オークED その1
こっちのフロアは、売り場と違って客入りがいい感じだな。
俺は店内をざっと見渡す。
店内には、様々なモンスターと触れ合う、お客様で賑わっている。
閑散としてる売り場と違うのは当然だ。
こっちは、売り場に併設してるモンスターカフェ。
猫カフェや犬カフェみたいなノリで、人畜無害レベルのモンスターとキャッキャウフフしたり、飲食しながらモンスターを眺める場所。
マイコニドの胞子を吸って、夢の世界に飛んでる人。
リビングアーマーを着こんで、ちょっとしたコスプレしてる人。
悪名高いウサギと戯れる人……と言っても、安心して欲しい。
逆鱗に触れても、せいぜい園児が繰り出すパンチ程度の威力しかないので、大の大人なら問題無い。
急所に入ったら、ちょっと痛いけどそれだけだ。
他にはドルから造ったスライムをサンドバック代わりにしてる人もいる。
青筋立てて奇声を上げながら容赦なく滅多打ちにしてる様子は近寄りがたいが、数分後には憑き物が取れたように晴れやかな顔になる。
一種のストレス発散という奴だろう。
ん?
そんな虐待みたいなことをしてもいいのかって?
それについてはノープロブレムだ。
なんとドルで造ったスライムは、タフさが売りだから。
並の人間どころかヘヴィ―級のパンチや相撲取りのぶちかましを食らっても死なない。
ほどよく柔らかい粘度のような感触なので、手応えは抜群。
そして骨や関節には負担がかからない。
おまけに無抵抗というパッシブスキルも付与してもらった。
その代償として、かなりの金額を費やした。
時折、金欠のイサミが物欲しそうな目で見つめる点だけは要注意だ。
はっきり言って、うちの店は猫カフェや犬カフェに比べたら癒しの空間とは到底呼べない。
だから未成年の来店はお断りだ。
情操教育に悪いしな。
と言っても、歓楽街に真っ当な未成年が来ることは、あり得ない。
もし未成年が来店したら真っ先に事件性や複雑な家庭環境を疑うべきである。
そんな感じでモンスターと戯れる空間を見回ってると、異彩を放つ一組の客が目に入った。
それは人間の女性と筋骨隆々で緑色の肌をした厳つい人間っぽい生物――オークの二人組である。
女性は、肌の様子から見て四十代前後だろうか。
だがスタイルはなかなかのもので、顔立ちも整っている。
そして肌年齢に見合う薄くもケバくもない化粧からは、自分自身を客観視できる冷静さと気品を持ち合わせてることがうかがえる。
美魔女と言っても差支えはないだろう。
ジャケットにスカートと典型的なビジネススーツを着用している。
アクセサリの類いは見られないが、身に着けてる腕時計には見覚えがある。
庶民の手には届かないブランド物だ。
そんな上物を身に着けた女性の同伴者であるオークの装いも、やはり普通の奴らとは違う。
粗雑な腰蓑ではなく、既製品では見た事もないオーバーサイズのパーカーとズボン。
大きさはともかく、シルエットだけならラッパーみたいだ。
女性の表情は険しいが焦ってるようには見えない。
オークの方は、女性に合わせて何となしに見渡してるって感じだ。
まあ、このフロアにいるってことは代金は支払い済みなわけだから、事を起こさなければ何をしてようが客の自由だ。
うちの店員を眺めてるわけでも無さそうだし、きっと誰かと待ち合わせをしてるのだろう。
世の中には、制服目当てで店に通い詰める人もいるが、その手の客はそもそも河原町になんて足を運ばない。
もっと手近で真っ当な飲食店に通うだろう。
俺がそういうタイプの人間なら間違いなくそうする。
こんなところか。
今日も平和だな。
俺はカフェを一通り見渡し、モンスターショップの方に戻ろうとするとサミィが声をかけてきた。
ちなみに今日のサミィはカフェ勤務なので、カフェ用の制服を着用してる。
と言っても、ただのクラシカルメイドだ。
何故メイドにしたのかと言われれば、モンスターが存在する世界観に合う制服だから、としか言いようがない。
ついでに言うと、うちの店特有の装飾もない。
変な特色を付けると服の値段が高くつくためだ。
「店長、あちらのお客様がお呼びですよ」
サミィが俺を呼びつける。
どんな客人なのかと思い、サミィの視線を辿る。
それは、先ほど目についた美魔女とオークの二人を示していた。
「要件は?」
「相談があるみたいです」
「おいおい、うちに来てまで人間と戯れたいのか? もしかして、ここをキャバクラやホストクラブと間違えてるんじゃないのか?」
「でも、天城さんはいらっしゃいますか? って言ってましたよ」
「名指しかよ」
「試しに指名料を頂戴しようとしたんですが、こちらのお店はホストではありませんよね? って怖い顔しました」
「一応、聞いておくが指名料を頂戴したら、何をするつもりだったんだ?」
「当然、ポッケナイナイしてスタブコーヒーに直行ですよ」
「それに感づいたから渡さなかったんだな」
「ちぇっ、次からは指名料じゃなくてチップにしよー。あーあ、日本にチップの文化が浸透しないかなー」
サミィは心底、残念そうな顔をすると、どこかに行ってしまった。
俺はと言うと、ご指名を頂いた二人組に改めて目を向けた。
俺の視線に気づいたのか、美魔女が手を振っている。




