夢見るサキュバス その7
そういうことか。
同族不在と思っていた矢先、こっちの世界にも強力な敵がいたわけか。
「この世界の非モテ陰キャの魔法使い予備軍は、あろうことかバーチャル配信者に貢いでるのよ! 飽きもせずに毎日毎日せっせと投げ銭して欲望を発散してたのよ! うう、私が求めてた精気溢れる男がいないのよ!」
「それで俺達にバーチャル配信者をどうにかしてほしいと――」
「それだけじゃないわ! こう見えても私は魔族の端くれ。人間達にやられっぱなしでは居られないの。だから、どうやってバーチャル配信者共を出し抜けるのか独自に研究を始めたわ」
「随分と前向きですね」
「しかし! それが間違いでした……女性のバーチャル配信者が存在するという事はその逆も然り。気が付いたら私は、男性バーチャル配信者にどっぷりハマってました」
ミイラ取りがミイラになったとは、こういう事を言うんだな。
「それはもう、彼にメッセージを読んでもらうためだけに、たくさんのお金を貢ぎました。配信の終わり際に、投げ銭のお礼として自分の名前が呼ばれる度に優越感と多幸感に包まれました」
所謂、ガチ恋勢という奴か。
恋愛において、追われる側が追う側にまわるのは、よくある話だけど、それが配信者なんてアムさんは夢にも思わなかっただろうな。
「ですが、メッセージと名前を読んでもらうだけでは飽き足らず……とうとう中の人に直接お会いしたいと考えるようになりました。そして私は直接、彼に会うため事務所の関係者の夢に片っ端から入り込み、彼の住所を特定しました」
種族の固有スキルをストーカーに活用したのか……ある意味、感心するな。
「心に染み入るような美声とユーモア溢れる話術……そんな方なら中身も美形のアバターに相応しい男性に違いない! 当時の私は思いを巡らせてました。しかし、夢はあっけなく散りました。現実は過酷でした。右も左もわからない私は、こちらの世界の洗礼を受けたのです」
「サキュバスが洗礼って言うとシャレにならないな」
「ううっ……彼の中身はなんと、朝と夜に街中をうろついてそうな、くたびれたオッサンだったの。お腹はぽっこり、髪はうっすら、顔はてっかてか、おまけに体臭もきつい、それはそれは見るに堪えない醜悪な姿でした。彼は、もはや魔族と比べても遜色ないと言ってもいいでしょう」
「魔族のくせに、人間を魔族呼ばわりとは図々しいにも程があるだろ!?」
「しかも恐ろしい事に、声だけは美しいの。一体どうなってるの!? この世界の神様の造形センスは!」
「あんたの恨みは人間だけでなく、神にも及ぶのか!?」
「アバターに騙された私は、傷心のまま家路についたわ」
「家凸したストーカーのくせに被害者面すんなよ!」
「そしてバーチャル配信者に受けた恨みを晴らすため、私は片っ端から配信者共のチャット欄を荒らしまわったわ」
「荒らすのは、夢の中だけにしろよ!」
「数日後、荒んでた私の心が落ち着きを取り戻した時、運命の出会いがあったの……今度こそ間違いないって確信したわ」
「フラグだな……」
「そして私は、躊躇なく衝動の赴くまま家凸したわ。そしたら……今度は女だったのよ。くうぅ私好みの、か弱い男の子ボイスなのにいいいいいいいいいいい!」
「それは何と言うか、お気の毒ですね……」
「私は再び、傷心のまま家路についたわ」
「うっ、既に嫌な予感が……」
「性懲りもなく片っ端から配信者共のチャット欄を荒らしまわってストレスと解消してた時……私の心を昂ぶらせる、素敵な方と巡り会ったの」
「そのパターン、絶対ダメな奴だよね!? こっちの世界だと、二度あることは三度あるってことわざもあるよ!?」
「例の如く、私は本能の従って家凸したわ。そしたら……そしたら、ううぅ……」
「ご愁傷様」
「まだ何も言ってないでしょ!?」
「聞かなくても、オチは想像つく。どうせ中身は理想とかけ離れてたんだろ?」
「いいえ。中身はアバターとはまた属性の違うイケメンだったわ」
「へえ、よかったじゃないですか」
「……女がいたけどね。私が家凸した時、二人は燃え盛ってたわよ。私というものがありながら、別の女とイチャコラしててムカついたから、腹いせに現場写真撮って女がいることを暴露してやったわ!」
「それは、災難でしたね」
「それで、あの男。ネット上で袋叩きになった上に事務所もクビになって、バーチャルの世界から追放されたわ。当然、私も複垢を作りまくって、これでもかってくらいぶっ叩きまくったわ」
「魔族のくせに随分と陰湿だな」
「いいじゃない。私、魔族なんだから人間の一人や二人、叩きのめしても」
「なに正論を振りかざせば許される感を出してるんですか」
「ちなみにネット民の調査によって、別の女は未成年であることが発覚。逮捕されて、シャバからも追放されたわ。いい気味ね、私を弄んだ罪を塀の中で償うといいわ」
「その人が償うのは、強制わいせつ罪だろうけどな」
「そんな経緯があって、性別問わずバーチャル配信者を駆逐してほしいのよ」
「最初にこれだけは言わせてくれ……バーチャルの中身に触れるな!」




