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無断欠勤 理由 その2……犯行者視点

「おい。俺は店でドリンクを買ってくる。お前はここでターゲットが入店するか、店から離れたら、俺に連絡をくれ」


「ええー? 兄貴だけ、ずるいよう」


「仕方ないだろ。ターゲットがもたついて入店しないんだから。大体、お前が言ったんだぞ。何もせずに帰るかもしれないって……このままターゲットを見逃して、明日以降も張り込みしたいか?」


「それは、それで嫌だけど」


「それじゃ行ってくる。こっちでも何かあったら連絡するからな、頼むぞ」


 子分にそう言い残すと、俺は看板の前で変顔を晒すターゲットを素通りしてバックスタブコーヒーに入店した。


 恐ろしいことに店内は混雑してる。

 購入する物は、看板のメニューにある季節のフラペチーノと決めてたので、すぐさま最後尾につく。


 従業員の教育が行き届いてるのだろう。

 列はすぐにはけ、ものの五分程度でドリンクを入手できた。


 スマホの着信はない。

 入口に目を向ける。

 ターゲットは、まだ看板の前にいた。

 真剣な眼差し、眉間には深い皺、口元は醜く歪んでる。


 完成度の低い福笑いのような表情でお悩みの様子。


 女優やアイドルなら一発でレッドカードもの、デート中なら彼氏は秒で氷漬け。


 素が美少女とは思えない醜い顔を恥ずかしげもなく晒してる。


 ナンパは柄じゃないけど、ここは一つ、声かけといきますか。


 なあに、このドリンクを渡すだけ。

 デートに誘うわけじゃないんだ。


「あの……もしよければ、これ差し上げましょうか? 先ほどから随分とお悩みのようでしたので――」


 俺はドリンクとストローをターゲットに差し出した。


 コールドドリンクのため、カップは透明。

 中身は、誰が見ても口を付けてないのが一目で分かる。


 ぱっと見、細工の痕跡はないので、容器だけで怪しまれることはないだろう。


 ターゲットはぐるんと頭を動かすと、俺の手にあるドリンクに目を止めた。


 途端、目を丸くする。

 ターゲットは、ドリンクに注視したまま口を開いた。


「本当にいいんですか?」


「ええ、面白いものを見せてもらった見物料です」


 嘘ではないな。

 美少女の変顔なんてバラエティはおろか動画サイトでも中々お目にかかれない。


 下手な作り話よりマシだ。


「見物料?」


 すると、ターゲットの視線が俺の全身をなぞる。


 少しだけ寒気がした。

 猛獣が狙った獲物をつぶさに観察する、という感覚だろうか。


 美少女に見られてるはずなのに、いい気がしない。


 ターゲットと目が合う。

 その顔はスライドで見た画像と同一人物と言わざるを得ない美少女そのものだった。


「いや~、さっすが私。美少女ってだけで、貢物を持った男がホイホイやってくるんだから」


 凄いな。

 公衆の面前で変顔を晒した後だというのに臆面もなく美人を自称できるなんて。


 外面という強烈なバフを打ち消すくらい、内面が酷い。


 しかし、その内面のおかげで、素人丸出しの声かけで上手くいったので良しとしよう。


「それじゃ、どうぞ――」


 と俺が自分の手元に意識を移した瞬間、ドリンクとストローは既にターゲットが握っていた。


 視線をターゲットに向ける。

 ターゲットは恍惚の表情を浮かべながら、睡眠薬入りのドリンクを飲んでいた。


 うまく事が運んだようだ。

 安堵と同時に、嘉平様がターゲットに目を付けた理由を嫌と言うほどわからされた。


 そもそも誘拐事件を実行する切っ掛けになったのは、嘉平様が肌身離さず持ち歩いてたマイクロSDカードの紛失。


 中身はよくわからないが、嘉平様にとっては命の次に大事なものらしい。


 総動員で屋敷中をくまなく探しても見つからず途方に暮れてた時、今回のターゲットを知る異世界人が一つの可能性を提示した。


 それは、ターゲットは非常に手癖が悪いこと、である。


 特に資産家、貴族、王族を見ると手を出さずには、いられないらしい。


 誰も所持しておらず、屋敷の中からも見つからない。


 そこで嘉平様は、ターゲットの誘拐を企てた。


 仮に男の方が黒幕の場合、人質として利用価値がある、と仰ってた。


「ご馳走様でした」


 ターゲットは憎たらしいほどニコやかな顔で、俺に空の容器を差し出してきた。


 おかしい。

 異世界人特性の睡眠薬だから、一口で夢の中と聞いてたのに、ターゲットはピンピンしてる。


 あくびはおろか、目蓋もパッチリと開いてる。


 睡眠薬はまだある。

 こうなったら数で押し切るしかない。


「私にゴミを捨てさせるつもりですか?」


「いっ、いやいや……あの量を一瞬で飲んじゃったから、驚いてるんだよ」


「あっそ。それじゃゴミも捨てといてね」

 ターゲットは、俺に無理やり空の容器を押し付けてきた。


「ね、ねえ。もしよければ、もう少し付き合ってもらえないかな? ここのフードとドリンク、俺持ちでいいからさ」


「え? 驕ってくれるの!?」


「うん」


「やったあ! 店内ならどこまでもお伴しますよ、お兄さん」


 うーむ。

 ビックリするほど、食いつきがいい。

 相手が現代人なら声掛けの段階で事案なのに、異世界人ってチョロいな。


 教育が行き届いてない未開の地出身なんだろうな。


 俺はターゲットと共にバックスタブコーヒーに入店した。


 入店後、ターゲットと共に席を確保すると同時に子分を呼び出した。


 子分に見張り役として同じテーブル席に座らせた後、俺は適当にフードとドリンクを買った。


 当然、ドリンクに睡眠薬を入れてから席に戻る。


 ちなみに俺と子分の分は、千五百円のウーロン茶にした。


 経費節約ではない。

 睡眠薬入りのドリンクを確実にターゲットに渡すためだ。


 席に戻り、ドリンクとフードをトレーを置いた瞬間、ターゲットは目論み通りウーロン茶を避けて、睡眠薬入りのドリンクを手にした。


 そして、ハンバーガーを食べるかのようにドーナツにかぶりついては、ドリンクをすする。


 もし出会い系アプリでこの子とマッチングしたなら、俺は二度と連絡を取らないだろう。


 マナーにとやかく言うつもりは無いが、ドン引きするほど品性がない。


 単純に精神年齢がガキなのかもしれないが……。


「う、うめえっす。兄貴!」


「こっちにもガキがいた」


「何の話ですか?」


「お前はいい大人なんだから黙って食え」


 俺は自分用に買ったホットドックをかじった。


 確かに美味い。

 そこいらのジャンクフードを一蹴するほど、クオリティが高いのは、素人の俺でもわかるほどだ。


 ソーセージ、バンズ、ソース、野菜、一つ一つが高次元にまとまってる。


 価格と原価が伴ってるようだ。

 ただ、もう一度食べたいか? と聞かれたらノーと答えるだろう。


 俺はしがない一般家庭の出なので、同じ価格帯の宅配ピザや寿司を食べた方が満足度は高いと考えてしまう。


 ウーロン茶はと言うと、これまた自販機で売ってるものとダンチなのはわかる。


 でも、自分のお金では買いたくない。

 高級品と安物で価格差は数百倍あるのに、味の差は十倍程度とはよく聞くけど、この店で販売してる飲食物もその類いなのだろう。


 ……いつか、こういう店で値段を気にしない立場になりたいものだ。


「ねえねえ、追加注文していい?」


 空想に浸ってると、ターゲットの能天気な声が聞こえた。


 え?

 まだ寝ないのこいつ。


「兄貴、俺ももっと食べたい」


「わかったよ。買ってきてやるから待ってろ」


 それから俺は何度か、席とレジを往復した。


 それでもターゲットは一考に眠る気配がない。


 もしかして、ドリンクに入ってるカフェインのせいで睡眠薬が効かないのか?


「あ、あの……気分はどう?」


 俺は思わず、場にそぐわない質問をした。

 言い終えた直後、バカか俺は、と自虐する。


「ん? お腹の具合は、まだまだ大丈夫よ」


「そ、そう……」


 俺が苦笑いした時、ターゲットの口角がつり上がった。


「腹痛も、眠気も……ね」

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