不良品のスライム その2
「ったく、毎度のことながら派手にやってくれたな、お前ら」
「どうせ、こっちには客なんて来ないんじゃから、ええじゃろ」
勇者と魔王の激突。
当然ながら、無事で済むはずがない。
周りが見えなくなった勇美とそれに応対するアスラ。
売り物のことなんて、お構いなしに暴れたのだ。
俺は店内の無残な姿に成り果てたモンスターを眺めながら、ただ溜め息を吐くばかり。
ちなみにモンスターには一片の情もない。
冷たいと思うか?
でもな、生みの親であるアスラですら、モンスターに情を抱かないのだ。
その証拠に、一仕事終えたかのように晴れやかな表情を浮かべてやがる。
ちなみにイサミは、アスラの攻撃を食らって、アホ面を浮かべて気絶してる。
頭の上に星がまわってるに違いない。
「在庫の補充は、お前もちな」
「ダメじゃ。こいつらの補充は別料金。ビタ一文まけるつもりはない。タダ働きは願い下げじゃ」
「元はと言えば、お前らが店内で暴れるからだろう」
「なら、とっとと店じまいせよ。そんで一秒でも早く、わしの片腕になれ」
「ヘッドハントは光栄だが、俺は労働があまり好きじゃない。こうやって適度に緩く働くのが好きなんだよ」
「むーっ!」
アスラは子供のように頬を膨らませてる。
普通の女性であれば体温が上がるかもしれないが、相手は勇者様を軽くあしらう魔王様。
まともに相手をしてたら命と時間がいくつあっても足りない。
「全く、雄作なら同じ河原町でも、もっと良い場所に店を構えることができるだろうに」
「俺みたいなのは、ゴミ溜めの入口でロクデナシを相手に商売して、飢えを凌ぐのがお似合いなんだよ」
「ただのコミュ障のくせに」
痛いところを突いてきやがる。
その通りなので何も言い返せないけど。
実際、俺は河原町の外でいくつか職に就いてみたが全て長く続かなかった。
今は稼いでるとは正直言い辛いが、何とか食っていけるだけの利益を得てるため、サラリーマン時代の黒歴史化には成功したといえよう。
「高天原とまでは言わんが、もちっと治安の良い場所に移転すればよかろうに。費用ならわしが工面してやってもよいぞ」
「結構だ。アスラに借りを作ったら、後で何を要求されるのかわかったものじゃない。タダより高いものは無いんだよ」
「可愛くないのう」
ちなみに高天原とは、河原町にある富裕層が住む超一等地の事を指す。
そういう客層を狙い撃ちしてるためか、銀座よりも高い。
言わずもがな、並大抵の金持ちでは平屋を立てることすらできないし、そもそも真っ当な金持ちはこんな町に住まない。
真っ当じゃない金持ち向けの居住区なので足元をちゃんと見るのだ。
後は、平均年収くらいで住める一般居住区。
インフラも一通り揃ってるので、ベッドタウンには最適だ。
買い物に出向くと、住人達がやたらと輝いて見える。
そして俺が店を構えてるところは、常人が寄り付かない場所。
出稼ぎの異世界人や河原町の外で居場所を失くした者達が集う貧民区。
現代社会と異世界の文化を悪魔合体させた店が軒を連ねてる。
日常では味わえない刺激を求めて、訪れる旅行客は年々右肩上がり。
では肝心の『河原町』とは何なのか?
一言で言えば、異世界と繋がった日本国内にある町だ。
ちなみに京都ではない。
成り立ちは、異世界で繰り広げられた勇者と魔法の激しい戦いによって次元が裂け、現実世界と繋がった。
その異世界の出入り口が河原町ってわけだ。
そんな特殊な場所ゆえに経済特区でもあり、今では日本で有数の観光地。
異世界との貿易、交流その他もろもろのためにな。
「うーん……」
気絶してたサミィがむくりと起き上がった。
「一応、無駄かもしれないが口頭で注意しておく。お前の魔王を見たら斬りかかる癖は何とかならのか?」
「だって私、勇者ですよ? 勇者と言ったら魔王ガチアンチじゃないですかー。だから、これはもう職業病なんですよ」
「病なら治せよ。知り合いに優秀な頭のお医者さんいるから」
「有給くれたら治るかもしれませんよ」
「売り場が元に戻らない事には、給料払えねえよ」
「けちー」
そうそう、何故、神崎勇美のことを別の名前――いや本名で呼ぶのか。
それは本人たっての希望だから。
勇美の本当の名前はサミィ。
神崎勇美というのは、日本で働くために、俺が名付けた。
神のしもべである勇者サミィという名乗りから、俺が適当にワードをチョイスした。
アスラも似たようなものだ。
違う点は、名付け親が俺じゃないこと。
戸籍には、井門 明日羅という名前で登録されてる。
下の名前が漢字で明日羅、だからアスラと呼んでる。
それだけだ。
「雄作よ、この惨状……どうするつもりじゃ?」
アスラは魔王らしい邪悪な笑みを浮かべてる。
――ったく、こんなしょぼい店から小銭を巻き上げるのがそんなに楽しいのか?
「背に腹は代えられない。俺にはモンスターは造れないしな」
「毎度あり」
俺はしぶしぶバックヤードから五百円硬貨の棒金を持ってきた。
「雄作の懐具合は想像がつく。後払いでええぞ。ほら――わしとお主の仲、という奴じゃ」
「仲というなら、この惨状の片棒を担いだ責任を取ってくれ」
「悪いのは、先に剣を抜いた勇者。わしではない。むしろ正当防衛じゃ」
「でも、サミィをうちに寄越したのは、他でもないお前だろ。研修生という名目で――」
「なら、とっとと店を潰せばええじゃろ」
「それはお断りだ――って、サミィ! カウンターの小銭をくすねるんじゃない。今すぐ返せ」
俺にバレたのが不服なのか、サミィは不満そうな顔でカウンターの上に小銭を戻した。
「だってだって仕方ないじゃないですか。私、勇者なんだもん。立派なお城から薄汚い民家の薄汚れた壺の中身まで、冒険の役に立ちそうなアイテムを探しては懐に仕舞うのは、たしなみなんですよ」
「つくづく勇者ってのは面倒だな」
「そうなんです。だから私は常々、こう思ってるんです……自分で自分の事が怖い、と」
「一応、自覚はしてたんだな」
珍しいな、こんな思いつめたような顔をするのは。
どんな悪事を働いても反省の色を見せなかったサミィがこんな真面目な空気を出すなんて。
「だって私って若いし、美人だし、おまけに勇者じゃないですかー。美しさと可愛さと強さを兼ね備えた完ぺきな女性ですよ」
「知性は1ミリも無いけどな」
「力があれば要りませんよ、そんなの……」
「毎回、真っ向から立ち向かって返り討ちにあってるんだから、たまには搦め手を使えよ。そんなんだからアスラに勝てないんだぞ」
「え? 大抵のことは暴力で解決できるんですよ? 知らないんですか?」
「勇者らしからぬ発言だな。お前を勇者に指名した奴に同情したくなるよ」
「でも、生きとし生けるもの全ての想いを受け止めるのも勇者の宿命。例え、それが嫉妬だとしても。ああ……何て罪作りなのかしら、私」
「少なくとも器物破損罪はあるわな」
「まあまあ、これくらい良いじゃないですか? 魔王と戦って、この程度の犠牲ですんでると思えば」
「お前が剣を抜かなければ、丸く収まるんだよ。ということで、お前が斬った店内のモンスターの代金、来月の給料から天引きするからな」
「ええ!? そんなぁ……来月はスタブコーヒーの新作ドリンクとフードが盛りだくさんなんですよ!? 私、何を楽しみに生きていけばいいんですか!?」
「労働」
「鬼! 悪魔! おっさん! パワハラ! ブラック店長!」




