夢見るサキュバス その10
俺はバックヤードに行くと、すぐさまメッセンジャーアプリを起動した。
そしてアスラに向けてメッセージを撃ち込んだ。
「異世界にいるサキュバス、全部倒していい?」
「万を超えるサキュバスの労働力の代わりを用意するか、それに見合う賠償金を支払うなら許可を出してやろう」
「俺にそんな事ができるわけないだろ」
「雄作の懐事情は承知しておる。だが、わしとて鬼ではない」
「魔王だけどな」
「ここは譲歩して、貴様がわしの片腕になるというのなら、今すぐにでもわしの手でサキュバスを滅ぼしてやろう」
「わかった。ありがとう。今の話は忘れてくれ」
冗談じゃない。
あいつに付き合ってたら、俺の時間がいくらあっても足りないっての。
俺は渋々、モンスターショップの方に戻った。
「サキュバス絶滅の件、アスラに話したけどダメだった」
「ですよね。でもホッとしました。冷静に考えたら、私利私欲のために同族を売り渡すなんて――」
「お客様にはこう言う事を言いたくはありませんが、資本主義の『安い』には裏があるってことです。サービス業の原則は値段相応。安い仕事は、働き手だけでなくお客様にも皺寄せがいくもの。満足のいく結果を求めるなら、それに見合う対価が双方に必要なんです」
「そうですよね。さすがに一万円で私の悩みを解決できないかなーって、虫のいい話とは思ってたんですが」
「それに先ほど、借金がどうのこうのって言ってましたよね? 今日はお客様に誤解を招く宣伝をしたお詫びとして、スタブ一万円のプリペイドカードを同額の現金で買い取りますので、それでお引き取りを――」
「お金の件は心配に及びません。この前、バイトで臨時収入が入って借金は全額返済しましたので」
アムさんは突然、スマホを取り出すと慣れた手つきで操作をした。
顔は相変わらず明後日の方に向いてるが、スマホの画面だけを俺に向けた。
画面には、預金残高が映し出されてる。
どうやら銀行アプリをいじくってたみたいだ。
預金残高はアムさんの言う通り億はないが、ベッドタウンの新築戸建てを一括で購入できるくらいはある。
というかどんなバイトをしたら、こんな預金残高になるんだ?
俺にも出来るなら紹介してもらいたいところだ。
「随分と景気の数字ですね。俺もあやかりたいものです」
「少し前にEDでお悩みのオークの夢にダイブしましたので……うう、今思い返しても悍ましい……」
ああミカヅキの件か。
うちの店に来る前に頼んだんだろうな。
雇い主があの人なら納得の金額だし、綺麗なのも保障されてるな。
ただ、症状を治した俺より一桁多くもらってる点だけが解せない。
こういう所に俺の商才の無さが出てるんだろうな。
今度、何か相談事を持ち掛けてきた時は、吹っ掛けてやる。
対価にしろ税金にしろ、金持ちから取るのは基本だからな。
「それだけお金があるならレンタル彼氏とかどうです? 他にもママ活、姉活もありますが――」
「私、デートには興味ありません。それに現実世界で美少年とお話したり、手を繋いだり、一緒にお食事をしたり、ホ……ホテルで休憩をするなんて、はしたない真似、私には出来ません!」
「配信者の家凸した方が今更何を言ってるんですか!」
「私は、ただ素敵な美少年の夢に入って、青臭くて初々しい精気を頂戴したいだけなの」
「夢に入ることにこだわるんですね」
「サキュバスを何だと思ってるんですか?」
「借金してまで、アバターに投げ銭する方に言われたくありませんよ」
「まあまあ店長。サキュバスなんて所詮、現実世界では異性の前では、ハワワってキョドる、非モテの根暗コミュ障。夢の中でしかイキれない可愛そうな魔族なんです。そう! 現実世界ではうだつが上がらないけど、ネットの世界だと正義マンになる現代人と同じなんです!」
「でも、俺の前では普通に話してるぜ。顔は明後日の方に向いてるけど――」
「そんなの決まってるじゃないですか。同族だからですよ」
「……」
「失礼よ! 勇者!」
おお、サキュバスに助け船を出してもらえるとは思わなかった。
「私はイキれないんじゃなくて、イケないのよ! イケてない男じゃダメなだけなのよ! イケメンじゃなきゃイキたくないの!」
やっぱり魔族だった。
不幸中の幸いというか何と言うか、色んな意味でこっちに連れてきて正解のようだ。
話の中身もそうだが、預金残高を公衆の面前に晒さずにすんでよかった。
善良な一般人ならいいけど歓楽街には金の匂いに釣られる、あくどい輩が多い。
厄介なのは、こっちの世界で悪堕ちした異世界人が夢見る異世界人を狙うケースが存在すること。
アムさんがそいつらに目を付けられたら、借金生活に逆戻りするのは想像に難くない。
自警団に組織される異世界人もいれば、半グレに染まる異世界人もいるのだ。
「天城さん、何か妙案はあるのかしら?」
邪道がダメなら正道。
真っ向勝負でライバルを出し抜くしかないよな。
俺はアムさんに、実現可能な正攻法を提案することにした。




