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異世界で買い付け その7

「カルロス。一つ聞いていいか?」


「ん? どうした、そんな深刻そうな顔して」


「ちょっとした確認だ。もしかして、俺の頭が悪くなった可能性もあるからな」


「いくら君が短命とは言え、物忘れが頻発する年には見えないが」


「どちらかと言えば物忘れより記憶の整理だ」


「ふーん。で、何を知りたいんだい?」


「カルロスは、この村の出身だよな?」


「うん。生まれも育ちもここだよ」


「秘宝を盗み取る手筈を整えたのも、お前だよな」


「ああ。村のことなら大体、知ってるからね」


「それじゃあ……何で俺が勇害税を払わないといけないんだ!?」


「あ……気づいちゃった? というかボクの失言だったか」


「すっとぼけるな! 何で俺がお前達の敗戦処理をしなきゃいけないんだ!?」


「真意は魔王に聞いてくれ。ボクは試しに魔王に『村の秘宝が盗まれました』と被害届を出しただけ。そしたら勇害税徴収の許可が下りたんだ」


「そんなんで納得できると思ってんのか!?」


「お役所仕事なんて、そんなものでしょ。ちなみに被害届の名義はボクじゃないけどね。ボクの名前だと取り下げられる可能性があるから――」


「お前ら寄ってたかって、俺から搾取して楽しいか!?」


「文句があるなら魔王に直接クレームを出してくれ。この村としては、今後も君から勇害税を取り立て続けるよ」


「がんばってね、店長!」


「冗談じゃない! あのババァ、俺に負債をかぶせやがって。こうなったら、一日でも早くオリジナルブランドのコーヒー豆を作ってやる!」


「ユウサク。短気は損気だよ。ただでさえ人間は寿命が短いんだから、もっと人生を謳歌しないと――」


「誰のせいだと思ってんだよ!」


「ちなみに勇害税はあくまでサミィの負債だから自己破産は通じないよ」


「そんな事、聞きたくなかった! お前ら、俺をいじめて楽しいのか!?」


 俺の憤りに反して、サミィとカルロスは楽し気に笑ってる。


 こっちは身に覚えのない借金を無理やり返済させられてるってのに。


 俺は気持ちを切り替えるために、炒り網に目を向けた。


 豆は焦げ茶色。

 香り……というより臭いも先ほどより強い。


 ストップウォッチは、10分を過ぎてる。

 頃合いだな。


 俺は焚火から離れた。

 テーブルに手動ミル、ペーパーレスドリッパー、ガラス製のコーヒーサーバー、それとサミィ用に砂糖とミルクを並べる。


 サミィはスタブで注文するドリンクはフラペチーノの類ばかりで、苦いのはNGなのだ。


 カルロスが「今、お湯を運ばせるよ」と言うと、短い詠唱を唱えた。


 欲を言えば焙煎後に数日間置きたいところだけど、豆の質を確かめるだけなら大丈夫だろ。


 正直……テーブルに立ち込める臭いからして期待できない。


 俺は不安を拭い去るように焙煎した豆を挽いた。


 手動ミルからは、不安をより一層掻き立てる臭いが漂ってきた。


 先ほどまで満面の笑みを浮かべてたサミィとカルロスも渋い顔になってる。


 豆をドリッパーに放り込むと同時に、先ほどカルロスの執務室に案内してくれた女性がポットとカップを持参してきた。


 三人分のコーヒーが淹れ終わる。

 サミィ、カルロスにコーヒーをサーブすると、俺はテーブルの空いてる席に腰を下ろした。


 サミィはすかさず砂糖とミルクをカップに大量投入する。


 カルロスは綺麗な所作でカップを口元まで持ち上げると両目を閉じて、スンスンと鼻をならした。


「なんというか……色はボクの良く知るコーヒーなのだが、匂いの主張が激しいというか、不自然というか――」


「店長、このコーヒー。ミルクを入れたのにトイレの臭いがしますよ」


「サミィ、せめて芳香剤の匂いと言え。それだと汚物みたいだろ」


「汚物から取り出した豆を使ってるくせに」


 焙煎して淹れてみて、カップから立ち昇る香りは決して悪臭ではない。


 それどころか良い匂いだと断言できる。

 但し、それはコーヒーに求める香りではない、とも言える。


 良質なコーヒーの中には、フルーティーと評する品種があるけど、それとは別次元の液体。


 これが透明感のあるハーブティーから香るのなら良いが、真っ黒いコーヒーから嗅ぐと脳みそがバグりそうだ。


 俺は覚悟を決めた。

 カップを手に取り、目を閉じてから、黒い液体を少しだけ口の中に入れた。


 その瞬間、口内がお花畑になった。

 むせ返るような甘い花の匂いが口いっぱいに広がる。


「ユウサク……これは本当にコーヒーかい? まるで香水を飲んでる気分だよ」


「店長、もしこんな飲み物がスタブから発売されたら、メニューから消えるまで延々とクレーム入れ続けますよ」


「これは売り物どころか、飲み物にもならないな」


 最初から上手くいく訳ないよな。

 オリジナルブランドのコーヒー豆の道のりは遠い。


 その分、やりがいがあるってものさ。


「だが、あのコーヒー豆が動物の体を通すことで、ここまで味わいが変化するとは驚きだね」


「ちょっと行き過ぎて別物みたいになったけどな。でも、この世界の動物でも、豆の風味を変えることはできた。それを知ることが出来ただけでも十分だ」


「うん。こうなると色んな動物で試したくなるね」


「ああ。引き続き、よろしく頼むよ、カルロス」


 その後、俺達は各々、味を変化させて無理やり香水コーヒーを飲み下した。


 するとカップを置いたカルロスが意味深な笑みを浮かべると口を開いた。


「ユウサク、ボクも一つ聞いていいかな?」


「いいぜ。不味いコーヒーを飲ませたお詫びとして今なら幼少期の黒歴史からスリーサイズまで何でも答えてやるよ」


「何でユウサクは、魔王と懇意にしてるのかな? 同郷であるボクとサミィならともかく、君は別世界の人間だ。普通に考えて接点があるはずがない」


「言われてみれば確かに、何で店長と魔王が親しいのかな。私がお店で働く前から知り合いみたいだし」


 その程度なら別にいいか。

 明かしたところで不利益にならないしな。


「俺の祖父とババァが昔馴染みなんだ。天城家とは七十年来の付き合いだよ」


 俺は速やかに、カルロスの疑問への答えを口にした。


 カルロスは驚く様子を見せず、しばし考える仕草をしてから「ふーん、そういうことか」と言った。

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