不良品のスライム その3
イサミが喚きだした。
こういうのは無視するのが一番。
構うとつけあがるだけだ。
「そろそろ、ええか? 雄作」
茶番を見せられてうんざりしてるのか、アスラが気だるげに言った。
「悪い悪い、それじゃいつもの一式とファンタジーナイト向けのスライムを追加でな」
「うむ」
魔王は返事をすると真顔になり、カウンターに散らばった無数の五百円硬貨の上に両手をかざした。
先ほどまで立ち込めていた和やかな空気が一変する。
冷房を付けてるかのように肌寒くなる。
「雄作、中身はいつも通りでええか?」
「ああ。生存可能領域は河原町内のみ、力は最小でな……つうか、そこにある小銭だとそれしか出来ないだろ」
「まあな。ちなみに全て日本円で間違いないな?」
「それはこっちのセリフだ。服を溶かさない個体を掴まされたんだぞ? お前の方こそドルやユーロを混ぜて造ったんじゃないのか?」
「んなわけあるか。服だけを溶かす個体は、日本円でないと造れない。貴様も知っておろう。日本円から造るモンスターは軒並みエロい、と」
「わかってるよ。――でも今回は、全体の1割の個体が不具合があったんだぜ」
「ふむ、その言葉が真なら解せんな」
「こっちは金と信頼がかかってんだ。嘘を吐く意味が無いだろ? 貴志さんだって同じだ。嘘を吐く理由もないし、それによって生み出す利益もない。むしろ機会損失でマイナスだ」
「因縁を吹っ掛けて、安く買い叩こうと考えてるのでは?」
「あの人に、そんな根性があったら、とっくの昔にこの町から居なくなってるよ」
「それもそうじゃな」
魔王はモンスターを造ることに注力しつつも、腑に落ちないと言った感じの表情をしている。
よくよく考えれば数が足りないならともかく『日本円から造った個体なのに服を溶かさない』というは初めての事態だ。
そもそもモンスター製造の手順だって、俺はざっくりとした概要しか知らない。
通貨の種別によって固有の能力を備え、量に応じてアスラが自由にパラメータの割り振りとスキルを付与できる有機生物。
それが俺の知るモンスターだ。
魔王がモンスター製造に心血を注いでると、退屈なのかサミィがアスラに声をかけた。
「へえ~、モンスターって本当にお金から造ってるのね」
「勇者は、わしがモンスターを造るところを見るのは初めてだったか」
「うん。私にとってモンスターは、レベルアップとお金稼ぎのために散々狩りまくる獲物でしかないもの」
「モンスターは今も昔も魔王がお金に魔力を注いで造る僕。ついでに言うとモンスターの死は、わしが金に込めた魔力が尽きること。魔力がなくなれば残るのは、お金のみじゃ」
「ふーん、ところで思ってたんだけどさ。こうやってお金で自由にモンスターが造れるなら、どうして辺境の地にザコモンスターばっか配置するの? 世界征服したいなら、世界全土に凶悪なモンスターを配置すればいいじゃん」
「そうじゃな。それができるなら、そうしておったわ」
「え? できない? 私てっきり、人間相手に舐めプしてるのかと思ってた」
「んなわけあるか。いいか? モンスターは見ての通り、お金に魔力を込めて作り出す生物。ロボットみたいなものじゃな。そしてモンスターの強さは、お金の量に比例する。しかし、強さとスキルの他にも割り振るパラメータがある。それが生息可能領域じゃ」
「生息可能領域? それってモンスターが生きていける場所ってこと?」
「うむ。これがちと厄介でな。生息可能領域は、強さの量に応じた金額が必要になる。1万ゴールド分のパラメータとスキルを割り振った超強いモンスターを造った場合、わしの近くに配置するなら少額で済むが、勇者の故郷のような辺鄙な場所に配置するには、沢山のお金が必要になるのじゃ」
「それじゃ生息可能領域に追加で1万ゴールド使ったモンスターなら、辺境の地でも生きていけるの?」
「実際はもっとかかるが、まあそんなところじゃ。だから、わしの支配領域から遠く離れた場所にいるモンスターは、強さよりも生息可能領域を優先しておる。弱ければ弱いほど、お金も安くすむのでな。そんなわけで辺境のモンスターはみんな雑魚ばかりじゃ」
「だから、この世界でも五百円ぽっちでスライムが造れるのね」
「いや、普通は無理じゃ。しかし、この町は特別でのう。わしらの世界と雄作の世界を繋ぐ次元の門が近くにあるゆえ、わしの影響力がギリギリ届いておる。反面、この町から1メートルでも離れた場所で生息可能なモンスターは、億を積んでもスライム1匹造ることすらままならん」
こちらのお客様は、河原町にお住まいの方に限定してるから問題ない。
ちゃんと店内に『河原町から一歩でも外に出ると死にます』と張り紙してあるし、お会計の時に口頭で伝えてる。
承知の上で買う奇特なお客様もたまにいるけどな。
「ええ!? それじゃ極悪なモンスターを造って、売りさばくことはできないの?」
「理論上は可能じゃが、割に合わん。最初は生物兵器として考えたのだが、強さと原価が釣り合わん。そこそこ強いモンスター1匹造るのに最低でもミサイル一発分の金がかかる。それでは買い手がつかん。押し売りしても良いが労力とリスクの割に実入りが少ない。それに今は真っ当な本業があるから、モンスター造りなんてバカバカしくてやってられん」
「お金あるの!?」
「無論じゃ。ちなみ少し前に、世界の大部分を支配下に置いておる。そのため今のわしの影響力は、勇者の故郷どころか雲の上から海の底まであるわ」
「それじゃ、さっさと世界の半分ちょうだい!」
「おい、待て! 世界を支配しただの、世界の半分をくれだの、一体何の話をしてるんだ?」
モンスター製造工程から大きくそれた話題に、俺は思わず口を挟んだ。
だって魔王が世界を支配しただの、勇者が魔王にむかって世界の半分を要求なんて傍からみたらイタい会話だが、こいつらの存在はイタいだけですまないからな。
「安心しろ雄作。世界の支配下に置いたというのは、あくまでわしの世界のこと。お主からみたら異世界の話じゃ」
「そういうことか。まあ、そうだよな。たしかに外国為替市場でゴールドの取引はされてるが、世界各国の首脳陣とか要人の顔ぶれは至って普通だしな」
「今は……な」
今、アスラが何かを呟いてたような気がしたけど、気にしないでおこう。
うん。
勇者が魔王に斬りかかるように、魔王も他人の世界を見たら、つい欲しがっちゃうんだろう。
そうに違いない。




