夢見るサキュバス その4
この人、キノコの幻覚作用が残ってるのか?
そういや、さっきコーヒーをサーブした時も視線が明後日の方向に向いてたしな。
「いいえ。店長は、こっちの冴えないオッサンですよ」
「その言い草は止めてくれ。確かに若者と呼べる歳じゃないかもしれないけど、直接言われると刺さる、お年頃なんだから」
キノコが抜けるまでは関わりたくなかったけど、サミィがこっちにパスを回したので渋々、応対することにした。
「改めまして、店長の天城と申します」
俺はゴスロリ女性に名乗った。
しかし、ゴスロリ女性の反応はどうもよろしくない。
何と言うか、顔中に?マークが書き込まれてる感じがする。
一体、どういうことだ?
俺の素性を知らないのは理解できる。
しかし、従業員の案内を聞き入れないのは理解に苦しむ。
いや、まあ……サミィを信頼してないならわかるが、そもそもゴスロリ女性はサミィと俺を思い違いをしてる節がある。
キノコ、ガンギマリしてるだけかもしれないけどさ。
「大変申し訳ございません。お客様にお尋ねしたいのですが、天城店長の事をどうやってお調べになられましたか?」
いくら思い違いを是正するためとはいえ、我ながらゲシュタルト崩壊しそうな質問だ。
俺の言葉が理解できたのか、ゴスロリ女性はスマホを取り出す。
キノコガンギマリでも聴覚は正常らしい。
「これを見ました」
そう言いながらゴスロリ女性は、スマホの画面を誰もいない方に向けた。
どうやら視覚は異常のようだ。
俺の位置からだと画面は見えない。
俺が画面側にまわり込もうとした瞬間、タイミングよく画面側に宮田さんが通りかかった。
傍らに殺人兎の姿はない。
滞在時間が終了して、店を出る道すがらのようだ。
しかし、宮田さんは退店することなく足を止めた。
強面の双眸がゴスロリ女性のスマホに向く。
宮田さんの顔つきが一瞬だけ険しくなると、何故か宮田さんの顔が綻び、慈愛に満ちた目が俺に向けられた。
何だ何だ!?
宮田さんは一体、何を見たんだ!?
俺の頭の中から礼節が消えた。
ゴスロリ女性のスマホを見たい一心で画面を覗き込む。
スマホに映る画像を目にした瞬間、俺の頭の中が真っ白になった。
状況は把握したものの思考が追いつかない。
宮田さんがあんな顔になるのも、彼女がサミィを俺だと勘違いした理由も納得させるほどの画像が映し出されてた。
俺は懸命に思考を働かせて、声を絞り出した。
「お客様……そちらの画像はどこで手に入れましたか?」
「変なことを聞くのね。お店の公式アカウントにアップされてますよ」
彼女は俺の方を見ないで、そう答えた。
「うう……若。何時までも子供ではないと思ってましたが、気が付いたら大人の階段を駆け上がって新世界の扉を開いてたんですね」
「待ってくれ宮田さん! これは俺の趣味じゃない!」
「若は常々、奉仕される側でしたからね。それで大人になって、奉仕する側に回りたい、という気持ちが溢れちゃったんでしょう」
「仮に俺が奉公人にジョブチェンジするとしても、メイド服を着用することはない」
「新しい事に挑戦する時は、まずは形から、といいますからねー」
「少なくとも俺は、奉公人に女装を望む奴に仕えるつもりはねえよ」
「ちなみにあっしは、女装する若に仕えるのも一興かと思っておりやす」
「黙れ! お前の趣味は聞いてない!」
そう……彼女のスマホには以前、とある問題を解決するためだけに、俺がメイド服を着た時の写真が映し出されてたのだ。
その画像と幻覚作用が相まって、彼女はメイド服を着用したサミィを店長と勘違いしたのだろう。
というか、そもそもお店のアカウントって何だ?
俺は、お店の宣伝にSNSを活用した覚えはないぞ。
……この画像の流出元であり、お店の関係者を語れる人物はと言えば……。
俺はギロリとサミィを睨みつけた。
サミィは臆することなく口を開いた。
「はい! この前、SNSにお店のアカウントを開設しました!」とサミィは臆面もなく答えた。
「俺はそんな話、聞いてないぞ!」
「当然ですよ。店長に黙って作りましたから」
「だろうな……こんな画像をアップするなら全力で止めてたからな」
「でしょ? さすが私」
サミィは堂々と胸を張って答えた。
俺は自分のスマホを使って、俺非公認のお店のアカウントを探した。
そのアカウントは、店名で検索したらトップに出てきた。
ヘッダーには忌わしき俺の黒歴史がでかでかと張り付けてある。
ここ数日、お客様から奇異な目で見られてるとは思ってたけど、このアカウントのせいだったのか。
続けてプロフィールに目を向ける。
そこには、ごく普通にお店のことと俺の名前が書いてある……そう思ってたら最後の一文には、このような事が書かれてた。
異世界人絡みでお困りの方は、天城店長がビシッと解決します(有償)、と。




