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現代社会のモンスターショップ奮闘記 ~そちらのお店から仕入れたスライム、服を溶かしてくれないんだけど、どういうこと!?~  作者: 田島ユタカ
第三章 夢見るサキュバス

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夢見るサキュバス その1

「コーヒーをお持ちしました」


 俺はホットコーヒーをお客様にお出しした。


 お客様はと言うと、何故か顔が明後日の方向に向いてる。


 目が虚ろで恍惚の表情を浮かべており、ちょっと近づきたくない怪しい雰囲気を放ってる。


 口に出すと大炎上確定なのだがお客様――彼女の容姿も相まって、この区画だけはカフェではなく心霊スポットのように陰気のだ。


 腰まで伸びた長い黒髪に暗い顔。

 さらに黒いゴスロリファッションが、より陰鬱さに拍車をかけてる。


 趣味の欄に黒魔術と書き込んでそうだ。


 一見、魔王(アスラ)と似た身形だが、あいつは見た目とは裏腹にポジティブオーラを出してる。


 反面、彼女は見た目通り、ネガティブなオーラを放ってる。


 井戸から、ぬうっと現れてはお皿を数える、皿屋敷に出てきそうな幽霊みたいだ。


 テーブルのコーヒーに気づいたのか「ありがとうございますぅ」と幽霊役を想起させる、負の感情が込められた細い声色で答えてくれた。


 顔は明後日の方向に向いたままだけど。

 事情を知らない人間が見たら即通報ものだが、ここでは違う。


 彼女の前には、キノコ型の魔物(マイコニド)がいる。

 彼女はキノコの傘に顔を近づけると一心不乱にスンスンと鼻を鳴らした。


 胞子をたっぷり吸い込んで、都合のいい幻覚(ゆめ)を見てるに違いない。


 それで喜んでくれるならモンスターカフェ冥利に尽きる。


 ちなみにマイコニドの胞子は、麻薬のように脳みそに強く作用するものではないため、安心安全に幻覚を見る事が出来る。


 ドーパミンの分泌量だって、アルコール依存症やギャンブル依存症と比べたら少ない。


 河原町は歓楽街の一面を持つが銃火器、麻薬、殺人等、所謂アンダーグラウンドの代名詞は厳しく取り締まってる。


 特に麻薬は商売敵だ。

 麻薬の恐ろしいところは麻薬で得た多幸感の代替えが麻薬以外に存在しないことに尽きる。


 麻薬の幸せを知った人間は、麻薬以外では幸福を得ることが出来なくなり、再び多幸感を得るために次の麻薬に手を出すようになる。


 そして麻薬を得るために、殺人をも厭わない廃人の出来上がりというわけだ。


 河原町のお客様は、廃人よりも常人が望ましい。


 その理由は冷たい言い方になるが、こちらがリスクを負わずに長期に渡ってお金を落としてくれるからだ。


 だから犯罪につながる物は例外なく、河原町から排除することになってる。


 お客様あっての歓楽街だからな。

 俺はテーブルから離れ、店内の様子を伺ってると「あちらのお客様、店長が淹れたコーヒーに口つけてないですね」と、イサミが小声で話しかけてきた。


「別にいいんじゃないのか? 幸せそうだし」


「前々から思ってたんですけど、やっぱりうちの店もスタブみたいに生クリームとかチョコレートとか色々とトッピングできるようにしましょうよ」


「砂糖とミルクで十分だ。譲歩しても練乳までな」


「ええー、この多様性の時代において、様々なお客様のニーズに応えられないと取り残されちゃいますよ。ひいては、私の給料に影響が出ちゃいますよ~」


「そんなトッピングを用意したところで、お前がガブガブ飲むだけだろ」


「ちっ」


「お客様の前でマジの舌打ちは止めろ」


「は~い」


 まったく、こいつの頭はスタブ以外ないのか。


 確かに俺も甘い物のは好きだから、時々スタブのスムージーを購入することはあるけど、ああいうのをうちで提供したいとは思わない。


 というより、うちのニーズはモンスターなんだからドリンクメニューの優先順位は低いのだ。


 俺がイサミに作業に戻るよう注意しようとした時、入店のチャイムが鳴り響いた。


「ほらイサミ、お客様がご来店だ」


「はいはい、いってきま――」


 イサミが入口の方に顔を向けた。

 その瞬間、イサミの目つきが鋭くなる。

 その様子が気になり、俺も来店したお客様の方に目を向けた。


 あー、なるほど。

 そういうことか。

 どうやら入店した人は、お客様ではないようだ。


 二人組の若い男性。

 片方は中背中肉、もう片方は腹が多少出てるが腕と脚が常人よりもかなり太い。


 二人とも風貌こそ常人を装ってるものの殺気がダダ洩れ。


 大方、売り上げ目的の強盗だろう。

 実は、この手の輩は月一くらいのペースでやってくる。


「イサミはお客様に気を配ってくれ。あいつらは俺が応対する」


「言われるまでもないですよ」


「営業スマイルを忘れずにな」


 微かに空気が張り詰める。

 イサミは笑顔を浮かべたまま、何時でもお客様を守れるように備えてるようだ。


 さすが勇者様。

 こういう時は頼りになるな。

 俺は別の従業員が彼らに近づく前に、急いで彼らの元に向かった。


「お客様は、二名様でよろしいですか?」


 すると、中背中肉の男性が懐からナイフを取り出した。


「おい! 兄ちゃん! 金、寄越せや!」


 開店以来、何度か耳にした強盗構文。

 初めて聞いた時は、本当にそんなセリフを口にするのか? と感心したが何度も聞く内に辟易するようになった。


 続けて、メタボ気味の男性が「この近くには、サツがいないんだろ? ほら! 痛い目にあう前にさっさと金を出した方が身のためだぜ!」と息巻く。

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