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希少種販売 仕入れ その4

 禁断症状……常用してる薬物を一定期間、断つことによって生じる様々な身体的・精神的症状。

 離脱症状とも呼ばれてる。


 日常生活なら主にアルコール、タバコ、カフェイン、糖質、いずれか一つを長期間にわたり大量に摂取し続けることで依存症となり、依存した成分の摂取を中止してから、しばらくすると発症する。


 ちなみにカフェインの離脱症状は主に頭痛と眠気、そして頭痛に伴う吐き気。


 俺も数か月に一度、実践してるので、その苦しみは嫌と言うほど身に染みてる。


 そんな禁断症状について、ネストにたずねようとした時、アスラが口を開いた。


「ネスト。あの子が最後に、和牛を口にしたのは何時だ?」


「一週間以上、前です」


「わかった。……雄作、わしは少しだけ、ここを離れる。戻ってくるまで、持ちこたえてくれ」


「そんなに深刻な事態なのかよ。あいつの禁断症状」


「幼いとは言えドラゴンじゃからな。そこいらの魔族や魔物とは格が違う」


「油断はするな、ってことな」


「うむ。そうそう、あの子には手を出すなよ。」


「禁断症状と言われたら、手が出せねえよ」


「では、行ってくる。瞬間移動(テレポート)!」


 言葉と同時に、アスラの姿が消えた。


 俺は、苦悶するヤミーに目を向ける。

 苦しそうな呻き声を上げ、四肢とばたつかせ、長い首を振り乱し、やり場のないストレスを吐き出してるようだ。


 ヤミーに注意を払う。

 確かに身形は小さいが、その手足が床を凹ませ、ヒビを入れる。


 魔王城は確か、宝石よりも硬い材質でできてるから、あの身形で屈強なオークや俺の世界に住むゴリラが全力を振り絞って繰り出すパンチと同等のパワーを秘めてることがうかがえる。


 確かに、万が一のことを考慮しておく必要がありそうだ。


 俺は固唾をのんで身構えた。

 が、その時……ヤミーの顔がこちらに向いた。


 そして、口が開いた。

 蛇のように大きく開いた上あごと下あごの間から、黒い何かが噴き出すのが見えた。


 ブレスか!?

 その言葉が脳裏をかすめた瞬間、黒い炎が間近に迫っていた。


 臓腑が悲鳴をあげる。

 身に迫る危機を察知した脳が、思考のスピードを最大まで一気に引き上げた。


 そして、ヤミーから吐き出された黒い炎を的確に処理する魔法を唱えた。


属性防護(プロテクション)!」


 俺の全身が黒い炎に包まれる。

 だが、痛くも熱くもない。

 俺の全身を覆う魔法の防護壁がヤミーのブレスを完全にシャットアウトしてるためだ。


 少し間をおいてから防護壁から覗く、黒い炎が消えた。


 ブレスを吐き出し終えたヤミーは再び、床の上でのたうち回る。


「待たせたな」


 今度は、俺の目の前にアスラが現れた。

 右手には、サシが入った大きな肉の塊を抱えてる。


 肉は、目算で大体一リットルの牛乳パックほどの大きさ、重さは約一キロといったところだろう。


 アスラは和牛の肉をヤミーに向かって放り投げた。


 放物線を描いた肉は、そのまま地べたに落ちた。


 せっかくの高級肉が餌に成り果てる。


「ほれ、お望みの和牛だぞ」


 アスラが告げるとヤミーが和牛にかぶりついた。


 その様はまるで、川に足を踏み入れた草食動物に食らいつくピラニアである。


 一心不乱に和牛を食らうヤミーの姿に圧倒されてる内に、肉塊は消えた。


「ふぅ……久しぶりの和牛。大変、美味であった」


 ヤミーはご満悦のようだ。

 先ほどまで感じてた、全身を突き刺すような荒々しい気配は嘘のように消えてる。


「アスラ。ヤミーが依存してるものってのは――」


「見ての通り、サシの入った和牛じゃ」


「ドラゴンにとって霜降り肉は、麻薬なのか!?」


「アルコールみたいなものじゃな。ネストの方は問題ないのだが、子供には和牛独特の甘美な味わいは、脳に強く作用するみたいでな。どうも人間に匹敵する知性を持つ個体ほど、依存に陥りやすいみたいじゃ」


「詳しいな」


「何せ、わしが食わせたからな。こっちの世界でも需要があるかどうかマーケティングの最中、試食してもらったんじゃ」


「お前かよ! ヤミーをこんな悲しきモンスターにしたのは!?」


「まあ、週一に一キロほどの霜降り肉を食わせれば、ただのダークドラゴンじゃ。問題はなかろう。これも、わしとネストの節制がもたらした成果じゃぞ」


「大アリに決まってんだろ! 見てみろ、このボコボコになった床をよ! 俺の店なんて秒で瓦礫になるわ!」


「だから富豪に引き渡せばよかろう」


「万が一のことを考えたら渡せねえよ」


「それは、つまり?」


「俺の答えは、この子は引き取らない、だ」


 まさか、こんな爆弾を抱えてるとは思わなかった。


 仮に禁断症状は週一で抑えられるかもしれんが、もし何等かの理由で霜降り肉がヤミーの胃に収まらなかった時のことを考えると胃が痛い。


 異世界なら、ひと騒動で済むかもしれないが、俺の世界なら大惨事だ。


「というわけでアスラ。商談は、これで終いだ。さあ次元の裂け目まで飛ばしてくれ」


 俺はアスラに転送魔法をかけてもらうように頼んだ。


 残念ながら俺は、転送魔法が使えない。

 だから、異世界でアスラが同伴の時は、必ず転送魔法で送迎してもらってる。


 ……数秒間、返事を待つがアスラは一言も発しない。


 それどころか、ネストとアイコンタクトをしてる。


 とてつもなく嫌な予感がした。

 ネストが俺の方に目を向けると口を開いた。


「そこの、お若い人の子よ……どうか、どうか老い先短い、年寄りの願いを聞いてもらえぬか」

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