♢♢
サフィアの父の家門と実の母の家門は、帝国の伯爵家の中でも名門の3つの家門の一つであった。
父と母は家同士の政略結婚であった。
2人とも金髪に藍色の瞳を持つ美男美女であったと聞いている。
サフィアの幼い頃の記憶では政略結婚ではあったが、父と母は仲睦まじかったはずだった。
義母と異母妹は、サフィアの実の母が亡くなって間もなくして伯爵邸に来たのであった。
♢
義母は子爵家で父の家門とは釣り合いが取れてなかったが、父と義母の2人は幼馴染みだったのだ…………。
異母妹は、サフィアの約半年後の誕生日である…………。
♢
母が流行り病でなくなった後、暫くして父は義母と異母妹をこの邸宅に連れてきた。
それから、貿易事業が忙しくなっていったのもあるが、父はほとんどこの邸宅にはいなかった。
月に一回程度は帰宅するのだが、数時間でまた出掛けるということも多かった。
…………が、こまめに贈り物は届けてくれた。
世界中を飛び回っている父は各地から、贈り物を届けてくれるのであった。
母が亡くなってから父とはほとんど話したことがないが、贈り物はいつもサフィアが気に入るものばかりであった。
しかし、それらの贈り物を義母と異母妹は、ことごとく因縁をつけ踏みにじり壊したりしてくるのであった。
♢
────パタンッ
サフィアは自分の部屋のドアを閉めた。
フーーッ
長く息を吐いた。そして、低い声で呟き始める。
「ていうか!毎度毎度ワンパターンなんだよ。
そして熱いスープを人に投げるなっ。熱いだろ!火傷したわ!本当に品性の欠片もない奴らめ。」
つらつらと悪態をつき、おもむろにドレスを脱ぎ先程スープを投げられたた箇所を鏡で見る。
「チッあの阿呆どもやってくれるわ。」
サフィアの白く滑らかな肌が、赤くなっていた。赤いところはジンジンと痛みがあった。
サフィアはその箇所に手をかざす。
するとポゥッと手から光が出て、赤くなっていた箇所は、また白い肌へと元に戻ったのであった。
フッ。
サフィアは鼻で笑った。この治癒魔法は母が流行り病で亡くなった後、急に出来るようになったのだ。
大切な母は救うことが出来ず、自分のために仕方なく使うこの治癒力が.サフィアの助けにはなっているが、あまり好きではなかった。
その為、最低限しか治癒の魔法を使っていないのである。
サフィアは簡素な服に着替えた後、父から貰った素晴らしい刺繍のある水色のドレスを拾い上げ、トマトスープて汚れた箇所に復元魔法をかけた。
すると、先程まで赤く汚れていたドレスが、元に戻り綺麗になったのである。
良かった………この独自の技術が散りばめられている素晴らしい刺繍のドレスを元通りに出来た。
これはある地域でしか手に入れることが出来ないドレスである。
ドレスを抱えて、足の小指に嵌めてある収納リングに自分と共に入っていくのであった。
収納リングの中は、とても広くサフィアの唯一落ち着く空間である。
この、収納リングは便利な魔道具だ。
父から貰い義母達に壊されたりした物が全部収納してある。1度何かをすれば義母達の気は済み、その物の事を忘れるので1度壊されたりしてから、復元し収納しているのだ。
「本当に奴らは単純で浅はかで愚かな者達だね。ハハハッ。」
乾いた笑いをした後、藍色の美しい目に狂気の色が混じる。
「目障りな者たちだ。この邸宅ごと跡形もなく消してしまおうか?」
ギュッと拳を握りしめる。
何度となく怒りと共にそのような考えが浮かんでくるのであるが、行動には移さなかた…………。
全て跡形もなく消してしまいたかったが、今は嫌な思い出が多いこの場所だが、幼い頃母と過ごした大切な場所でもあるからだ。
そして…………優しい使用人達の存在も大きかった。
深く長いため息をついた。
♢
この収納リングには今まで父から貰った物がほとんど収納されていた。
最初の頃は壊された後、復元した物達をどうしようかと思っていたが、執事のセバスが収納リングをくれたのであった。
執事のセバスは、母が実家から連れてきた使用人である。
サフィアが困った時は何かと助けてくれるのであった。
サフィアは、収納リングにある物をぼんやりと眺める。
不思議なことに父から貰った物はどれもこれもサフィアが気に入るもので、良い品物ばかりであった。ここ数年は辺境の地ルイス産の物が多かった。
フーーッ
また溜め息が出た。母と私を裏切った父は嫌いだが、この品物達と、この空間は好きなのだ。
そしてそれらに囲まれていると、父の事を許してしまいそうになる自分が嫌だった。
本棚から一冊の本を取り出す。最近は辺境の地ルイスに関する書物を読むのがお気に入りだ。
同じ帝国ではあるが、辺境の地であるがゆえ、少し帝国と違った文化などがありそれらを知れば知るほどルイスへの興味が強くなっていくのであった。数10年前迄は、本当に辺境と呼ばれるに等しい所だったようだ。
それが新しい領主になり、変貌を遂げたようであった。
実に興味深い。
実に惹かれるのだ。
♢
グウウ~
サフィアのお腹が鳴った。
そういえばスープしか飲んでなかったことに気がつく。
お腹にそっと手を当てる……。
お腹……すいたな……。
トントントン……。ドアをノックする音が聞こえた。
「サフィアお嬢様、失礼します。」
執事のセバスが来たようだ。
サフィアは収納リングから出て、部屋に戻った。
「サフィアお嬢様。リングの中でしたか。
こちら、お持ちしました。」セバスはこっそり持ってきたサンドウィッチをサフィアに渡した。セバスの皺のある手が触れる。
「いつもありがとう。セバス……。」
「いえ、こんなことしか出来ず申し訳ありません。」
セバスは申し訳なさそうな顔をする。
サフィアは首を横に振った。
セバスは充分良くしてくれている。このように食事を抜かれる事がよくあるのだが、今日まで生きてこられたのはセバスの差し入れがあったからであろう。
これが使用人の出来る最大限の事であろう。
もし、義母達に難癖を付けられているときに使用人が仲裁しようものなら、とんでもないことになってしまうであろう事は容易に想像できる。
紙袋に入っていたサンドウィッチを頬張った。
サフィアの好きなクラブサンドだ!!
料理長が作ってくれたのだ。
多くの使用人達が、自分達の出来る範囲でサフィアを助けてくれる。
それがサフィアにはありがたかった。
料理長お手製のクラブサンドはとても美味しかった。トマトにレタス、ベーコン、オムレツがなんとも良いバランスで美味しかった。一通り食べてからサフィアが何かを思い出した。
「ゼバス。これどうぞ。」
サフィアは机の引き出しから刺繍の入ったハンカチを2枚出した。
金色の糸でハンカチの縁に唐草と青い糸で小花を刺繍した物だ。
「素晴らしい出来映えですね。なんとも素敵なハ
ンカチです。本当に頂いてもよろしいのですか?」
サフィアは、セバスにハンカチの出来映えを褒められ、嬉しさと恥ずかしさで顔が真っ赤になっていたが、コクンと頷いた。
「これだけしか出来なかったけど、良かったらどうぞ。」
以前サフィアがセバスにハンカチをプレゼントしたところ、大層喜んでそれを他の者に見せたら、美しい刺繍を気に入り作って欲しいと言われたようで、セバスに頼まれていたのであった。
セバスは刺繍を称賛し、丁寧にお礼を伝えた後、部屋を出ていった。
──サフィアの顔は真っ赤になっていた。
普段、義母達に嫌がらせをされたり、先程のように誰にも愛されていないなど罵声を浴びせられる為、自分の価値がとても低いような気がしているのである。
そうではないと自分に言い聞かせるが、義母達に投げ掛けられた言葉はサフィアの心の奥に黒い影を落としているのであった。
褒められ慣れていないこともあるのだろう。
少し褒められると、どうして良いかわからなくなる…………。
恥ずかしいような、嬉しいような。
♢♢♢
あれから2ヶ月ほど経った朝の事である。
邸内が、バタバタと騒がしかった。
此れは………。あの人が帰ってくる。
父が帰ってくるようだ。
案の定、暫くしてから、サフィアの部屋のドアがノックされた。執事のセバスが父が帰ってくる事を伝えに来た。
いつもそうだ。父が帰ってくるときは何の先触れもなく急に帰ってくるのである。
準備が出来次第、家族全員応接間に集合との事であった。
♢♢
応接間に到着すると、義母達はまだ来ておらず父だけがソファーに座っていた。
父に丁寧にお辞儀をし挨拶をした。
父はサフィアと同じ金色の髪の毛に藍色の瞳である。年齢は重ねているが、とても綺麗な顔立ちなのだ。
いつも父と2人でいると気まずい雰囲気になる。
父は、私を裏切った……父の事は憎い……のに。
……なのに、藍色の瞳を見ていると心底父を憎むことが出来ないのであった。
父もサフィアをじっと見つめるが、その眼差しは、温かく愛おしさと罪悪感が入り交じっているように見えるのだ。
────何故、何故父はいつもそんな風に私を見てくるのか?
これでは憎みたくても憎みきれないではないか。
恨みたくても恨めないではないか。
何なのだ。
モヤモヤと考えていると、ドアをノックする音が聞こえ、義母と異母妹のカミラが応接室に入って来た。
義母とカミラはいつもより着飾っていて、サフィアを押し退けて父に思いっきり抱き着くのであった。
いくら家族とはいえ伯爵家の妻と娘の振る舞いではないのであるが、流石は、政略結婚ではなく恋愛で結ばれた関係とでもいうのか、感情のままに父への好意を全面に出して接しているのであった。
父はそんな2人に一瞬顔を強ばらせたが、咎めることなく、ヨシヨシとなだめた後、2人を席に座らせた。
「今日は大切な話があって、朝早くから申し訳ないが皆には集まって貰ったよ。」
父の声は低いが優しげな声だ。義母はじっと父を見つめる。
「実は……縁談の話が来ている。」
「えっっあなた!縁談ですって?まだ2人には早くなくって?サフィアは16歳。カミラはまだ15歳なのよ。」
「フム……。確かに早い方ではあるが格別に早いわけでもないだろ?」
まぁ…………、えぇ……と義母は頷く。
「先方は、私の事業にとって切っても切れないとても大切な相手なのだよ。」
そんな相手と縁談の話があった、と言うことは決して断れない縁談という前置きで父は言っているのであろう。
「お相手は、ロディー・ウィストン公爵だ。」
義母とカミラは公爵という爵位に色めきたった。
…………サフィアだけがその次に続く言葉を予測していた。
「辺境の地ルイス領のロディー・ウィストン公爵だ。」
義母とカミラは先程とは打って代わり眉をひそめ難色を示したのであった。
父は、そんな2人をじっと観察していた。
「年齢は25歳。そしてこの方は…………盲目だがとても有能な方だ。我がソレイユ伯爵家の娘と結婚を望んでおられる。どうだろうか?」
チラリと義母の方を見ると、父に隠すことなく怪訝な顔をしていた。
辺境の地という辺りから嫌な顔をしていた。
「あなた、やっぱりその方はカミラには釣り合わないというか……。カミラが可哀想だわ。」
「辺境の地ルイスというのも……駄目よ。あんな帝国の端で辺ぴな何もないような所は!
そして、公爵様は目が見えないですって?そんな身体の不自由な人のところにカミラを行かせられないわ!苦労しにに行させるものじゃないの!歳もはなれ過ぎではなくって?あなた……!それではあまりにもカミラが可哀想だわ。それに、カミラには私と一緒で愛する人と結婚して欲しいの!」
「お父様!私もそんな人の所にお嫁に行きたくありません。そんな目の見えない人の世話をして一生を終えたくありませんわ!お父様ったらひどい、ひどいわ。」
爵位が上の相手の縁談話をそのように批判するのは不敬に当たるのだが、お構いなしに自分の意見をベラベラと話すのであった。
父が差し出した相手の姿絵を見ることなく断固として拒否をし続けた。
2人が一通り、この縁談について拒否をした後、父は再度話し始めた。
「最初に言った通り、この縁談はウィストン家と我がジニアス家との家同士の結婚なのだよ。」
父がそう言うと母は納得したように頷いた。
「フフフッあなた!わかりました。これは政略結婚と言うことね。…………だったらっ」
チラリと義母がサフィアを見た。
カミラがクスクスと笑い小さな声で、お得意の政略結婚ですって!お姉様にピッタリだわ。
嫌味たっぷりにサフィアを見る。
義母も、ジニアス家の娘で、誰でも良いのならサフィアがいいわ。可愛い娘にそんな酷い縁談、可哀想!!
お姉さんなのだからサフィアに行かせるべきよ。それが姉のつとめというものだわ!
義母と異母妹は、サフィアに嫁がせることで意見が一致したようだった。
父は藍色の瞳でその様子をジーッと見つめていた。
「…………では、ロディー・ウィストン公爵様の結婚相手はサフィアということでいいね。」
義母と異母妹は頷き、サフィアも頷いた。
「尚、先方に失礼になるため、1度決定した事項は何があっても覆らない事とする。」
父はもう一度3人を見つめた。3人は再度頷いた。
「では、サフィアには早速行って貰うとしよう。」
父は義母とカミラを退室させ、部屋には父と2人だけとなった。
「やはり、あの2人は上部だけしか見ていないな。そして嫌なことは、サフィアに押し付けるのだな……。私の愛しい我が子サフィアに。」
小さく低い声だった為、ほとんど聞き取れなかった。
サフィアは父に結婚相手の姿絵を見せてもらった。
姿絵を見たその瞬間であった。
…………心臓が早鐘のごとく鳴るのであった。
惹かれていた辺境の地のルイスの領主だ。
…………その姿は少し厳しそうではあるが、父以外でこんなに美しい男性は見たことがなかった。
銀色の長い髪に美しい紫色の瞳であった。
姿絵を見ただけなのに…………!
目が離せなくなるのであった。
自分でもわかった。
…………初めて恋に落ちたのだ。
様々な品物や書物を読み、ルイス領には惹かれていた。興味があった。
しかし…………今日初めて結婚相手の姿絵を見ただけなのに…………。
恋に落ちてしまうだなんて……!
そんなサフィアの様子を優しく見守る。
「やはり…………。私たちの子だな。」
また、低く小さい声で呟くのであった。
♢
父の話では、サフィアがルイス領に到着したら直ぐに結婚式を挙げるということになっているとの事だった。
ルイス領には、魔方陣を使用して行く事となった。
ロディー公爵が魔方陣と魔道具を組み合わせて作った物だそうだ。
……サフィアはあまりにも素晴らしい魔道具に腰が砕けそうになった。
これは…………収納リングにも似通った物を感じた……。サフィアはじっと父を見つめた。
「一つお聞きしてもよろしいでしょうか?」
父は頷いた。
「セバスや使用人達は……。」
(自分の事よりも使用人達の事を気にするのだな。)
「心配ないよ。…………実は私の事業が一段落してね。これからはこの邸宅を中心に生活が出来るのだよ。」
サフィアの表情が途端に暗くなった……。
要は3人で暮らすために私を追い出したのだ。
ならば回りくどく皆に聞かずにさっさと私に指示すれば良かったのではないだろうか?
心の中で嫌な感情がグルグルとし出したが、何とか体裁を整え小さい声で、3人でお幸せに……、、というのが、精一杯であった。
父は首を大きく横に振り、サフィアの手を取った。
父の手は、温かく大きかった。
「………………いずれは3人ではなく、私1人になるだろう…………。」
藍色の瞳は、何かを決意しているようであった。
父は優しく転移魔道具までエスコートし、見送ってくれた。
「すまなかった。……それでも私にはお前の幸せを願わせて欲しいのだよ。」
低い声でサフィアに話しかける。
魔道具の作動音で、父の声がかき消されるが、優しい眼差しはサフィアに届くのであった。
サフィアが旅立った後、父の頬には涙が伝っていた。
その涙をそっと刺繍入りのハンカチで拭うのであった。
♢♢
初めて会ったロディー・ウィストン公爵は、姿絵よりもずっと美しかった。
銀色の長い髪、前髪は上げ紫色の瞳を持つ麗しい男性であった。
男性なのにとてつもなく色気を感じた。
そして何故か……。
いつの間にかサフィアは夫になるロディー公爵の膝の上にいた。
ロディーに、ピッタリと抱き締められていた。
2人の境目かなくなるかのように……抱き締められていた。
何か、いい匂いがする。
何か、耳の当たりに息がかかっている!
自分の体と違い大きくて程よく筋肉がある体を感じるのだ。
…………サフィアは…………キャパオーバーになっていった。
♢
ルイス領には、ロディー公爵の魔道具で少しの魔力で無事に転移できた。
魔道具から、勢い良く飛び出し、こちらに来たのだが、その先にロディー公爵が両手を広げ飛び出してきたサフィアを抱き止めたのであった。
いつ魔道具から飛び出しくるか、正確にわかっているかのようだった。
そして、盲目と聞いていたのだが、ロディー公爵はサフィアが見えているかのようであった。
公爵の美しいガラス玉のような紫色の瞳で見つめられると、ドキドキし過ぎてどうして良いかわからなくなるのであった。
「緊張しているね。色々聞きたい事もあるようだ。私は目はあまり見えないけれど、目以外で全て視る事が出来るのだよ。そう……見える者達よりも、隅々までね。」
ロディーはサフィアの金色の美しい髪の毛を、自分の細く長い指に巻き付け甘美な唇でキスをした。
その仕草が何とも美しく色気がある為、どうして良いかわからなくなるのであった。
ロディーは、何故かサフィアに対して、とてもとても愛おしそうにに接してくるのだ。
────だけど、もっと訳がわからないのはサフィアもまた、ロディーの事がとてもとても愛しく感じるのであった。
今日初めて会ったのに、だ。
恥ずかしいが落ち着くのだ。
初めて会った気がしないのは……、今日の転移の魔道具と収納リングからも感じた……。
魔力の雰囲気が一緒だ。
思わず見上げて、ロディーを見た。
「フフフッ流石はサフィアだね。わかったのだね?」
ロディーの綺麗な銀色の髪の毛が、サフィアの肩に触れた。
そして、柔らかな唇がサフィアの頬に、額に触れるのであった。
「私はね、目がほとんど見えない替わりに、目以外のもので目以上に、全てを見ることが出来るのだよ。」
にこりと甘美な表情で微笑む。
「例えば私が作った魔道具を通してとかね。」
「サフィアの事は、ずっと見ていたのだよ。がんばり屋さんな所とか、優しいところとかね……。」
義母達に対しては、かなりの悪態をついていたが…………それらも全てロディーは知っているのだろう。
ピッタリと寄り添いサフィアの頭を優しく撫でてくれるのであった。
「私達は家同士の結婚。謂わば政略結婚だけれど、、。サフィアのお父上とお母上のように愛し合い仲良く暮らしていきたいと思っているよ。」
サフィアは、海よりも深い藍色の瞳を大きく見開いた。
「お父上はとても愛しているよ、お母上の事と…………そして、サフィアの事をね。」
母と私を愛し、義母と異母妹も愛した?
博愛主義者の度が過ぎませんか?
「本来ならこんなに大事なことは本人が伝えるものにだけどね。色々こじれてしまったのようだ、お父上は。」
ロディーは紫色の瞳で、じっとサフィアを見つめ身体全体で包みこみながら、今までの父の事を話してくれた。
♢♢
(父は……阿呆だ。何も父は悪くないではないか。いくら父が優しい人だとしても、いくら義母とは幼馴染みだとしても。
酷いことをした義母に温情をかけるなんて…。なんて阿呆だ。
──そして、父の子は唯一私だけだったということだった。)
幼馴染みだった義母は一方的に、父に対して好意を抱き、義母の弟と共謀し父に媚薬入りの酒を飲ませ既成事実を作ろうとした。
行為事態は、結局は無かったようだが父は行為があったと思い込まされていたようだ。
そして、母が亡くなり、父の心が弱っているタイミングで父を拐かし、伯爵邸に潜り込んだのだ。
──父の唯一愛した人は、母だけだった。
だが、義母の事も幼馴染みとして大切にしたかったようだ。
父のその甘さが私を、そして父を長年苦しめた。サフィアは怒りがこみ上げてきたが、込み上げてきたのは怒りだけではなかった。
ロディーは、優しく頭や背中を撫でてくれた。
何の感情かわからない涙がサフィアの頬を伝った。
その涙を刺繍入りのハンカチでロディーが丁寧にそっと拭いてくれたのであった。
♢
その後、その日のうちに結婚式が執り行われ無事に終了した。
小規模だが厳かで良い式であった。
サフィアのウェディングドレスはルイス領独自の技術が散りばめられた素晴らしいものであった。
白いドレスに刺繍がふんだんに入れられ複雑なカットが施されたガラスが散りばめられていた。
あまりの素晴らしさに感動し涙が出た。
実家ではほとんど泣かなかったのだが、ここに来て酷く泣き虫になったみたいだ。
ロディーのタキシード姿も、色気!
すごく格好良かった。
誓いのキスは、少し長めに唇にしたのであった。
♢
式が終わり夜になった。
長い1日だったが、まだ1日は終わっていない。
嫌、寧ろここらからが本番?新婚夫婦の甘い時間の始まりである。
♢
寝室のソファーで、色々と語り合った。
その後…………いつの間にか2人の視線が熱く絡み合う。
ロディーはサフィアを軽々と抱き抱えベッドへと連れていき、そっと下ろす。
服を脱ぐと程よく筋肉のある美しい上単身が露になった。
初めて見る男性の、……しかもとても美しく色気のある体にぼーっとなるのであった。
ロディーは、目の前の美しい少女を目以外の機能をフル稼働し隅々まで見つめ、あらゆるところにキスを落とした。
♢♢
朝になり目を覚ますと、銀髪の美しい男性が肩肘をつきサフィアを見つめていた。
「おはよう。サフィア。」
「おはようございます。ロディー様。」
昨日の甘い情事後の為、気恥ずかしさがあったが挨拶をした。
これからは、毎日のように挨拶することが出来るのであろう。そう思うとサフィアの心に嬉しさが広がった。
♢♢
それから毎日2人で色々話し合い、領地の為に尽力をつくした。そして…………愛し合った。
月日は瞬く間に流れていく。
サフィアが嫁いだ日と同じ季節の何回目かのある日の事である。
レースのカーテンから暖かな陽が差し込む。
お腹の大きくなったサフィアがソファーに座っており、そのお腹に夫のロディーが耳を当て、お腹の中の新しい命を、感じていた。
愛しい夫ともうすぐ産まれてくる我が子。それだけで、もう幸せだった。
見渡すと、独り身になった父からの、赤ん坊へのおもちゃ等が溢れかえっていた。
父へのわだかまりはまだあるが、父の優しさは知っているし、残りの人生は穏やかに幸せに過ごして欲しいと願えるようにはなっていった。
ロディーは優しげに見つめる。
そして立ち上がると、少し前かがみになり愛しい妻の柔らかな唇にキスをしたのであった。
────終わり────
お読み頂きありがとうございました!
前作の「黒いベールを被せられた私は、結婚式を挙げた直後に塔に幽閉されそうになりました。」に続きざまあ系の短編は2作目となります。
2作目よりも字数多く甘さを少し?入れまして、ざまあの描写は少な目になりました。
気に入られましたら、ブックマーク、評価、レビュー等して頂きますと、大変喜びます!
裸で踊るくらいには……。喜びますね。
前作は沢山の方にお読み頂き嬉しかったです。
ありがとうございました。
※本日5月2日17時にもう1本新作を投稿予定です。こちらはさらっと3000字なので、よろしければこちらもどうぞ。↓
真実の愛?…………同感ですわ!




