オークED その3
「そして私の目論見通り、オークソープは大ヒット。世界中の欲求不満のセレブ達を天国に誘うお店として政財界に轟いたわ。いやあ、良いわよねオークって。底なしの性欲に東洋の硬さと西洋の長さを持ち合わせた、ご立派な物干し竿。もう理想のパートナーよ」
奥井さんは嬉々とした表情でオークについて饒舌に語った。
しかし、隣にいるオークは浮かない顔をしている。
オークの様子に気づいてないのか、奥井さんの話はまだまだ止まらない。
「それから程なくして異世界の文化を取り入れた歓楽街となった河原町の名は、一般市民にも浸透したわ。そして異世界人の活躍は歓楽街からエンターテイメント業界にまで拡大。若い期間の長いエルフは、生涯推せるアイドルとして、男性グループ、女性グループ共に連日メディアを賑わせてるわ。それに性産業においては、オークというジャンルを確立させ、魔法の力で時間停止物のヤラセは五割にまで減少」
知ってる知ってる。
この世界でも魔法は使えるから、時を止める魔法使いはそっち方面では引く手数多なんだよな。
使い手が少ないのと、ちょっと面倒な制約があるから、時間停止物を全部本物にすることは不可能だけど。
ちなみに奥井さんの話には出てないがモンスターを使ったジャンルもある。
まあ何のモンスターを使って、どのようなプレイをするのか、口にするのも憚られるものだから、あえて黙っていたんだろうけど。
「それだけ異世界の生き物は、私たちの生活に浸透してるの! もう彼らの居ない生活なんて考えられないほどにね」
普通の人は別に、彼らとはほとんど縁がないから大丈夫ですよ……と言葉が喉元までせり上がったがぐっと堪えて飲み込む。
先ほど奥井さんの言葉にもあった通り、河原町にある夜の店のほとんどが金持ち御用達である。
現実世界の人が人のために作った娯楽では満足できない強欲な貴人や変人を狙い撃ちにしてる。
格安店でも、独身で平均年収以上は稼いでないと生活と両立するのは困難なほどだ。
ちなみにうちのカフェは、普通の猫カフェの二倍程度。
健全に非日常を味わうには、お値打ち価格であると自負してる。
その証拠に、店内は仕事帰りのビジネスパーソンが男女共に散見される。
「それで、お気に入りのオークをどうにかしてほしいと――」
「当然じゃない! この子はね! 一晩でこの店の一年分以上の利益をあげるのよ!」
「へいへい、俺は商才が無いもんでね」
自虐でもあるが、これはうちの血筋でもある。
うちの家系は何故か、女系に商才が継がれる。
天城家の初代当主は、おばあちゃん。
現当主は、母。
次期当主は、姉である。
そして天城家の血を引く男は皆、商才がないのだ。
婿養子である俺の父はそれなりにあるみたいだが、母やおばあちゃんには及ばないらしい。
「そんなわけで、あなたには彼の治療をしてほしいのよ」
「治療と言われても、俺はそもそも医者じゃない」
「ですが、次期当主はこう申しておりましたわ。何でも、昔は魔王とお医者さんごっこをした、と」
「それは文字通り、あくまで『ごっこ遊び』だ! 小さい頃の話じゃねえか! そんな昔話を真に受けるな!」
「正直、私も『ごっこ遊び』で治療できるとは思ってませんわ。それに異世界人を診ることが出来る人間が存在しないのも重々承知しております」
「それは、ありがたい。もし本気でおっしゃってたら、大億のオーナー様に人間の精神科を薦めるところでしたよ」
「しかし、あなたを紹介したのが次期当主であることも、また事実なのです」
そう言い切った、奥井さんの目は真剣そのものだった。
あのクソ姉貴!
面倒事だけ押し付けやがって!
どうせ今頃、デスクでのんびりお茶を飲みながら、俺が苦労してるのを想像して愉悦に浸ってるんだろうな。
どう転ぶかは知らんが、クソ姉貴の顔に泥を塗らない程度に、人事は尽くしてやる。
それで解決できなかったら、それまでだ。
運が無かったと思って諦めてもらおう。
このオークが不能のままでも、俺の店の売上に影響はない。
「わかりました。手は尽くします」
「ありがとうございます。どうか、どうか……この子を救ってください」
奥井さんは深々と頭を下げた。
続いて、オークも見た目に反して、ゆっくりと頭を下げた。
とは言ったものの、何から手を付ければいいのやら……。
うーん、こういう時はまずEDの原因を探るべきだよな。
となればオーク本人から、EDに繋がる何かを聞き出すしかない。
それこそ日々の生活習慣から職場環境、はたまた交友関係に至るオークの個人情報をな。
「では、お隣の……そういえば名前、聞いてなかったな」
「ミカヅキと申します」
オークは、その厳つい身形に釣り合う渋い声で名乗った。
それも流暢な日本語で。
「これまた随分と日本になじみ深い名前だな」
俺が何の捻りもない返答をすると奥井さんが口を開いた。
「うちのお店は、世界中のセレブ達をもてなすに相応しい源氏名を与えております」
「という事は、ミカヅキってのは源氏名なのか?」
「ええ。天下五剣の一つ。国宝に指定されてる三日月宗近から拝借しております。それとも本名の方がよろしかったかしら? 日本語では発音できませんが――」
「結構だ。源氏名が呼び名なら、それでいい」
それにしても諸説ではオークは色欲魔で脳筋とか聞いてたけど、このミカヅキとかいう奴は別格だな。
話が通じそうな奴で助かった。
超高級店のナンバーワンというのも伊達じゃないようだ。
「ミカヅキは、随分と礼儀正しいんだな」
「はい。礼節は、奥井様直々に叩き込まれました」
「客商売だからな。それに日本語もお上手なようで安心したよ」
「お褒めに預かり大変光栄です」
「そんなに硬くならなくていいさ。もう少しリラックスして――」
「硬く……うっ!」
ミカヅキは両手で顔を覆うと嗚咽を漏らした。
「ちょっとあんたああああああああああ! デリカシーってものが無いのかしら! 硬くならないから苦しんでるのよおおおおおお! ああ、ごめんよミカヅキ。私が至らないばかりに――」
「奥井様は悪くありません。オレが、オレが全て悪いんですぅぅうううう」
奥井さんが物凄い剣幕で俺に怒ると、涙を流しながらミカヅキと抱きしめ合う。
二人の泣き声が店内に響き渡る。




