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異世界で買い付け 最終話

 カルロスの疑問に答えた後、サミィが「そろそろ都市部に行きたい」と言い出したので、俺とサミィはエルフの村を出立することにした。


 カルロスの計らいで、都市部に向かう村の馬車に便乗させてもらうことになった。


 御者席には、エルフの男性。

 荷車には、積み荷と共に俺とサミィがいる。


 馬車とは言え、都市部まで時間はたっぷりある。


 今は夕日が顔を覗かせているが、到着するころには沈んでるだろう。


 そうなると次の問題にぶち当たる。

 都市部に到着するまでの長く退屈な時間をどう潰すか。


 俺とサミィの間には、何とも言い難い静けさに満ちてる。


 気まずいわけではない。

 単純に話題が無いだけだ。

 俺は就業時間外に、従業員とはつるまない。


 それはサミィも例外ではない。

 だから就業時間外に鉢合わせすると、こうなってしまうのだ。


 数十分程度なら無言でも構わないが、知人を差し置いて一時間以上無言を貫く頑強なメンタルは持ち合わせてない。


 俺は退屈な時間を少しでも紛らわすため、話題を探ることにした。


 時間にして、ものの数分。

 ちょっとセンシティブな主題かもしれないが、せっかくの機会だから聞いてみることにした。


「サミィ、お前はなんで勇者になったんだ?」


 俺が切り出すと、サミィは目を丸くした。


「言い辛いなら言わなくていい。道中の退屈しのぎだからな――」


「店長って、人間に興味あったんですね」


「お前は俺を何だと思ってやがる!」


「人間嫌いの変人」


「そんな奴が客商売するわけねえだろ」


 と言い返すものの、実は半分は本当だったりする。


 実のところ最小限の接客ですむモンスターショップ一本で身を立てようと思ってたが、開店して数か月しても売り上げが損益分岐点を超えられなかった。


 そこで魔王の提案で、モンスターカフェを開業する運びとなった。


 主力がモンスター、従業員は最小限の注文、配膳、清算に留めることでお客様との不必要な会話を回避。


 なにより河原町の歓楽街という土地柄のおかげで、質の悪い客が来店しないことが功を奏して、モンスターカフェを開業した翌月から売り上げが損益分岐点を超えた。


 当初は嬉しい反面、俺に商才がないことを念押しされたみたいで喜べなかったけど、今こうして買い付けついでとは言え、のんびりとした時間を過ごすことができるのは魔王のおかげと言えよう。


「でも日本にはこんな言葉がありますよ。お客様は神様って」


「それは比喩表現だからな!? うちにくるお客様に人間いるからね?」


 河原町という土地柄、亜人種や魔族がいるので、人間しかいない! と断言できないのがもどかしい。


「でも接客業やってると、お客の顔が金貨に見えますよ」


「日本に帰ったら眼科と精神科に行ってこい。仕事は休んでいいから」


「やったぁ! お休み、お休み!」


「先に言っておくが診断書がもらえなかったら無給だからな」


「うう……たった今、パワハラ受けたから診断書くれますよ」


「経営者に楯突く元気があるなら診断書なんて出ねえよ……つうか、勇者になった経緯はどうなった!?」


 するとサミィは嘆息をついて、わざとらしく肩を竦める。


「もう仕方ないですね~、本来ならパワハラになりますが、連帯債務者のよしみで教えて差し上げましょう」


 胸を張って得意げに言うサミィに対し、小一時間くらい説教してやりたい衝動に駆られる。


 ただサミィに説教したところで連帯債務者は取り消せないので、身の内に湧き上がった憤りはババァのために取っておくことした。


「私が勇者になったのは、神様に選ばれたからです」


「勇者って任命制なの?」


「そんなの私に聞かれても知りませんよ。ただ、ある日の夢の中で、神様の啓示があったんです」


 神様なら当然か。

 夢の中に入るだけならサキュバスでも出来るからな。


「この世界は、魔王の魔の手によって滅ぼされようとしている、と」


「へえ、もっともらしい事を言うな」


 実際、あいつは電気を作るために環境破壊スレスレのことやってるしな。


「そこで私は神様に問いかけました。私が労働を強いられてるのも魔王のせいですか? と」


「働かざる者、食うべからずって言葉を知ってるか?」


「私の問いに、神様は答えてくれました。あなたが身を粉にして働いてるのも魔王が原因です、と」


「それはただの幻聴だろ」


「落ち着いてください店長。話はまだありますから」


「聞きたいような聞きたくないような――」


「続けて神様はこう言いました。サミィ、そなたに力を授けましょう。今こそ勇者となって魔王を倒してください、と。そして私はたずねました。勇者になれば、働かなくてもいいですか? と」


「お前が勇者になった理由って、ニートになりたいからなの!?」


「そうですよ。ちなみにカルロスがパーティに加わったのも同様です」


「そこは嘘でも、世界平和のためって言えよ! 勇者の名が泣いちゃうだろ」


「店長、バカにしないでください! 切っ掛けはともかく、私はちゃんと世界平和のためにがんばったんですよ!」


「そ、そうか……」


「だって神様はこう言ったんです。魔王が謳う資本主義は『不公平で不平等で争いが絶えない世界。その点、社会主義はみんな平等で争いのない平和な世界よ』って」


「お前、資本主義と社会主義の意味と違いを知ってるか?」


「知りません!」


 なるほど。

 神様の人選はある意味でベストだったようだ。


 無知な若者を扇動して、魔王にぶつける魂胆とでも言うのか。


「そうか。しかし、神様の言葉の意味もわからないまま、よくあんな化け物と戦う気になったな」


「勇者の力って奴ですよ。魔王を見ると恐怖よりも勇気が勝るんです」


「実際に戦ったのか?」


「はい! 惜しい所まで追い詰めたんですけど、やられちゃいました。テヘ」


「ノリ軽いな」


「それで気が付いたら魔王とテーブルを囲んでて、一緒に食事してました」


「そこで、世界の半分をもらう約束を取り付けたと」


「はい」


「魔王を倒したいって気持ちはないのか?」


「私自身はこれっぽっちもありませんよ。厄介な職業病には罹ってますけど」


「勇者ってこう、魔王を倒すために命をかけるものじゃないのか?」


「戦わずに生きられる世界なら、それが一番ですよ。私だって自分の命は大事ですよー」


 サミィは屈託の無い笑みを浮かべてる。

 日の光を遮る荷車の中において、サミィの笑顔はとても輝いて見えた。


 俺は照れを隠すように「同感だ」と返した。


 気が付くと外が暗い。

 それから、しばらくすると馬車が止まった。

 どうやら都市部についたようだ。


 俺とサミィは馬車から降りた。


 そして御者のエルフに「ありがとう、助かったよ。カルロスにもよろしく、と伝えてくれ」と告げた。


 すると「お待ちください」と呼び止められた。


 その直後、御者は懐からカードリーダーを取り出した。


 嫌な予感がする。

 瞬時に背筋が凍り付いた。


「勇者滞在税と勇者輸送税のお支払いをお願いします」


 御者は嫌らしいほどの営業スマイルを振りまいてる。


「店長、お願いします!」


 サミィは屈託の無い笑みを浮かべてる。

 それは先ほど馬車の中で見せたものと寸分違わない輝きを放っている。


 でも今の俺は、まばゆいサミィの笑顔が妙に憎くたらしく思えた。

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