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続・不良品のスライム その1

 俺とアスラは今、高天原方面に向かう車の後部座席にいる。


 運転手は、宮田さんが寄越した自警団の一人だ。


「雄作、今更だが本当によいのか? もし嘉平の邸宅にサミィが居るなら、わしが同伴するのは都合が悪いのでは?」


「逆だ。あいつがゴネてサボるつもりなら、発作を利用してでも引っ張るからな」


「サミィを鎮めるのは、わしか?」


「当然だ。俺は嘉平さんの屋敷にお前を連れて行く。報酬として、お前はサミィを相手にするの」


「よかろう。それで手を打ってやる」


「商談成立だな」


「では本題に入るぞ。雄作、嘉平の生業を知っておるか?」


「詳細は知らんが大方、予想がつく。俗にいうドラゴンだけでなく、手練れの異世界人も抱えてるみたいだからな」


「雑に言えば、詐欺に恐喝、賭博の胴元に金貸し、たまに殺し」


「そもそも高天原に居を構える連中の大半がそういう連中だ。河原町(ここら)一帯は、行政をあしらう力さえあれば脱税し放題だからな。物を知らない裏上がりの連中には、楽園に見えるんだろ」


「ククク、それが墓穴とも知らずにな」


「勿体ぶるな。他にもあるんだろ? 嘉平さんの商売」


「ああ。最近は裏表見境なく、事業を広げてるようじゃ……で、数ある事業の内の一つの被害がわしらに及んでおる」


「わし、ら? ……お前だけでなく俺もか?」


「そうじゃ。別の言い方をすれば、服を溶かさないスライムの元凶じゃ」


 アスラの表情は真剣そのもの。

 こいつがこんな顔をする時は、嘘や(かた)り、戯れの類いは一切ない。


 だが俺と嘉平さんは、ヤミーの売買で出来た縁。


 それより前の出来事で、俺とアスラが嘉平さんの事業の被害者になる要素となると……。


「雄作。あまり難しく考えるな。スライムの品質に影響する要因を探れば、おのずと答えは絞れる」


 クイズは趣味じゃないが目的地までの暇潰しには丁度いい。


 貴志さんに納品するスライムは、衣服だけを器用に溶かすスライム。


 その材料は、五百円硬貨。

 他の国の硬貨や紙幣だと、スライムは造れるが別のスキルが付与される。


 スライムのステータスとスキルに影響を与える要因は、お金に込められた信頼と国柄の二つ。


 信頼は為替の要因でもある、国の生産性と経済の発展性。


 そして継続……要するにデフォルトしませんよ、ってこと。


 国柄は色々とあるが以前聞いたアスラの話によれば、日本はHENTAIという言葉を全世界に広めた功績があるから、日本円から造ったモンスターは性産業に活用できるスキルが発現しやすいようだ。


 何でモンスターの製造に限ってオカルトの比重が大きいのかアスラに訊ねたことはあるが、そこは現在調査中とのこと。


 うーむ、この中で現世の人間が関与できて、しかもアスラ自ら出張るほどの大きな案件となると……。


 思い当たることは一つだけある。

 否、数ある選択肢から、あり得ない答えを消去し続けた結果、一つしか残らなかった。


 飛躍してるかもしれないが、アスラの言葉に筋を通す答えは、これしかない。


 ……って、何を真剣になってんだろうな。

 外したところで命を落とすわけじゃない。


 どうせ答えはアスラがもってるんだ。

 俺は軽い気持ちで口を開いた。


「通貨の偽造、か?」


 アスラは、ニヤリと口元と釣り上げた。


「ご明察」


「そうか。なら褒美は、いわれのない借金の帳消な」


「時間つぶしの問答で恩情をくれてやるほど、お人よしではない」


「待て待て。俺の借金の全ては、サミィのだろうが!」


「支払い能力を有する者が肩代わりをするのは当然じゃろう……それとも、わしと一戦交えるか?」


 くそっ!

 アスラの誇らし気な顔が憎い。

 俺では、逆立ちしても勝てないことは既知の事実。


 全く、厄介なビジネスパートナーだな。

 それより今は、俺の借金よりも嘉平さんの件だ。


「にしてもよ、このご時世。通貨の偽造なんて、簡単に足が付くだろ。メッセージ、音声、アナログな手紙も含めて、外部とのやり取りなんて隠語や暗号を駆使しても秒で割れる」


「わしもそう思っていたのだが、よくよく考えたら一つだけある」


「ん?」


「転送魔法じゃ」


「それこそ不可能だろ。異世界ならともかく、こっちの世界で人間一人を飛ばすのは、お前にだって無理なはずだ」


「見くびるな。わしなら可能じゃ……重労働ではあるがな」


「おい、初耳だぞ」


「大気にマナが無い場所で、転送魔法を行使して生き物を飛ばすのは、わしでも至難である。本来、転送魔法は物質と魂の分解、転送、再構築の手順を踏むがその全ての工程において、大気中のマナの助力が不可欠。いくら、わしでもこっちの世界で転送魔法を使うというのは、超高層ビルの設計、材料の運搬、組み立てを一人でやるようなもの。魔王たる、わしだからこそ出来る所業であり、わし以外の者に出来るとは思えぬ」


「それは同意見だ……でも、連絡手段が転送魔法と断言したのは、お前だけどな」


「人を飛ばすのは至難。じゃが、最近になって判明したことでな。二つほど条件をクリアすれば、転送魔法を連絡手段に使うことができる」


「条件?」


「一つは、術者を二名用意すること。送信と受信の分担するためにな。もう一つは、送受信する物を小さな物質に限定すること。例えば、マイクロSDカードとかな」


「という事は、転送魔法の術者の片方は屋敷に、もう片方は偽の硬貨を造る海外に配置。で、小さなメディアを転送魔法を行使して相互伝達ってわけか。検査も金盾も確実にスルー出来る秀逸な連絡手段だな」


「その通り」


「で、自販機や両替を掻い潜った偽造硬貨が拡散して、俺も掴まされたわけか」


「まあ、海外の偽造貨幣工場は、わしが締め上げたがな。その時、工場の責任者から嘉平の名を聞いた」


「お前が出張ったのかよ。海外で魔法が絡んだ事件だったら対……何だっけ?」


「対魔法特殊部隊のことか?」


「そう、それ!」


「あれは、犯罪や破壊活動に魔法が絡んでる証拠がなければ動かせん。最近は、魔法の痕跡を残すような犯行は滅多になくてな。日本なら天城家に任せればよいが、海外はそうもいかん」


「大変そうだな。魔法が絡む事件の鎮圧は」


「同情するなら、わしの片腕になれ」


「それは断る」


 対魔法特殊部隊とは、アスラの配下……魔族とかで構成された、それはそれは恐ろしい武闘集団のことである。


 主な仕事はこっちの世界の日本以外で、魔法が絡む犯罪、テロ行為、破壊活動等の鎮圧。


 海外に移住する異世界人もいるので、もし、そいつらが悪さをしたら魔王が即応する条約を結んでるらしい。


 魔法の証拠が無いと動かせない点については、主に対魔法特殊部隊のビジュアル面が要因だろう。


 ただでさえ強いのに、見た目化け物の奴らを野放しってわけにはいかないからな。


 ちなみに日本国内は、天城家が対応することになってる。


 こんな感じで、こっちの世界では、魔法関連の事件には常に目を光らせ、事が起これば即対応することで治安維持に努めてるのだ。


 ついでに、日本に魔王が来ないことが知れ渡れば、世界中の腹黒い富豪たちが快楽と安寧を求め来日する算段だ。


「少々話が反れたが、要するに先日の服を溶かさないスライムとは贋金を原料に造ったために誕生した、まがい物。スキルが伴わないのも当然。贋金に信頼は皆無じゃからのう」


「だから、何でモンスター製造の要因にオカルトが出てくるんだよ」


「正解は知らん。が、わしの見解では信仰、またはそれに近しい概念によるものと考えておる」


「結局、オカルトかよ」


「何せ、わしの住む世界は神も魔法も実在するからな」


「釈然としないがお前が言うなら、それで納得するしか無さそうだな」


「全く、下らんことを気にしおって」


「モンスターの製造は、店の売り上げに関わるからな」


「それなら横着せずに、棒金の硬貨を使え。そんなことでいちいち、わしが疑われては、かなわんからな」


「考えておくよ」


 と、話がひと段落すると同時に運転手から「到着しました」と声をかけられた。


「司法と行政に怯えながらコソコソ悪行を重ねる程度なら大目に見てやるが、贋金の流通は仁義を踏みにじる愚行。黙って見過ごすわけにはいかん」


「ヤミーの飼い主だから、加減してくれるとありがたいのだが――」


「わしの知った事ではない」


「で、サミィとヤミーの気配はどうなんだ?」


「目の前の屋敷から、ひしひしと感じるわ」


 アスラは、丁重にドアを開けてから車を降りた。


 俺もアスラに続いて降りた。


「俺はとりあえず、店のシフトのためにサミィのお迎えにいくよ」


「では、行くとするか」


 アスラは正面の門を蹴り開けると、そのまま敷地に入っていった。


 はぁ……俺ってつくづく商才がないんだな。


 心の中でぼやきつつ、俺はアスラの後を追いかけた。


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