灰色の地平線と偵察準備
砲撃の余韻が、まだ地面の奥で震えている。
僕らは相手が撃ち返してくる前に、塹壕の狭い通路を急いで進んでいった。
空気は重く湿っており、さっきの砲の咆哮がまだ胸の内側に響いている。
その重い雰囲気を切り裂くように、ルーがぼそりと不満を漏らした。
「敵陣の偵察なんて、こんな時にやるもんじゃねーよな? クリス」
冗談めかしているようで、その口元はわずかに震えていた。
「あぁ……そうだな」
僕も同じ気持ちだった。いや、むしろ僕のほうが怖がっている気がする。
砲撃から少し時間が経ったが、相手は撃ち返してこない。
それが逆に不気味だった。
何かの思惑かもしれないが、今は砲撃に怯えずに済むだけまだましだ。
そんなことを考えていると、上官である中尉から呼び出しがかかった。
「クリス、ルー。もうすぐ夜になる。二人で先行して、敵陣の有刺鉄線の状況を確認しろ」
中尉の声は低く、わずかに震えていたが、それでも僕らには勇ましく聞こえた。
僕たちは無言で頷き、塹壕の壁に小銃を立てかける。
偵察では邪魔になるため、小銃は置いていく。
代わりに拳銃と棍棒を装備した。
空はすでに暗くなり始めていた。
僕とルーは仲間に手伝ってもらいながら、顔に泥や炭を塗りつけ、最低限の装備だけを身につける。
梯子に足をかけると、木の感触がやけに生々しく伝わってきた。
一段登るごとに、心臓の鼓動が早まる。
地上に出れば、もう僕たちを守ってくれるものは何もない。
ゆっくりと塹壕から身を乗り出す。
そして僕らの目に最初に飛び込んできたのは、うっすらとした月明かりに照らされ、砲撃で何もかもが吹き飛んだ灰色の地平線だった。




