夢見るサキュバス その8
女性からの相談において、相槌以外はNGワード。
例え話が終わった後でも解答を伝えるのは間違い。
でも、これは商売の一環として聞かされてるのだ。
仕事に私情や感情を持ち込むのは自由だが、最終的な判断は論理的であることが鉄則。
だからこそ、言わずにはいられなかった。
そんな俺の気持ちを察したかのように、サミィが俺の左肩をポンと叩いた。
「店長……それが出来るなら苦労しないですよ」
遠い目をしたサミィが穏やかな口調で言った。
……こいつが俺の感情の機微を察するわけないよな。
「アムちゃん。その配信者って、モロライブに所属してた曲舞ポロンよね?」
「そうそう。あなた詳しいのね」
ちなみにモロライブとは、あまりにリスキーな活動方針のため各方面から色々な意味で注目を浴びてる大手バーチャルライバー事務所である。
その特徴とは、配信者の体調とアバターの衣装が連動しており、配信者の血圧、体温、声量等の変動によって、衣装が透過または損傷する特別なアバターの使用を義務付けられており、配信中は常に垢BANと隣り合わせの攻めた事務所、とサミィから聞かされたことがある。
「当然よ。私だって彼に貢いでたもの。初めは、余ったお金から少しだけ渡してたわ。でも、気が付いたら食費を節約、しまいにはスタブ代まで削ったわ」
そういやサミィの奴、一時期やつれてたな。
今は贅肉が目につくようになったけど。
「甘いわね。私なんて給料だけじゃ足りなかったから、サラ金から借りたわよ」
「でしょうね。あなたの名前、どこかで聞いた覚えがあると思ったら、毎日毎日赤スパを連投してたアムちゃんだったのね」
「フッ……今となっては、いい思い出よ」
全然ダメじゃねえか!
借金まみれなら報酬は期待できないだろ!
そんな事を考えてると、サミィが突然立ち上がり剣を出した。
「あんただったのかああああああ! 彼を引退に追い込んだのはあああああああああ! サキュバスのくせに人の夢を壊しやがってええええええええ!」
「待て、サミィ! ここで刃傷沙汰を起こすな!」
俺はサミィから無理やり剣を奪った。
「うう……彼は、私の支えだったのに」
「はぁ。いい加減、あなたも現実逃避を止めたら」
夢を見せる奴が何言ってんだか……。
「彼の存在は、日々の過酷な労働で傷付いた心と体を癒してくれたのよ……」
「毎日サボることばかり考えてるくせに」
「薄給、長時間、重労働……働けど働けどなお、わがくらし楽にならざり」
「そりゃあよかったな。稼いだ金を配信者に献金するゆとりがあって」
「しまいには、公衆の面前であられもない姿を晒す始末……私の将来は一体、どうなってしまうのよ~」
「それだけ都合のいい記憶力なら、一人でも楽しく生きられるだろ」
サミィは勝手に落ち込んでしまった。
数分後には復活するから放置しよう。
今はアムさんの応対が優先。
バーチャル配信者について全てを吐き出したためか、はたまた幻覚作用が切れたのか、冷静さを取り戻したようだ。
さっきまでキノコガンギマリで放心してたのが嘘みたいに、真面目な表情を俺達に向けてる。
しかし、それも束の間。
見目麗しいアムさんの顔色が一瞬で真っ青になった。
「嫌あああああああああああああああああああああ! 勇者が目の前に! 何で!? どうして!? この店に入った時に感じた嫌な気配は、勇者のせいだったのね!?」
「アムさん、落ち着いてください。確かにこいつは勇者ですけど、決してあなたには手出しさせませんから安心してください」
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ! 何か天城さんも怖いいいいいいいいい!」
「何で、俺まで!?」
「店長のなめるような視線が怖いんでしょ」
「アムさんが一番恐れてるのは、お前だよ。勇者」
「勇者怖いよぅ。キノコ……キノコはどこ!? あれがないと恐怖で耐えられないわ」
商談の成否はともかく、話を進めるためにも彼女には幻覚作用が必要みたいだ。
俺は売り場に展示してたマイコニドをアムさんに渡した。
アムさんは恍惚の表情を浮かべると「ああん! この黒光りした大きいキノコが私を慰めてくれるのよ」となまめかしい声を上げつつ、スンスンとキノコの胞子を鼻からキメた。
せっかくの美人がキノコの幻覚作用によって再び、ガンギマリ顔となり俺達から目を背けた。
「アムさん、俺が誰だかわかりますか?」
「天城さん」
話は通じるみたいだ。
少々不安だが商談を進めよう。




