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希少種販売 仕入れ その1

 ここは魔王城の一画。

 室内でなく、ルーフバルコニーにあたる場所にいる。


 異世界とは言え魔王城。

 その名に相応しく、晴天下なのにどことなく空気が淀んでる。


 俺は魔王(アスラ)に「引き取って欲しいドラゴンがいる」と言われ、連れてこられた。


 最初は『ドラゴンなんてヤバイ種族を俺の店で扱えるわけがない』と考え、その旨をアスラに伝えた。


 するとアスラは「飼育小屋と首輪がわしが(こしら)えてやる。それなら問題はなかろう」と返されたので断る理由がなくなった。


 何故ならドラゴンを筆頭に『知性のある魔物』は、昔から金持ち相手に高く売れるからだ。


 そうは言っても、力づくで捕まえるわけじゃない。


 彼らは奴隷じゃないからな。

 あくまで俺の世界で暮らしたい、という希望者がアスラを通じて、俺の世界に奉公するのだ。


 俺は言わば仲介役、人材紹介業みたいなもの。


 ちなみに金持ちが魔物を買う理由は、愛玩から護衛までと幅広い。


 アスラの話では、昔は買った魔物に対し、エンタメ目的で虐待を企てた愚か者も居たみたいだが、そういう奴らは誰一人例外なく世界から消えたらしい。


 普通に考えて、金があるだけの常人が魔物を力で押さえつけることは、土台無理な話というもの。


 無論、俺は店にいる間はきちんと面倒を見るつもりだから、こうしてドラゴンを引き取りに来たというわけだ。


「アスラ、あの小さなドラゴンを俺が引き取るのか?」


「うむ」


 俺の言葉に対し、隣にいるアスラが肯定の相槌を打つ。


 俺はドラゴン達に目を向けた。

 そこには堂々たる佇まいで俺とアスラを見下ろす巨大な黒いドラゴンと、その傍らに小さな黒いドラゴンがいる。


 ドラゴン達と俺達との間にある距離は大分離れてる。


 それでも尚、輪郭に鱗の一枚一枚、顔と体のパーツの細部に至るまで、くっきりと目に映る。


 距離を置いてるはずなのに、間近にいるような存在感がある。


 大きい方は、まるでシロナガスクジラを彷彿とさせる。


 頭が高い位置にあるので、目を合わせるだけで首が疲れそうだ。


 それに比べて、傍にいる小さいドラゴンは小鳥みたいだ。


 遠目だから余計に小さく見える。

 近くに寄ればもう少し大きく見えるだろうか。


 俺がドラゴン達に目を奪われてると、隣にいたアスラがドラゴンに向かって歩き出したので追いかけた。


 そして、ドラゴンのプレッシャーを肌で感じる距離まで近づくとアスラの足が止まった。


「おい、連れてきたぞ。ネストよ。こやつが異界の魔物商人じゃ」


 アスラがドラゴン達に切り出した。

 すると、大きい方のドラゴンの両目が大きく見開かれた。


 どうやら大きい方がネストいう名前らしい。


「苦労をかけて、すまない。魔王殿」


「構わぬ。して……そっちの小さいのが今回の依頼じゃな」


「うむ」


 異界の魔物商人とは、俺の事を意味してるのだろう。


 文字に起こすと、とんでもない商売をしてる風な印象があるな。


 たしかに、モンスターを売ったり見世物にしてるけどさ。


 そんな事を考えてると、大きいドラゴンの太く長い首が動き出した。


 先端にある厳つい頭部が俺の方に向く。

 その直後、ネストが「うーむ」と唸り声に近いトーンで繋ぎ言葉を言いながら、頭部を上下に振る。


 ネストの舐めるような視線が、俺の頭部と足の爪先を何度か往復する。


 どうやら値踏みをしてるようだ。

 ドラゴン――それも魔王の眷属である、ダークドラゴンに人を見る目でもあるのだろうか?


 だとしたら、その秘訣を是非ご教授願いたいものだ。


 程なくして、赤べこのように振ってたドラゴンの頭部がピタリと止まる。


 そして「なるほど、人間にしては、なかなか見所があるようだ。魔王殿が目を掛けるだけはある」と比較的穏やかな声音で言った。


 それを聞いたアスラは気を良くしたのか、顔がほころぶ。


「そうじゃろう、そうじゃろう」


 二人の様子を見る限り、どうやら俺はネストに認められたようだ。


 その理由はよくわからないが、何はともあれ、これで小さいドラゴンを引き取ることができそうだ。


 商才が無い俺にも、運が向いてきたのかもな。


 俺は嬉しさのあまり、笑みがこぼれそうになる。


「では、人間よ……しばしの間、我が子ヤミーをよろしく頼む」


「ああ」


 我が子ね……。

 相槌を打った直後、俺はネストとヤミー……つまりドラゴンの親子に目を配った。


 二匹の間には、ドラゴンとは思えぬ穏やかな空気を感じる。


 少なくとも親が子に無理強いをしてる様子は見られない。


 もし、俺の目から見ても、子供のヤミーが嫌そうにしてたら断るつもりだったけど、これなら問題なさそうだ。


 二匹の関係性を人間の基準で測って良いのかどうかは知らんけど。


 ヤミーが俺達の方に向かって、ノシノシと歩いてくる。


 それにしても……よくよく見ると上半身と下半身のバランスよろしくないな。


 今まで、親の大きさに目を奪われて気づかなかったけど下半身……とくに下腹部がでっぷりと膨らんでる。


 人間で言えば浮き輪肉がある。

 そのくせ胸から上は筋張っており、顔つきは遺伝と種族補正で険しい。


 何と言うか、笑いを誘う体型だ。

 もし人間なら生活習慣を改める必要があるけど、こいつはドラゴンだから大丈夫だよな。


 高血圧とか糖尿病とかないよな?

 俺は目の前にいるヤミーに挨拶することにした。


「俺の名前は、天城雄作。しばらくの間、よろしく頼むよ」


「ふむ。貴様の事は大方、父上と魔王様から聞いておる。当面の間、厄介になるぞ。店主よ」


「店主って俺の事か?」


「この中で人間は貴様だけだ」


「普通に名前で呼んでくれてもいいんだが……店主が呼びやすければ、それでいいや」


「それとな、食事は、ぬくぬくと甘やかされてブクブクと肥え太った上質な家畜の肉、和牛を所望する」


「共食いか」


「何か言ったか?」


「耳までたっぷり脂肪が詰まってるみたいで助かったよ」


「まあいい。ちなみにランクはA5のみ。毎日毎食が望ましいのは言うまでも無い」


「善処する。さすがに毎日毎食は難しいけどな」


 予防線は張っておこう。

 販売時期が予測できない以上、想定できるランニングコストは極力抑えないとな。


「期待してるぞ。ふふふ……舌の上でとろける甘い脂。咀嚼すればスライムを彷彿とさせる柔らかい肉質は、闘争を凌駕する快楽をもたらす至上の食物である」


 お腹だけでなく態度もでかいなこいつ。

 ビジネスパートナーでなければ、一発ぶん殴ってるところだぞ。


「わかった。せいぜい肝に銘じておくよ。アスラ、俺とヤミーに転送魔法を。次元の裂け目までな」


「待て、人間よ」


 俺が帰宅しようとした時、間髪入れずにネストが口を挟んできた。


「まだ話はあるのか? ドラゴンの育成方法なら後でアスラにでも教えてもらうから安心しろ」


「誰が無償で引き渡すと申した」


「え?」

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