希少種販売
ここは、いつも通り閑古鳥が鳴いてるモンスターショップ。
外はまだ明るく、窓から入る日差しが眩しい。
そんな中、俺は閉店作業に勤しんでいた。
いつもなら営業時間なのだが、今日は事情があって早めに閉店する運びになってる。
俺は外のシャッターを閉めた。
強い日差しをシャッターで遮ったため、涼しくなった気がする。
するとバックヤードのドアが開く音が鳴った。
続いて「店長~、準備できましたよ~」とサミィのハツラツな声が聞こえた。
「丁度、良かった。少し待っててくれ。今、着替えてくるから」
バックヤードの方に目を向ける。
そこには、私服姿のサミィと魔王印のリードに繋がれたドラゴンがいる。
首は蛇のように長く、両翼は折りたたまれており、鱗は炭のように黒い。
顔は厳ついトカゲの輪郭に険しい両眼と二本の角がある。
体格は、ダチョウの子供と同等。
下腹部は、だらしないけど。
その理由は、このドラゴンがまだ幼い子供だからだ。
そのため、こっちの世界の建築物の出入りが出来る。
だからこそ、今日この日までバックヤードにある魔王印のケージで飼っていた。
「ふむ、ようやく狭苦しい檻から解放されるか」
このダンディな中年を想起させる渋い声の主はドラゴンである。
サミィは右手をドラゴンの角に触れると「ああ~、よしよし。これで私もヤミーちゃんのお世話から解放されると思うと、急に感慨深いものがあるわね~」
サミィがヤミーの角をさすると、急にヤミーが「グウゥウウウウウ」と唸り声を上げると同時にサミィを睨みつけた。
威嚇のつもりらしい。
凡人なら逃げ出しそうなプレッシャーを感じるが、そこはさすが勇者。
サミィは物怖じせず、再びヤミーの角をさすり始めた。
「もう最後なんだから、そんな怖い顔しなくてもいいじゃん」
「勇者に対し過剰に警戒をするのは、我らダークドラゴンの性というもの。人間がゴキブリを嫌うように、ダークドラゴンは勇者を忌避するのだ。まあ我は悪い気がしないので構わんが――」
「そこは普通、気を悪くしたなら土下座でも何でもします! でしょ!?」
ヤミーも大袈裟だと思うがサミィも大概だ。
「あれだけ、お世話してあげたのにそんな言い草しなくてもいいじゃん」
「それはあくまで職務の内であろうに。なあ店主よ」
「俺はサミィに指示しただけだ。そこから先は知らん」
当然だがドラゴンの世話なんて、普通の従業員に任せるわけにはいかない。
救いなのは、このダークドラゴンの知性はサミィより高いので、餌やりと散歩を欠かさなければ、サミィよりも大人しくて良い奴ってところだ。
逆に狭いケージの中に押し込めてる俺の方が心苦しい。
「そもそも貴様は、我の面倒を見る職務を口実に、他の職務を怠っておっただろうに」
「そ……そんな事はないわよ~。ほら、あんたが大人しくしないから時間かかっちゃって~」
サミィは不自然な笑顔を俺に向けてる。
そういうサボりについては、俺からとやかく言うつもりはない。
外回りの営業マンがパチンコやゲーセンでサボるようなもの。
大体、職場に戻ってくる時間が不自然に遅い時のサミィの行動なんて察しがつくし、何だかんだでピークタイムの時は現場にいるので経営に支障はない。
「それに、我の食事を脂のない品種に差し替えたことが幾度もあったではないか」
「うう……だってA5の和牛なんだもん。霜降り肉だもん。仕方ないじゃない」
「サミィ、お前……動物の餌を横取りするなんて人間として恥ずかしくないのか?」
「霜降り肉だから恥ずかしくないもん」
「だよなぁ……俺も高級な和牛なんて出したくねえよ」
「店主!? 何故、勇者に同意するのだ!? そこは普通、我に与する局面では?」
良心が痛まないポイントが、こいつの餌代にある。
このドラゴンは、恐ろしい事に普段の食事に霜降り肉を要求するのだ。
しかもご丁寧に味付けは塩のみ、調理は不要と来たもんだ。
何でもドラゴンの舌は、牛の脂の融点を超えるから生のまま食べても美味しいらしい。
人間がマグロのトロを食べるようなものだ。
さすがに毎日毎食、満腹になるまで霜降り肉を出したら倒産するので、5日に1食ほどにしてる。
過去に餌代を節約しようと牛脂注入肉に代えてみたら、目の前で吐き出されて「こんな不自然な肉が食えるか! これなら純粋な赤身肉の方が幾分かマシだ!」と激高したので、舌を引っこ抜いてやろうと思ったこともある。
俺は着用してたエプロンを外しながら、バックヤードに向かった。
サミィとすれ違いざまに「ようやく、お前とオサラバできるな」と俺はドラゴンに言った。
するとドラゴンが「それは我の言葉である。店主よ」と子供とは思えぬ渋い声と言葉遣いで返ってきた。
閉店作業を終え店を出た俺とサミィは、商品であるドラゴンを連れて、お客様のご自宅に向かって歩き出す。
俺は手ぶらで、サミィはリードを握っており、その先にはドラゴンが散歩する犬のようについてくる。
「店長~、どこに行くんですか?」
「そこのドラゴンを買い取ってくれる奇特なお客様のご自宅だ」
「違いますよ~、場所ですよ場所」
「高天原だ」
「おお! 石を投げたら金持ちに当たる、あの有名な」
「そうそう。金持ちが住む超一等地」
「確か、店長の実家もありましたよね?」
「そうだな。今日は帰らないけど」
「あれま」
別に家族仲は良好だと自認してる。
ただ年なのか性分かはわからないが、用がない時に顔を出したくないだけだ。
「今日はお客様にこいつを引き渡したら終わりだ。サミィは、そのまま直帰でいいよ」
「給金は?」
「一日分出すよ」
「さっすが店長! 話がわかるねえ」
そうか。
お客様に引き渡したら、二度とヤミーに会うことはないのか。
感傷的って程でもないが、道すがらヤミーとの出会いが走馬灯のように脳裏に浮かんだ。




