不良品のスライム その4
「で、一つの世界を支配しても満足しない強欲の持ち主が、サミィに世界の半分を渡すってどういうことだ?」
「ああ。2年前に勇者パーティがわしの根城に乗り込んできてな、昔なら腕ずくで追い返していたのじゃが、この資本主義の世に暴力だけで事を収めるのは愚の極みと思うてな。そこで勇者に取引を持ちかけたのじゃ。世界を半分やるから、わしの下につかないか? とな」
「そうそう、それで私は、世界の半分が私のものになれば十分じゃん、って思って魔王の提案にオッケーしたんです」
「おい、仮にも勇者なら、そんな提案突っぱねろよ。半分だけじゃなくて全世界救ってあげろよ」
「いいから聞いてくださいよ店長。魔王ったら酷いんですよ」
「だって相手は魔王だもん。極悪非道、悪逆無道、血も涙もない無情の代名詞だからな」
「私が、どうやって世界を半分こするの? って聞いたら、お前にやる世界はここじゃない。異世界のことじゃ! とか言って、突然、この店に連れてこられたんですよ! 騙したんですよ! 酷くないですか?」
「だって相手は魔王だもん。悪事が趣味なんだから、詐欺の一つや二つくらいするだろ」
「そして今では、こんな黒ずんだ店で安月給で馬車馬のようにこき使われる資本主義の奴隷なんです……ううっ……」
「だって相手は魔王だもん。自分の手を汚すわけないじゃん。汚い仕事は全部、下に押し付ける資本家みたいなもの――って、ちょっと待て!? 安月給は聞き捨てならねえな。こう見えて周辺の相場よりも時給高いし、寮住まいで家賃光熱費は無料だし、シフトとは言え完全週休二日制、残業ゼロの職場だぞ!?」
俺の言葉には聞く耳を持たず、サミィはアスラに泣きついた。
「ああ、よしよし。雄作はなんて酷い男なんだろうねえ……おい! 雄作、わしのことを非道だの無情だの好き勝手言うだけでは飽き足らず、勇者まで泣かすとは、とんだ外道じゃのう。男の風上にもおけん奴じゃ」
「勇者と魔王が手を組んで人間なじるの止めろ! というか勇者が魔王に泣きつくな! 勇者としてのプライドは無いのか!?」
「こんな奴じゃが、こやつが勇者なのは疑いようのない事実じゃ」
「何を根拠に言ってんだ? 俺からしてみたら私欲のために世界の半分を魔王に明け渡す人でなし。人類の敵にしか見えねえよ」
「こやつからは、痛々しいほどの神の加護を感じる。それが勇者である確固たる証拠じゃ」
アスラはハッキリと断言した。
その声音と表情は、気持ちいいほど自信に満ちている。
まあモンスターの創造主がいうのであれば、そうなんだろう。
あの様子を見る限り、あちらの世界では相当な人材不足に悩まされてるようだ。
サミィを勇者に任命した神様とやらも、まさか世界を魔王に売り渡し、今では俺の店で労働に従事してるとは思わないだろうな。
気の毒だが仕方ない。
適材適所というものがある。
今回は神様の人選ミスというだけの話だ。
俺が考え事をしてる内に、ちょうど話題が切れたのか静かになるとアスラは視線をカウンターに戻した。
しばらくすると五百円硬貨が次々とモンスターに姿を変えた。
何度か目にしてるとは言え、本当に理解しがたい事象だ。
俺もモンスターが造れれば手間と仕入れが捗るんだが、こればっかりは魔王特有の能力らしいので常人の俺には不可能。
そんなわけで俺は俺に出来ることをやるとしよう。
「サミィ、暇なら店内の掃除を手伝ってくれ」
「ええ~、こんなの掃除するの大変ですよー」
「お前が原因だろうが……まあ残業しろとは言わん。定時になったら帰っていいから、それまでは手伝え」
「わかりました!」
残業が無い、と知るや否や調子を取り戻したようだ。
そもそも俺は店を開いて以来、全従業員には1分も残業させたことはない。
取り扱ってる物が物だし、客層も不必要に過剰なサービスを俺の店に求めてない。
料金以上のサービスを提供するつもりはないし、従業員にもそのように徹底的に教育してる。
料金に見合うサービスを提供することと、理不尽なクレームを入れてくる奴らには二度と来店できぬよう肉体的にも社会的にも制裁するべし、と。
「店長」
「サミィ、口じゃなくて手を動かしてくれ」
「店長って魔王と仲良さそうですが、どんな関係なんですか?」
「ビジネスライクだ。アスラは俺が発注したモンスターを造る、俺はモンスターを売りさばく。それだけだ」
「ふーん、そんな風には見えませんが」
「冷たい奴じゃのう。一緒に寝た仲ではないか」




