異世界で買い付け その1
俺は今、とある集落の入口にいる。
柵と門は全て木製。
地面は均された土と所々に生えた草。
集落の少し先には、樹木が密生してる。
清らかで美味い空気。
初夏のように暖かい気候。
心地より鳥のさえずり。
集落の人々は男女共に、抜けるような白い肌、神秘的で美しいブロンド、長く尖った耳の特徴をもつ。
つまり、ここはエルフの集落だ。
補足すると、ここは俺の住む世界じゃない。
れっきとした異世界である。
今日は年に数回ある、お茶の買い付けにやってきた。
「店長、早く村に入りましょうよ~」
「お前なあ。旅行じゃないんだから、もうちょっと静かにしてくれ」
隣にはこのように、サミィもいるわけだが別に他意はない。
「ええ~、どうせ一泊するんだし、こんなところでコソコソしないで堂々と中に入ればいいじゃん」
「お前がいるからコソコソしてるんだよ。だから顔馴染みを見つけて、ちゃっちゃと買い付けだけして、この村から立ち去りたいんだよ」
「店長、悪い事でもしたんですか?」
「俺じゃねえよ。というか何でお前は、俺の行動を把握してるんだよ」
「一週間、お店を閉める時は、異世界に仕入れにくる時って、わかりますよ」
「何で日時まで把握してるのか? って聞いてんだよ」
「魔王からタレコミがあったから」
あのババァ、そこまでして金が欲しいのかよ!?
「店長、ずるいですよ~。私だって魔力回復したいのに~」
「お前の事情なんて知った事じゃない」
「魔力がないと魔法が使えない。こんなの常識じゃないですか」
「そうだな」
「私に魔力がないと、どうなるかわかってますか?」
「嫌と言うほど理解してるから、観念して連れて来たんだろ」
「まあ私は別にいいんですよ? 力こそパワー! 暴力こそ正義! 強者こそ絶対!」
サミィは両腕にぐっと力を込めた。
魔力が枯渇したサミィに残るのは、幾多もの修羅場を潜り抜けた肉体。
もっと分かりやすく言うと、力加減ができない体術。
そこにサミィの倫理観が合わさると有事の際、無駄に事が大きくなる。
だから大人しく魔力を回復させた方がよいと判断した。
実は買い付けだけなら日帰りで十分だったりする。
もし朝一で家を出たら、エルフの村に買い付けに来て、昼前には帰宅できる。
では何故、異世界で一泊するのか?
その理由はサミィの言葉通り、魔力の回復である。
魔法そのものは俺の世界でも使えるが、魔力を回復するためには大気にマナが漂う異世界に長時間滞在しなければならない。
それならサミィが一人で異世界に帰ればいいだろうと誰もが思うだろう。
しかし、厄介な事にそうは問屋が卸さない。
俺の世界から異世界に移動するためには、要件に関わらず面倒な手続きを要する。
短期ならパスポートでいいが、長期滞在ならビザの申請が必須。
俺はパスポートで行き来できるが、問題はサミィ。
サミィは魔王直々に俺の世界に強制送還されたため、特例で一人では如何なる理由があっても異世界に帰ることが出来ないのだ。
ちなみにサミィが異世界に帰るための条件は一つだけ。
それは、魔王が許可を出した保護者が同伴であること。
つまりサミィが魔力を回復するためには、保護者である俺がいないと異世界に帰れないのだ。
だが俺は訳あってサミィに黙って買い付けにいこうと画策してた。
しかし、魔力をどうしても回復したいサミィは、次元の裂け目で異世界に買い付けに行く俺を待ち構えて……今に至る、という感じだ。
余談だが時間停止物が未だに半分が偽物なのも、魔力の回復が原因である。
使い手も希少な上に燃費の悪い時魔法は、長時間の撮影に向かない上に、魔力の回復に要する時間は撮影期間よりも長い。
そのため時間停止の魔法を利用した撮影は、容易にできない手法なのだ。
例えるなら偽物が工場で作られた量産品で、本物は職人が手間ひま惜しまず作った一品と言ってもいいだろう。
「店長~、何時までこんなところにいるんですか?」
「俺の気がすむまでだ。顔馴染みが出てこないかな~とわずかな希望を抱いてるんだよ」
「うわぁ、いい年した大人が自分から声を掛けられない陰キャみたいなこと言わないでくださいよ~」
「その元凶のお前には言われたくねえよ」
すると、サミィはずかずかと踏み出した。
そして「我々は天城モンスターショップの者である! 買い付けに来たので農場まで案内お願いします!」と声高々に言った。
「お前は黙ってろ!」
「だって~、こんなところでじっとしててもつまんないですよ~。私は人間ですよ? カカシと違って、日がな道端でぼーっと突っ立ってられないですよ」
サミィと問答してると村の入口にエルフ達が集まってきた。
その直後「ぎゃあああああああああああああああああ、勇者だああああああああああ」と叫び声がした。
続いてエルフ達は、蜘蛛の子を散らすように入口からいなくなった。
「ほら店長! 歓迎してるみたいですよ」
「ほんとお前は記憶だけでなく、聴覚もめでたいんだな。どう聞いても、あの叫び声は歓迎というより排斥って感じなんだが」
「もう観念してください。そして、さっさと用事を済ませて、都市部に行きましょうよ」
「嫌だ! もう少しだけ、ここにいる」
駄々っ子のようにごねる俺の前に、一人のエルフの女性が現れた。
「天城さん、オーナーの元にご案内致します。当然、そちらの勇者様もご一緒に」
エルフの女性は満面の笑みを浮かべてる。
まあ、エルフ達からしてみれば、ある意味で歓迎はしてるだろうな。
これ以上の抵抗は無意味だな。
自分でも実感するくらい全身から力が抜けた。
「わかりました。案内をお願いします」と渋々、答えた。
「承りました。どうぞ、こちらに」
俺とサミィは、エルフの女性に案内されるがまま、村の入口についた。
そして、村の門をくぐろうとした瞬間、エルフの女性はくるりと身を翻してから口を開いた。
「天城さん」
「はい」
「勇者通行税をお支払いください」
エルフの女性の手には、いつの間にかカードリーダーが握られてる。
これである。
これがあるから俺は異世界で、サミィと行動を共にするのが嫌なのだ。




