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現代社会のモンスターショップ奮闘記 ~そちらのお店から仕入れたスライム、服を溶かしてくれないんだけど、どういうこと!?~  作者: 田島ユタカ
第二章 オークED

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オークED 最終話

 ぎこちない笑顔と生気のない瞳。

 額には大量の脂汗が浮いてる。

 禁忌を犯したことによるストレスの影響だろう。


 それと下半身がスーツにピッタリ張り付いてるため、足のラインがくっきりと浮かび上がってる。


 食べすぎの影響だろう。

 俺としては生活習慣病さえに気を付けてくれれば、どんなスタイルでも構わないが……。


「ど、どどど……どうよ! わ、私の……異性装は!」


 震えるサミィの声を合図に、奥井さんがテーブルの下に潜り込む。


 ミカヅキの顔は依然、険しい。

 だが鬼を想起させる力強い双眸は、サミィに向いてる。


 奥井さんの腕がテーブルの下からにゅっと出てくる。


 その親指は……見事なグッドの形だった。

 下を向く様子はない。

 どうやらミカヅキの息子さんは元気になったようだ。


「おい! やったぞ! サミィ!」


「ほほほほ、本当ですか!? 店長! これで十日分のスタブ代は私の物ですか!? あと着替えてきていいですか? ついでに休憩もしていいですか?」


「ああ! 落ち着くまで休んでてくれ。今日は特別に、休憩時間中も金は出す」


 するとサミィは脱兎のごとく更衣室に向かった。


 ミカヅキのためとはいえ、無理やりタブーを破らせたんだ。


 このまま早上がりでもいいくらいだ。


「さすがは天城家のご子息……というところかしら」


 いつの間にかテーブル下から席に戻っていた奥井さんが口を開いた。


「やめてください。俺は相談を受けただけ……強いて言えば、運が良かっただけです」


「十分じゃない。運が良かった……成功者の常套句よ」


「そういうものですかね」


「ええ。ミカヅキの不調は、弟さんに相談を持ちかけたから治った。これは事実よ」


 終わっちまえば悪くないな……こういうのも。


 奥井さんは言うまでもなく、厳つい顔つきのミカヅキも憑き物がとれたように晴れやかな雰囲気を醸し出してる。


「ミカヅキ! 今夜は寝かさないわよ」


「望むところです」


 一応、ここは喫茶店だから、そういう会話は慎んでくれるとありがたいんだが、いいか。


 周りのお客さんも自分の世界に入ってるし。


 まあ何はともあれ、これにて一件落着。

 クソ姉貴にどやされることも頭を下げることもないから万々歳。


 めでたしめでたしって奴だ。


「店長! ただいま戻りました!」


 気を緩めてるとメイド服に着替えたサミィが戻ってきた。


 先ほどの恐怖で震えてたのが嘘のように明るい。


「もう休憩は終わりか?」


「そんなことよりも何で、問題は全て解決した! みたいな空気を出してるんですか」


「お前が体を張ったおかげでミカヅキが元気になったじゃん」


「チッチッチ! まだまだ甘いですね、店長。スタブのバニラクリームキャラメルフラペチーノより甘いですよ」


「これ以上、何があるんだよ」


「あのオークは、男性も接客するんですよ!」


 サミィのその一言が自分達の世界に入り込んでた奥井さんとミカヅキを現実に引き戻した。


「言われてみれば、そうね……」と奥井さん。


「そこで! 私から提案があります!」


 サミィは胸を張って、得意げに言い切った。


 その様子に圧倒されたのか、奥井さんとミカヅキはサミィに目を向ける。


 その直後、サミィは邪悪な笑みを浮かべると同時に、俺の方に顔を向けた。


「異性装で元気になるなら、試しに店長にメイド服を着てもらいましょう!」


 サミィの提案に、凍えるような悪寒が全身を駆け巡る。


「あなたにしては冴えてるわね」と関心する奥井さん。


「試してみる価値はありそうです。天城さん、お願いできますか?」


「嫌だ! 何が悲しくて俺が女装しなきゃいけないんだ!」


「当然オークのためですよ――拘束(バインド)!」


 ぐっ!

 あいつ……まだマナが枯渇してなかったのか。


 俺はサミィにかけられた魔法の解除を試みた。


 冗談じゃない!

 学園祭じゃあるまいし、いい年した大人のなんちゃって女装とか痛いにも程がある。


 しかも、その終着点は成否に関わらず、俺の人生の汚点になることは明白。


 身内に知られたら、一生ものの恥である。

 俺は足掻いた。

 メイド服の着用を避けるために。


 俺は懸命に藻掻いた。

 醜態を晒すのを避けるために。

 しかし、俺の体を拘束する魔法は、俺を手放してくれなかった。


「さあ店長……観念してください。ここはお二人のために、今すぐ女性従業員用の制服を着用してください」


「頼む、サミィ! 俺はノーマルなんだ! そういう趣味はないんだ!」


「店長、諦めが肝心ですよ」


「止めろ! そんな目で俺を見るな!」


「ほら、男らしく、ちゃっちゃと更衣室に行く」


「お前のせいで身動きとれねえんだよ」


「大丈夫ですよ、私が運んであげますから」


 さすがは勇者。

 細い腕なのに、男の俺を軽々と担ぎあげた……って感心してる場合じゃない!


「サミィ! 俺の記憶が確かなら、女性用の制服は全部クリーニングに出して予備がないはず。だから、さっさと下ろしてくれ」


「大丈夫ですよ店長。私、さっき予備があること確認しましたから」


「くそう! こういう時だけ記憶力いいな、お前は! ええい、こうなったらスタブ代、一週間追加でどうだ!?」


 サミィの足がピタッと止まる。

 欲望に従順な奴には、餌を与えるに限る。

 ククク、もう一押しすれば――。


「勇者さん。弟さんを女装させたら、成功報酬として向こう一か月分のスタブコーヒー代をお渡しします」


「わかりました! 任せてください!」


 無情にもサミィの足は、更衣室に向けて動き出した。


「奥井さん! あんたまで何言ってんだ! 男なら別に俺じゃなくてもいいだろ!?」


「せっかくだし、天城家の醜態をこの目に焼きつけるのも一興かな、と」


「あんた、うちの家に恨みでもあるのか?」


「安心なさい。せいぜい写真を取って、お姉さんにお見せするだけよ。――弟さんの活躍を」


「嫌だあああああああ! 止まれ、サミィ! 今すぐ引き返せ!」


「男なら覚悟を決めなさい!」


 恥も外聞も捨てた、俺の心からの叫びが店内に響き渡る。


 しかし、サミィの足が止まる事は無かった。


 どうやら俺の運もここまでのようだ……。

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