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希少種販売 仕入れ その3

 ネストから全身を貫くような鋭い視線を感じる。


 冗談ではなさそうだ。


 子供が身売りしなければならない、こみ入った事情とやらに耳を傾けてやろうじゃないか。


 それで、こいつが毒親なら何が何でも話をなかったことにしよう。


 くだらない諍いに巻き込まれたくないからな。


「大変お恥ずかしい話であるが……私には魔王殿に借金がありまして。そこで借金返済のため、我が子を異界に送ろうと思った次第なのだ」


「うん、わかった。この話は無かったことにしてくれ」


「話は最後まで聞いておくものだ、店主よ。父の話は、まだ始まったばかりではないか」


「嫌だ! というか、何で子供のお前が、親をかばうような真似するんだよ。こいつは借金のカタに、お前を売り飛ばそうとしてるんだぞ?」


「父が借金を背負う原因は、我の食生活にあるからだ」


 ヤミーの言葉を聞いて、溜飲が下がる。

 改めてドラゴンの親子の顔色を観察する。

 やはり二匹の間に、軋轢、わだかまり、不仲と言ったネガティブな気配は一切感じない。


 アスラが口出しする気配もない。

 そうなると、この二匹の言葉に、俺を騙す意図はなさそうだ。


「わかった。ヤミーを引き取るかどうかは、話を最後まで聞いてから判断する」


「感謝する、店主よ」


 ヤミーとネストが目を合わせる。

 二匹が同時に頷くと、ネストが俺の方に向いた。


「では、借金を背負う経緯を語るとしよう。それはある日、我が子が異界の家畜の肉、和牛を食したことが始まりなのだ」


「和牛? そういや餌にA5の和牛を要求してきたな」


「初めて和牛を口にして以来、我が子は和牛の虜になってしまったのだ。そして、必死に和牛をせがむ我が子の望みを叶えようと、我は購入資金を工面した」


「和牛は高級品……金に縁遠いドラゴンが手にするには、借金するしかないだろうな」


「見くびるな。確かに我ら竜族は金とは無縁。だが金を集める手立てはあった」


「ドラゴンたちの金策。商人としては興味深いトピックだな。不都合がなければ教えて欲しいな」


「我の血と鱗を金に換えたのだ」


「文字通り、身を削ったわけか。何だか涙腺が緩みそうだ」


 俺の世界の神話でも、ドラゴンの血を浴びて不死身になった人間の話があるしな。


「ドラゴンの血は、ほとんどの生き物の身体と神経を増強する。雄作の世界で言うドーピング剤の原料。薬師が喉から手が出るほど欲しがる逸品。鱗は強力な武具の作製にうってつけの素材。実際、こやつの血と鱗は高値で売れたからのう」


「お前が買い取ったのか」


「竜族は金と無縁じゃからな。流通経路なんて知る由もなかろう」


「なるほど。血と鱗を売った金は、子供の食費になった。話を聞く限り、驚くほど真っ当な取引じゃないか。しかし、どうして借金を抱えるようになったんだ? あんたは、健在じゃないか」


「売れなくなったのじゃ」


「需要がなくなったのか?」


 俺の問いに、アスラは黙って首を左右に振った。


 アスラの代弁をするかのように、親ドラゴンの大きな口が開いた。


「質が落ちたのだ。こう見えて、それがしも生命体の一種に過ぎぬ。それ故、老化に伴う血肉の衰えには、抗えぬ運命にある。唯一の金策がなくなると、やがて金が底をつき、それでも息子の欲求は留まる事を知らず、恥を忍んで魔王殿にお金を借りたのだ」


「親が子供の願いを叶えるために苦心するのは立派だ。尊敬に値するよ。……でもな、子供に自制を促すよう教育するのも親の務めだと思うがね」


 独身の俺が言っても説得力は皆無だが、それでも言わなければ気が済まない。


 たとえ憎まれても、嫌味だと思われてもな。


 ただ借金に至る経緯については概ね理解した。


 (ネスト)の過保護が原因のようだ。

 救いなのは、子が自分の過ちを認めてること。


 おまけに親子仲は良好。

 うん、これはもうネストの借金が膨れる前に、ヤミーの飼い主を探してあげたほうがよさそうだ。


 まったくアスラもやるじゃないか。

 親の借金イコール親が遊びで作ったもの、とロクに話を聞きもせず、勝手に決めつけた自分が恥ずかしくなる。


 つまり、今回の取引はこんな感じだ。

 俺がネストからヤミーを買うことで、ネストの借金が消える。


 俺がヤミーの食生活を叶えられる飼い主を探し、高値で売りつければ、俺も儲かるし、ヤミーも幸せ。


 こんな感じで、全てが丸く収まる。

 もしヤミーが親に暴力を振るうクズ野郎だったら、金を積まれても拒否してただろう。


 そもそもクズ野郎なら、俺に紹介する前にアスラが手を下してるか。


「手厳しいな」


「食費が不安なんだよ。一時とは言え、あんたの子を預かる身としてはな」


「その点は心配ない。こうしてる今も、節制には務めておる。我が子の和牛摂取量は年々、減少しているのだ」


「へえ、それはありが――」


 ネストとの対話の最中、息を呑むほどの凄まじい圧力が全身に襲い掛かる。


 反射的に身構え、圧力の発生源に目を向ける。


 うずくまるヤミーの姿があった。

 次の瞬間、ヤミーが勢いよく翼を広げると、長い首を天に伸ばした。


「ぐおおおおおおおおおおおおおおお――」


 鼓膜だけでなく全身をも震わせる、ただただ荒々しく豪然たる竜の咆哮が辺り一帯に響き渡る。


 大気が震え、床に亀裂が入る。

 ネストが自身の顔と体を翼で覆い、アスラが珍しく苦虫を噛み潰したような顔をしていた。


 俺と違って数多の修羅場を潜り抜けたアスラが顔色を変える事態なのか。


 予測不能だが次の行動に備え、警戒を強める。


 ヤミーの咆哮がおさまる。

 すると、その場で地団太を踏み、首を振り乱した。


 のたうち回ると表現するのが的確なのかもしれない。


 何故なら、ヤミーから敵意を感じないからだ。


 一見、暴れてるようだが八つ当たりというより、痛みや苦しみを紛らわすために藻掻いてるのだろう。


 これなら話をする余地はありそうだ。

 俺は、ヤミーの巻き添えに警戒を払いつつ、事情を把握するためネストに声をかけた。


「なあ、お子さんが癇癪を起こしてるようだが、どういう教育をしてるんだ?」


「禁断症状だ」


「ん? 禁断症状?」

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