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続・不良品のスライム その4……視点変更

 この部屋でええか。


 わしは雄作の言葉に従い、嘉平元蔵(かへいがんぞう)を引っ張って別室に移動すると、頭に衝撃を与えぬように、繊細なガラス細工を扱うようにそっと床に置いた。


 気絶しておるのか。

 こんな奴のせいで危うく、雄作からの信頼を失くすところだったと思うと非常に腹立たしい。


 まことに遺憾だが気付けのために回復魔法をかけた。


 少し間を置いてから、嘉平元蔵が目を覚ました。


 ふてぶてしいくらいの悪人面をしてる。

 どうやら魔法が効きすぎたのか、喪失してた気力まで回復したようじゃ。


「貴様、よくもわしに贋金を掴ませたな」


「は、はて……身に覚えが――」


「海外の贋金製造工場は既にわしの手中にある。そこで首謀者の名を問い詰めたら、貴様の名を口にしたものがごまんとおってな」


「……私をどうするおつもりですか?」


「貴様をわしの支配下に置く」


「意外とお優しいのですね。魔王と名乗るからには、てっきり殺されるのかと思いましたよ」


「逆じゃ。わしが魔王だからこそ、貴様を生かすじゃ」


「何故、生かすのか。よろしければ教えていただけませんか? 冥土の土産になりますので」


「わしがこの世界を支配するためじゃ」


「それはそれは、如何にも魔王らしいですな」


「わしらの世界の通貨、ゴールドが為替市場で取引できるのは、貴様でも知っておろう」


「毎日ファイナンスサイトでゴールド円の相場を閲覧しております。それが一体――」


「それが、わしの野望が着々と進行しておる何よりの証拠。他には、電気や一部の貴金属も取引しておる。とりわけ日本の電力は、わしの世界に相当依存しておる。特に大地主(おおじぬし)共には受けがいい。所有してる土地が無価値になる要因が消えるからのう。まあ反原発派のアホ共がくっついてくるのが玉に瑕じゃ」


「……ちょっと笑えませんね。あなたのやり口は――」


「そうか? 貴様みたいにコソコソ隠れて悪事を働くよりも至極真っ当だと自負しておる。わしは、無尽蔵の資産を用いて、この世界の全ての国を支配下に置くつもりじゃ。特に先進国は民主主義とやらの規約に則れば、一滴の血も流さずに世界を手中におさめられるからのう」


「私は、とんでもない大悪党を敵にしてしまったようですな」


「今は大悪党でも、いずれ正義になる」


 のう……先代天城家当主(ゆりこ)よ。


「天城家には、手出しするな……裏表共通の不文律。世界中のあらゆる報道機関が絶対に公開しない不可触(アンタッチャブル)の名。確かに、あなた方は強大な力をお持ちのようです。ですが、力だけでは、こちらの世界のお偉いさん方が黙ってないのでは?」


「なら、わしらを黙認する理由を見せてやろう。貴様の謀反の芽を摘み取るついでにな」


 大変不本意だが内ポケットに右手を突っ込み、二つ目の拳銃を取り出す。


 戯れに取り出した拳銃の銃口を嘉平に向ける。


 嘉平は「ひいぃ!」と小さな悲鳴を上げた。


 目の前の醜い光景に吐き気を催す。


「落ち着け。わしは先ほど、貴様を生かすと言ったであろう」


 そう言いながら、わしは銃口を自分のコメカミに突きつけた。


「刮目せよ。そして、現実を受け入れるがいい」


 わしは躊躇わずに引き金を引いた。

 発砲音が耳に突き刺さる。

 火薬の圧力によって、銃身から押し出された弾がコメカミに触れる。


 チクッ、と鋭い痛みが走る。

 例えにいうなら、一本の針の先端が皮膚を貫くような鋭い痛み。


 そして、弾に込められたエネルギーがわしの頭部を僅かに動かす。


 嘉平は目を丸くしている。

 言葉が出ないようだ。

 わしは続けて額、右目、左目、口内、前首と順に銃口を突きつけては引き金を引いた。


 そのいずれも、針で刺したような鋭い痛みはするものの、弾丸が皮膚を貫くことはない。


「無論、こんな拳銃(おもちゃ)だけではない。この世界に現存する細菌、ウィルス、薬物、毒物から核兵器を含むあらゆる近代兵器、現代兵器をもってしても、わしの命には届かぬことは各国首脳陣の前で実証済み。貴様如き、一生どころか何遍生まれ変わろうが、わしは討つことは叶わぬ」


「はぁ……そのようですね」


「貴様は……嘉平家はこれより未来永劫、わしらに献金する運命となった。自殺を図っても無駄だぞ。如何なる手段を講じてでも、死を消してやろう。血を断絶させようものなら、クローンを造ってでも存続させてやる。よかったな、妻子が居て。ひとまず貴様は大往生させてやる」


「妻子? 何の事やらーー」


「……」


「そんな怖い顔しないでください。それより安心しました。献金ということは、私の命だけでなくビジネスも続けられるという事ですから」


「通貨偽造以外はな。それと……貴様に贅沢をさせるつもりはない。金を献上するだけの機械となるがいい。機械に生かすも殺すも無いからのう」


 嘉平は、力なく項垂れる。

 顔色から人を食ったような虚勢が消え失せた。


 ようやく、わしの支配下に置かれる意味を理解したのだろう。


「己の立場を理解したところで、最後に貴様に聞きたいことがある。何故、勇者を誘拐した」


「贋金製造の証拠を取り返し、それを知る者を消すためです。いくら私でも、無闇に天城家と戦争ほど愚かではありません」


「本当にそれだけか?」


「……? おっしゃる意味が理解できません」


 嘉平の仕草をつぶさに観察する。

 汚物を眺めてるせいか不快感がこみ上げてきた。


 ……どうやら嘘はついてないようじゃ。


 わしを討つため勇者の誘拐に及んだと危惧しておったが杞憂じゃったか。


 勇者の力は唯一、わしの命を脅かす。

 じゃから危険を遠ざけるため、勇者をこちらの世界に追放し、天城家の監視下に置いてる。


 無論、わしの手にかかれば勇者サミィを始末することは容易い。


 しかし、勇者の死は、新たな勇者の誕生を早めるだけ。


 それなら時間稼ぎに、わしから遠ざけて余生を面白おかしく過ごしてもらおう、という算段。


 わしに勇者の力を探知できれば話は別じゃが、神の加護のせいでままならん。


「そうか。わしの意図が読めぬなら、それでいい。……以後の人生、わしらのために捧げよ」


「アスラさん、最後に一つだけお伺いしてもよろしいですか?」


「申してみよ。答えるとは限らんがな」


「何故、あなたと天城家は手を携えてるのですか? 一応、私もあなた方の配下となるのです。知る権利くらいはあると思いますが――」


「二つの世界を手中に収める……これは、わしと天城家の悲願じゃからな」


 ――アスライドは私に力を、私はあなたに知恵を。一人では成らずとも私たちが手を携えれば、必ず二つの世界を支配できるわ。


 この手の問いかけを受けると、決まって先代天城家当主(ゆりこ)との出会いを思い出す。


 事の始まりは、二つの世界が繋がったこと。


 先代の勇者(ラインハルト)の紹介で先代天城家当主ゆりこと縁を結んだことで、わしの野望は新たな展開を迎えることとなった。


 それまでは定期的に現れる勇者をあしらっては、世界を恐怖と暴力で支配することに勤しむ日々であった。


 じゃが先代天城家当主(ゆりこ)から得た知見は、わしの常識を覆した。


 産業と経済を発展させ、こっちの世界と貿易することで、富を増やし、分け前を愚民共に分配することで人心を掌握。


 力ではなく金と政治による統治は時間を要する代わりに、軍隊や冒険者等の反乱分子は愚民共のおかげで腑抜けと化し、魔王軍は勢力を拡大。


 天城家は、わしという後ろ盾を得たことで裏社会、政財界、報道機関の大部分を傀儡にした。


 あとは仕上げに、わしらの世界の者を大量にこちらの世界に移住させ投票権を獲得すれば血を流さずに国を手中に収めることができる。


 これも時間の問題であろうな。

 いかん、いかん……。

 野望の事となると、つい事の始まりから語りたくなる。


 こやつには、知らせんでええじゃろ。

 昔話をして雄作に年寄り扱いされてはかなわんからな。


「アスラさん、考え事ですか?」


「わしは、こう見えて多忙でな。先の事は、使いの者を送るから、そいつと詰めておけ」


 雄作は地下で、もたついておるか。

 なら、わしは勇者と鉢合わせる前に退散するか。


 そう考え、部屋から出ようとした時、全身が凍り付くような悪寒と心臓が押し潰されそうな重圧が襲い掛かってきた。


 死を予感させるほどの凄絶な力。

 それは、先代の勇者(ラインハルト)との死闘を想起させるには十分な脅威と言うより他はない。

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