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現代社会のモンスターショップ奮闘記 ~そちらのお店から仕入れたスライム、服を溶かしてくれないんだけど、どういうこと!?~  作者: 田島ユタカ
第三章 夢見るサキュバス

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夢見るサキュバス その8

 女性からの相談において、相槌以外はNGワード。


 例え話が終わった後でも解答を伝えるのは間違い。


 でも、これは商売の一環として聞かされてるのだ。


 仕事に私情や感情を持ち込むのは自由だが、最終的な判断は論理的であることが鉄則。


 だからこそ、言わずにはいられなかった。

 そんな俺の気持ちを察したかのように、サミィが俺の左肩をポンと叩いた。


「店長……それが出来るなら苦労しないですよ」


 遠い目をしたサミィが穏やかな口調で言った。


 ……こいつが俺の感情の機微を察するわけないよな。


「アムちゃん。その配信者って、モロライブに所属してた曲舞(きょくぶ)ポロンよね?」


「そうそう。あなた詳しいのね」


 ちなみにモロライブとは、あまりにリスキーな活動方針のため各方面から色々な意味で注目を浴びてる大手バーチャルライバー事務所である。


 その特徴とは、配信者の体調とアバターの衣装が連動しており、配信者の血圧、体温、声量等の変動によって、衣装が透過または損傷する特別なアバターの使用を義務付けられており、配信中は常に垢BANと隣り合わせの攻めた事務所、とサミィから聞かされたことがある。


「当然よ。私だって彼に貢いでたもの。初めは、余ったお金から少しだけ渡してたわ。でも、気が付いたら食費を節約、しまいにはスタブ代まで削ったわ」


 そういやサミィの奴、一時期やつれてたな。


 今は贅肉が目につくようになったけど。


「甘いわね。私なんて給料だけじゃ足りなかったから、サラ金から借りたわよ」


「でしょうね。あなたの名前、どこかで聞いた覚えがあると思ったら、毎日毎日赤スパを連投してたアムちゃんだったのね」


「フッ……今となっては、いい思い出よ」


 全然ダメじゃねえか!

 借金まみれなら報酬は期待できないだろ!

 そんな事を考えてると、サミィが突然立ち上がり剣を出した。


「あんただったのかああああああ! 彼を引退に追い込んだのはあああああああああ! サキュバスのくせに人の夢を壊しやがってええええええええ!」


「待て、サミィ! ここで刃傷沙汰を起こすな!」


 俺はサミィから無理やり剣を奪った。


「うう……彼は、私の支えだったのに」


「はぁ。いい加減、あなたも現実逃避を止めたら」


 夢を見せる奴が何言ってんだか……。


「彼の存在は、日々の過酷な労働で傷付いた心と体を癒してくれたのよ……」


「毎日サボることばかり考えてるくせに」


「薄給、長時間、重労働……働けど働けどなお、わがくらし楽にならざり」


「そりゃあよかったな。稼いだ金を配信者に献金するゆとりがあって」


「しまいには、公衆の面前であられもない姿を晒す始末……私の将来は一体、どうなってしまうのよ~」


「それだけ都合のいい記憶力なら、一人でも楽しく生きられるだろ」


 サミィは勝手に落ち込んでしまった。

 数分後には復活するから放置しよう。


 今はアムさんの応対が優先。

 バーチャル配信者について全てを吐き出したためか、はたまた幻覚作用が切れたのか、冷静さを取り戻したようだ。


 さっきまでキノコガンギマリで放心してたのが嘘みたいに、真面目な表情を俺達に向けてる。


 しかし、それも束の間。

 見目麗しいアムさんの顔色が一瞬で真っ青になった。


「嫌あああああああああああああああああああああ! 勇者が目の前に! 何で!? どうして!? この店に入った時に感じた嫌な気配は、勇者のせいだったのね!?」


「アムさん、落ち着いてください。確かにこいつは勇者ですけど、決してあなたには手出しさせませんから安心してください」


「ぎゃああああああああああああああああああああああああああ! 何か天城さんも怖いいいいいいいいい!」


「何で、俺まで!?」


「店長のなめるような視線が怖いんでしょ」


「アムさんが一番恐れてるのは、お前だよ。勇者」


「勇者怖いよぅ。キノコ……キノコはどこ!? あれがないと恐怖で耐えられないわ」


 商談の成否はともかく、話を進めるためにも彼女には幻覚作用が必要みたいだ。


 俺は売り場に展示してたマイコニドをアムさんに渡した。


 アムさんは恍惚の表情を浮かべると「ああん! この黒光りした大きいキノコが私を慰めてくれるのよ」となまめかしい声を上げつつ、スンスンとキノコの胞子を鼻からキメた。


 せっかくの美人がキノコの幻覚作用によって再び、ガンギマリ顔となり俺達から目を背けた。


「アムさん、俺が誰だかわかりますか?」


「天城さん」


 話は通じるみたいだ。

 少々不安だが商談を進めよう。

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