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希少種販売 仕入れ その2

 ネストの一言で急にきな臭くなってきた。

 俺は、話が違うのでは? と思いながらアスラに目配せをする。


 俺の視線を感じとったのか、アスラが口を開いた。


「雄作」


「おう」


「わしも『タダでドラゴンを提供する』と言った覚えはないぞ」


「ああ。俺も聞いた覚えはないからな。そんなことより、金を取るってどういうことだ?」


「商人を自称する者が、強大な力と知性だけでなく希少性も備えたドラゴンを何の代償もなしに手に入ると思うたか?」


「ぐっ……痛いところを突きやがって」


「密猟者ですら稼ぐために相応のリスクを負っていると言うのに、商人がリスクなしで稼げるわけがなかろう。ノーペイン、ノーゲインである」


「言いたい事はわかるが犯罪者と同列にするなよ」


「そういうわけでな、その子を引き取りたければ、ネストにきちんと金銭を支払うようにな。無論、損得をはじき出した上で決断してよいぞ」


「俺にも選択の余地はあるんだな」


「当然じゃ。無理強いはせん。わしは儲け話を持ち掛けただけにすぎない。商機を見出せるかどうかはお主次第じゃ」


「オーケー。で、その子はいくらだ?」


「円なら億はくだらぬ」


「そんな大金、俺が所持してないことは、お前が一番理解してるだろ?」


「金貸しは美味しい商売じゃからな」


「守銭奴め」


「安心せい。わしとお主の仲じゃ。この場は無期限、無担保、無利子の出世払いでよいぞ」


「結局、俺の借金が増えるだけじゃねえか!」


「ツケ払いの方がええか?」


「期限が短くなってるじゃねえか!」


「後払いでも構わんぞ」


「俺を殺す気か!?」


「今から失敗したことを考えてどうする。そもそも仕入れ値以上の価格で売れば解決ではないか? 既に魔獣や幻獣の販売実績があるのは、お主も知っておろう」


「そうだけどよ……」


 アスラの言う通り、河原町に住む富裕層の中には、大金を注いで異世界の生き物を飼養してる連中が少なからずいる。


 だから希少性の高いドラゴンを欲しがる者が必ずいる。


 それは断言できる。

 問題は『ドラゴンに仕入れ値以上の値段をつける者がいるかどうか』である。


 自ら興した事業のための借金なら躊躇しないが、他人からの持ち掛けられた話で借金となれば二の足を踏まざるをえない。


 俺が思案を巡らせてると、しびれを切らしたかのようにアスラが口を開いた。


「安心せい。転売にしくじって、首が回らなくなったら、体で払ってくれればええ。というか一秒でも早く、わしの片腕になれ」


「お前の片腕はお断りだって、何遍も言ってんだろ!」


「何故じゃ!? そんな面と向かってハッキリ言われると、さすがのわしも傷つくぞ!」


「俺に借金を背負わせることに対して、良心は痛まないのか?」


 何か知らないけどアスラが落ち込んでしまった。


 でも、冗談ですまされないことは、社交辞令で回避するわけにはいかない。


 アスラの片腕――魔王の腹心は、生半可な覚悟では務まらないからな。


 それよりも今は、ドラゴンの仕入れだ。

 仕入れ値の時点で凄まじい借金を背負うことは確定だが、もう一つ問題がある。


 販売までの必要経費だ。

 何せヤミーの食事はA5の和牛。


 実家に居た時でも、栄養バランスが悪い、という理由で晴れの日以外、食卓に並ぶことはなかった。


 うちの教育方針は、身体こそ資本、なので実家の食事は、食材を厳選してる点を除けば一般家庭の料理と大差ない。


 それに実家を出て、食い扶持を自分で稼ぐようになってからは、高級品となり価格を見ただけで卒倒する。


 そんなものを無期限で給餌し続けると思うと胃が痛い。


 ……うん。

 この話はキャンセルしよう。

 ハッキリいって、ドラゴンの転売は、堅実な経営の現物株ガチホより辛い。


「すまない。あんたの子供を引き取る話は、無かったことにしてくれ」


「え”!?」


 俺が意を決して切り出すと、ネストは口をあんぐり開けたままフリーズした。


 黒い鱗が白っぽく色が抜けてる。


「ま、魔王殿。その……聞いてた話と些か違うのでは!?」


「ううむ。わしの見立てでは十中八九、稼げる話なのじゃが――」


「ならアスラが引き受ければいいだろ。何で俺に借金背負わせてまで、ドラゴンを押し付けようとするんだよ」


「こう見えて、わしは多忙でな。雑務まで手が回らんのじゃ。かといってネストの話を無下にすることも忍びなくてな。そこで、この案件をお主に斡旋しようと思った次第じゃ」


「で、中間マージンを頂戴する腹積もりか」


「お主のことじゃ。もしドラゴンをタダで引き取れば、あっさりと情が移り、手放すのが惜しくなると思うてな」


「確かに、仕入れに金がかかったとあれば、意地でも非情に徹して高値で売りつけてやりたいと思うだろうな。やり口は、感心できないが――」


「それに、この子もお主の下に居ては、お望みの食生活を送るなど夢のまた夢じゃ」


「へいへい、俺には商才も金運もねえよ……って、ちょっと待て。これまでの話を整理すると、まるでネストが子供を手放すことを望んでるように聞こえるが――」


「その認識であっておるぞ」


「おいおい、仮にも親子だろ? 子供を売るなんて相当な事情が無い限り、ありえないだろ」


「そこには少々、込み入った事情があってな――」


「魔王殿。そこから先は、私が説明致します」


「うむ」

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