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現代社会のモンスターショップ奮闘記 ~そちらのお店から仕入れたスライム、服を溶かしてくれないんだけど、どういうこと!?~  作者: 田島ユタカ
第四章 異世界で買い付け

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異世界で買い付け その5

 カルロスの執務室から出た後、貯蔵庫に赴き、むこう数か月分のコーヒー豆と茶葉を買い付けた。


 勇害税込みの料金を支払った後、仕入れた豆と茶葉を輸入検査に出すための手続きを済ませた。


 物が物だけに、検査証明書が無いと自分の世界に持ち込めない。


 特に日本は、食品安全性の管理において地球上で一番厳格な国だしな。


 面倒な事務手続きを終えるとカルロスから「ユウサク。例のコーヒー豆、用意できたから試していくかい?」と声をかけられたので、俺は申し出を受ける事にした。


 魔力回復するためには、一にも二にも異世界に逗留することなので時間つぶしに丁度いい。


 俺、サミィ、カルロスの三人は今、カルロスの屋敷の庭にいる。


 サミィとカルロスはテーブル席でお茶を嗜んでる。


 俺はとテーブルではなく、焚火の側で小さい椅子に腰を下ろしてる。


 これからコーヒー豆を焙煎するためだ。

 先ほどカルロスから受け取った生豆(きまめ)を自前の炒り網の中に適量放り込む。


 ちなみに今回使う炒り網は、手付きステンレス製ザルと油はね防止用ネットが合体した感じのもの。


 生豆の入った炒り網の取ってを掴むと、焚火から約三十センチほど上の辺りまで持ち上げてから、左右に炒り網を振る。


 風は吹いてないから、約10分程で浅煎りになる算段。


 地面にストップウォッチを置いて作動させる。


 厄介なことに、この村には時間を計るものがないので、こうして自分で正確な時間を計れる道具を用意しなければならない。


「ユウサク。今更いうのも何だけど、それ本気で飲むつもりかい? というか飲んでも大丈夫なのかい?」


 背中越しにカルロスが俺に話しかけてきた。


 ちなみに二人は、俺の後ろにいる。

 顔は見えないが、会話には困らない。


「それを確かめるために、こうして焙煎してるんだろ」


 小刻みに炒り網を左右に振りながら返事をする。


 シャカシャカと小豆を洗うような小気味良い音も混じってるが会話の妨げにはならない。


「カルロス。店長があぶってる豆、何か問題でもあるの?」


「ああ。あれは一見、普通のコーヒーの生豆に見えるがちょっと他とは違うんだ」


「そんな勿体ぶった言い方されると気になるじゃない。私も飲むんだし」


「あれはね……この地方にのみ生息するマルキュラムネコに豆を食べさせて、その糞から取り出したコーヒー豆なんだ」


「うげえ……私、パス。カルロスは飲むの?」


「少しだけね。コーヒーの香りと味は好きだが、カフェインとやらを摂取すると落ち着きが無くなるから、常飲はしないかな」


「私はコーヒー、毎日飲むよ」


「ユウサクの世界にあるバックスタブコーヒーって店だっけ? 随分と入れ込んでるみたいじゃないか」


 バックスタブコーヒーとは、河原町にあるコーヒーショップで、サミィが常々口にしてるスタブの正式名称でもある。


 キャッチフレーズが『前に並んでる客の背中を刺したくなるほど美味しいコーヒーをあなたに』と物々しいくせに、中身は歓楽街に遊びに来るお客様向けの高級喫茶店。


 但し、高級なのはドリンクとフードで、目に見える外観と内装はチェーン店より劣るが、このご時世にしては珍しく終日全席喫煙なので裕福な方々には概ね好評らしい。


 近くにあるので、俺も月一でテイクアウトする。


 チェーン店によくあるオプション前提の病的な深煎りではなく、ブラックもいけるのだ。


 フルーティーな酸味、甘味、苦み、コクがバランスよく、芳醇な香りは一度嗅ぐだけで別世界に誘われるような錯覚すら覚える。


 どのメニューも値段に見合う味と質はあることは認めるが、悲しいことに経済面の都合で常連にはなれない。


「朝昼晩欠かさず通い詰めてるわよ」


「それだけカフェイン摂取してるのに、よく眠れるね」


「店長が言うには、私はカフェインに耐性がある体質なんだって。でも……さすがに、アレは飲みたくないなあ」


 ちなみに俺のカフェイン感受性は低いので、夜中にコーヒーを飲んでも秒で眠れるサミィがうらやましいと常に思ってる。


 俺なんて定期的にカフェイン断ちしないと体に支障をきたすからな。


「昔、君は自分の装備を新調するために、アレをかき集めてた時があったじゃないか。ほんの数ゴールド足りないから! といって農場に忍び込んでただろ」


「それはあくまで金策の一環でしょうが! 今、店長がやってるのは、ただの嫌がらせにしかみえないわ。パワハラよ! パワハラ!」


「――ってサミィが喚いてるけど、実際のところはどうなの? ユウサク」


 俺は炒り網を焚火に少しだけ近づけてから「趣味と金策だ」と返した。


「店長……そういうプレイが好みだったんですか?」


 サミィは怪訝そうな声で言った。


「何度も言ってるが俺はノーマルだからな」


「そういう事をしたいなら魔王に言ってくださいよ」


「嫌だね。あのババァに言うとマージン取られそうだからな」


 実際この村は、サミィの勇者活動開始前から魔王の領地で、その時から農業を営んでる。


 そして年中気候と気温が安定してるため、コーヒー豆と茶葉の生産地になっている。


 だから、あいつが俺の構想に気づいて『分け前を寄越せ』と言ってきたら、俺は首を縦に振るしかないのだ。


「それに今こうして焙煎してる豆だって金かかってんだぞ」


「私の時給は上がらないのに!?」


「ちゃんと明細読んでるか? 入社当時と比べたら、多少上がってるだろ!?」


「スタブの価格上昇に追いついてないもん」


「お前が無駄遣いしてるだけだ」


「何で私によりも、そんな豆にお金使ってるんですか?」


「自社ブランドを作ってみたいから」


「ウンコを!?」


「コーヒー豆のほうな。そっちはあくまで過程だ」


「店長、何を言ってるのかさっぱりわかりません」


「ちなみにボクも理解してないよ。村としては、報酬分の責務は果たすつもりだけどね」


「手短に説明するとな、極上のコーヒー豆を作るためだ。俺の世界で一番高いコーヒー豆は、コーヒーの実を食べた動物の糞から取り出した種子を乾燥させたコーヒー豆なんだ」


 気になる方は、コピルアクやブラックアイボリーを調べてみてくれ。


「なるほど。それでボクの世界の生き物で、同様の工程を踏んでオリジナルのコーヒー豆を作ろうって魂胆か」


「そういうこと。まあ単純に美味しいコーヒーを飲みたいのもあるけどな」


「元がアレなのに……本当に美味しくなるのかい?」


「俺の世界では、動物の体内で種子に独特の香味がついて、そいつがコーヒー本来の香りやコクと合わさって、複雑で豊かな味わいとなる。こっちの世界ではわからん」


「ふーん、もし美味しいコーヒー豆が誕生したら、村の名産にしていいかい?」


「マージンはもらうぜ。開発費用は俺持ちだからな」


「オーケー。これで名産品が完成したら、ボクはもっと楽ができる」


「ババァには黙っておけよ」


「善処するよ。でも魔王は、勘が鋭いからね」


「追及されたら答えていいさ。でも、こっちからわざわざ連絡はしなくていい」


「それなら厳守できそうだ」


 話が途切れたため、急に静かになった。

 程なくして、薪と豆の爆ぜる音が鳴り響く。


 そしてコーヒー豆を炒った香ばしい匂い……というか臭いが立ち込める。


 この時点で嫌な予感しかしないが、せっかく作った豆なので2ハゼの直前まで炒ることにする。


 せっかく投資して作った試作品であることと、ここまで怪しげな臭いを放つコーヒー豆となると逆にその味を確かめたい好奇心がうずく。


 ワンチャン、クサヤやドリアンみたいに異臭の中に上質なうま味とコクがあれば、珍品として売れそうだしな。

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