異世界で買い付け その4
「で、ユウサクの用件は、お茶の買い付けかな?」
「ああ。事前に、手紙を送ってただろ? 今日、買い付けに行くって」
「え? 読んだ覚えないけど」
「この村、そんなに外部とのやり取りが多いように見えないけど」
「そういえば二週間くらい前に、封書を受け取ったような気が――」
「送ったのは一か月前だがな」
「ユウサクはいちいち細かいな」
「お前が大雑把だからな」
「そうだそうだ。そもそも、ここ一か月……紙の文字を読んだ覚えないんだ」
「読めよ! 客人の手紙だぞ! お前が手紙を読まないから、こんな屋敷まで出向くはめになったんだぞ!」
ちなみに手紙の中身には、『村に入ると勇害税を徴収されるおそれがあるから、村の外で取引がしたい』という文言を記載してる。
万が一、サミィがついてきた時のために、と思って記したのだが、結果はご覧の有様。
「そうカリカリしなさんな。それにボクは、日が昇ってる時なら、いつでもウェルカムだしね」
「そういうセリフは、来客者の目の前でゲームを止めてから言うんだな」
「ごめん、ごめん……あ、一緒にゲームやる? 実際にプレイするのはボクだけど」
「そんなことより、さっさと品を見せてくれ」
「やだな~、こんな天気のいい日に仕事したくないよ~」
「お前なぁ、鶏だってもうちょっと記憶力あるぜ」
「君こそ忘れてるんじゃないのか?」
「何をだ?」
「ボクは、仕事が嫌いだ」
「仕事が嫌いなのと仕事をサボるのは違うと思うが――」
「働いたら負け。戦わずして勝つ。働かずに食うべし。これがボクのポリシーだ」
「お前らエルフだって農業と狩猟はするだろ」
「ボクらも生きるためには水と食料は必要さ。だから延命に必要な分だけは用意するけど、それで商売はしない。ユウサクの世界で言うアイヌみたいなものさ」
「わかった、わかった。それじゃ、商売するための品を見せてくれ」
「レベル上げが一区切りついてからでいいかい?」
「お土産を先送りにしてよければな」
「おっと! そういう事は先に言ってくれよ」
「次からそうするよ」
俺は鞄から、複数のゲームパッケージを取り出すと、机の上に雑に並べた。
ハッキリ言って俺は流行り物以外のゲームに興味ないから、ネットでざっくり調査した後、ショップ店員に見繕ってもらった品しかない。
カルロスの好みのジャンルはJRPGとオープンワールドとのことなので、その二つから評判が良いもの、賞をとったもの、店員のオススメを適当に買っただけ。
ネット環境もないし、ゲーム機は村に1つしかないから、一人用で長時間プレイ出来るゲームに落ち着くのは必然と言えよう。
「おお! このシリーズ、新作出たんだぁ」
カルロスはゲームのパッケージを手に取っては、純真な子供のように目をキラキラ輝かせて歓喜の声をあげた。
あんなに喜んでくれると持ってきた甲斐があるってものだな。
ふと、ゲームについて一つ気になったことがある。
それは先ほどサミィが取り上げた携帯ゲーム機の行方。
サミィに目を向ける。
どうやらサミィがゲームをプレイしてるようだ。
表情は、やや退屈そうだが両の親指と人差し指がキビキビと動いてる。
ただゲームの音は聞こえない。
イヤホンの無線接続が切れてないからだろう。
「おっと……パッケージを眺めるだけではゲームはできない。実際にプレイしないとな」
「待て。先に買い付けを済ませたいんだが」
俺の言葉が聞こえてないのか、カルロスはサミィに声をかけた。
「サミィ。本体を返してくれ」
「いいよ」
サミィはあっさりと携帯ゲーム機をカルロスに手渡した。
その瞬間、カルロスの顔色が瞳と同じ色に染まった。
「カルロス、ボス倒しておいたよ」
「何で勝手に進めちゃうの!?」
「いやあ、あれだけレベル上がってるなら、ボタン押してるだけで倒せちゃうから……つい」
「うう、ボス戦前のイベントが……」
「ほらほら、泣いてると涙でイベントムービーが見れないよ」
「君のせいだろうが!?」
「もしよかったら、その後何が起こるか教えてあげようか。私、クリアしてるし」
「お断りするよ。ボクはネタバレが嫌いなの」
「それなら、さっさと先に進めればいいのに。大体、あんな所、普通にプレイしたら10時間で行けるのに、何で40時間もかかってるのよ」
「ボクから言わせてもらえば、君達、短命種族が生き急ぎすぎなんだよ。ゲームくらい自分のペースでやらせてほしいなぁ」
そう言いながらカルロスは、ゲーム機の何かのボタンを長押しした。
程なくして「ふぅ……これでネタバレは防げる」と安堵の溜め息をついた。
「あ~あ、勿体ない。私、セーブしてないよ」
「ひいいいいいい、ボクの5時間の苦労があああああああああああ」
サミィの一言がショックだったのか、カルロスは悲痛な叫び声をあげた。
せっかくの端正な顔が痩せこけた亡者みたいな変貌をとげている。
さっき生き急ぎがどうこうとか言ってたくせに。
でも、気持ちはわからんでもない。
俺も楽しみにしてる物語は、完結するまでネタバレと考察には一切触れないようにしてるからな。
「うう……ユウサク。貯蔵庫に行こうか」とカルロスは暗く沈んだ声で言った。
経緯はどうであれ、これで買い付けができるな。
俺は心の中でサミィにグッドサインを送った。
サミィは俺の心中を察したのか、俺にドヤ顔を向けた。
カルロスには申し訳ないと思いつつ、あいつの記憶力なら、ちょっとしたネタバレ程度なら、すぐに忘れるだろうと楽観した。




