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異世界で買い付け その6

「それにしてもサミィが別世界とは言え、まともな仕事に就いて、しかも今に至るまで続いてるなんて信じられないよ」


 沈黙を破ったのはカルロスだった。


「私もそう思う」


「待て。その言い草だとまるで、俺の店にずっと勤め続けてるみたいじゃないか」


「違うのかい? ユウサク」


「サミィは何度か出戻りしてるよ。店番に飽きた、こんなハラスメントをフルコンプしてる職場では働けません、新作のゲームが出るので辞めます、とか色々と理由付けて辞めては数日後に何食わぬ顔して戻ってくる。だから厳密に言えば九割はうちだが、他一割は!他所よそかニートだ」


 他所と言っても河原町の内部なので、サミィの行動自体は筒付けだったりする。


「店長ぉ~、何でそんな細かいこと覚えてるんですか?」


「従業員が一人抜けるだけで大事(おおごと)になるからだ。色々と面倒なんだよ。シフトの調整とか手続きが――」


「ふふ、それだけサミィに手を焼いてるのに、泣きついてきたら再雇用するんだね」


「泣いてないわよ!」


「ババァに頼まれたからな」


「世界の半分がどうのこうのって話だよね」


「そうそう。サミィが魔王の提案にのって、世界の半分をもらう約束を取り付けたら、俺の世界に放り出されたって話」


 あれ?

 まるで午後のお茶会のように歓談してるが、そもそもカルロスって元サミィのパーティメンバー何だよな?


 パーティメンバーとして、サミィが世界の半分を差し出した事について何か思うところはないのか?


 どうせ時間はあるんだ。

 せっかくの機会だし、聞いてみよう。

 それに勇害税を肩代わりしてる以上、俺にも知る権利はある……と思う。


 不穏な空気になったら、勢いで誤魔化せばいいしな。


 俺はサミィと魔王の決着について、カルロスに訊ねる事にした。


「なあカルロス。お前はサミィが魔王の誘いに受け入れたことについて、何か感じたことはないか?」


 俺の言葉に対し、カルロスにしては珍しく即答しなかった。


 代わりにサミィが「今更、そんなこと知りたいんですか?」と呑気な口調で言った。


 サミィの声音を聞く限り、地雷は回避してるようだ。


 程なくしてカルロスが「そうだなぁ……」と意味ありげに言った。


「強いて言うなら……人間って欲深いなぁ、とは思ったね」


「あはは、私から言わせてもらえばカルロスが欲なさすぎなのよ。男のくせに」


「ボクは生涯、悠々自適な日々を送れるなら、それで十分だからね。太陽と共に目覚めてはゲームをして、空腹となれば適度に腹を満たし、日が沈んでから眠くなるまでゲームをする。ボクは今のこの生活が性に合ってるのさ」


「仕事しろよ……って言いたいけど、お前はこの村の地主だもんな」


「魔王の誘いを受けたおかげでね」


「……そういうことか」


「うん。ボクはこの村の土地をもらうだけで十分だったけど、サミィはそうじゃなかった。街や都市、国はおろか大陸でも首を縦に振らなかったんだ」


「持ってる相手からは、がっつり取らないとね」とサミィは得意げに言う。


「――で、魔王に騙されて、俺の世界に放り出されたわけか」


「サミィの件は、欲張るとロクなことがない、といういい例だね」


「ううっ……」とサミィは涙声を出した。


 サミィがどんなに落ち込んでも、自業自得なので一ミリも同情の余地はないけどな。


「しかも勇害税のオマケ付き。エルフの秘宝を盗んで、借金こさえただけじゃねえか」


「秘宝については、不可抗力だもん。仕方なかっただもん。当初の予定では、重要施設を順番に解放するつもりだったもん。でもでも、その重要施設に配置されたモンスターがあまりに強くて無理ゲーだったから、魔王城に直接乗り込むしかなかったの!」


「普通、魔王城の方がモンスター強くないか?」


「そんなことなかったよ。ええっと……何だったっけなぁ……あの重要施設の名前――」


 サミィが言葉を詰まらせるとカルロスが助け船を出した。


「確か魔王は発電所(はつでんしょ)って呼んでたね。当時はよくわからなかったけど、今なら魔王城よりも強いモンスターを配置する気持ちがわかるよ」


 確かに自宅と生産場、どちらの守りを厚くするかと言われたら生産場だろうな。


 特にババァは魔王だけあって規格外の強さだから、警備なんて居ても居なくても変わらないだろう。


 何より電気エネルギーは、異世界の主要産業の一つだからな。


 異世界には生身で気軽に立ち寄れる過酷な環境が点在するので、それらは太陽光、風力、潮力、地熱、水力に利用。


 広大な海のど真ん中、生き物が生存できない危険地帯には、原子力発電所を建設済み。


 ちなみに異世界で作られた電気の大部分は、俺らの世界に送電されてる。


 そのため異世界と俺の世界を繋ぐ、次元の裂け目には送電ケーブルがひしめいており、その様子はさながらCG合成後の映画のセット。


 風情がない分、マニアの観光名所になってる。


 おかげでサミィが隠れ潜むところには困らないってわけだ。


「なるほど。サミィ達は発電所の制圧を諦めて、本拠地に乗り込むために秘宝に手を出したわけか」


「まあ村の秘宝を盗む手引きをしたのは、ボクだけどね」


「だろうな。この村は昔から魔王の領地だから、内通者でもいない限り秘宝なんて御大層なものを盗み取るのは、略奪より難しいことは容易に想像がつく」


 と口にしたところで、俺は妙な違和感を覚えた。


 とりとめのない雑談に、詮索なんて野暮な真似をする趣味はないんだが、どうしても引っかかる箇所を察知すると払拭したくなる。


 他人事なら放置してもいいけど、これに関しては俺は当事者だからな。

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