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現代社会のモンスターショップ奮闘記 ~そちらのお店から仕入れたスライム、服を溶かしてくれないんだけど、どういうこと!?~  作者: 田島ユタカ
第二章 オークED

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オークED その11

 それは初めて聞く、サミィからの悲痛な懇願だった。


 声と体が震えてる。

 顔色は青いし、唇は紫色。

 冗談を言ってる様子には見えない。

 その証拠に、周りからの視線が痛い。


 それにしても異性装……というかズボンが何で、鋼メンタルのサミィからごっそり気力を削ぎ落とすのか。


 俺は同郷のミカヅキに助けを求める事にした。


「なあミカヅキ。ズボン一つでサミィの様子が激変した理由に心当たりはあるか?」


「ええ。オレの世界で人間達が信仰してる、とある宗教が原因です」


「宗教ねえ……何か嫌な予感がするな」


「お察しの通り、宗教には戒律がつきもの。いくつかある戒律の一つにこのような文言があります。女性は男性の装いを、男性は女性の装いを身に着けてはならない。もし異性の装いを身に着けることは、主の意思に背く行為である、と。つまり女性が男性の装いであるズボンを履くことがタブーなんです」


「念のため聞いておきたいが、タブーを破ったらどうなる?」


「処刑です。どんなに徳を積んだ人間でも無慈悲に処されます」


 処刑、か……サミィがああなるのも当然だな。


 誰だって死ぬのは怖い。

 でも、ここは無宗教の割合が多い日本。

 信仰心の強い海外の方でも来日したら、神の目は日本まで届かないから、と言ってタブーとされる食材を口にすることもある。


 そう……海を隔てた先にいる、同じ世界の神様ですら見落とすんだ。


 次元を隔てた先にいる別世界の神様なら尚の事だろう。


「サミィ、ここはお前からしたら別世界だ。何の宗教だか知らないけど、そいつを信仰する信徒も神様もいないから大丈夫だって――」


「お待ちください」


 俺の言葉に割って入ったのはミカヅキだった。


 左手には、タブレットが握られてる。


「確かに、天城さんのおっしゃる通り、ここには彼女を咎める者はおりません。しかし、こちらを見てください」


 そう言いながらミカヅキはタブレットの画面を俺に向けた。


 画面上部には、旧約聖書と書いてある。

 その下には、日本語がずらずらと並んでる。


「おい、ミカヅキ。あいにくと俺は宗教に縁がないんだ。聖書にも世界の生誕にも興味はない」


「落ち着いてください。こちらの文言だけでも読んでください」


 ミカヅキが指したのは、申命記22章5節、という箇所だった。


 俺はざっくりと目を通す。

 そしてミカヅキが何を言いたいのかが理解できた。


「異性装がタブー、というのは、こちらの世界にもございます。ジャンヌダルクが火刑に処されたのは、ズボンを履いてたから、というのは有名な話です」


「博識だな」


「当然よ。うちの店の客層は、世界中のセレブ。お客様に失礼がないよう、お客様の生い立ちや背景、世界の最新情報は当然として、全世界の文化、歴史、言語、社会通念を徹底的に叩き込んでますの」と奥井さんが補足する。


「ですので、彼女がズボンを着用することに恐怖を抱くのは、むしろ当然なんです。だから、オレの世界の女性はみな、戦場に赴くときは鎧の下にスカートを履きます。ビキニアーマーに至っては、資源が乏しい国では立派な女性用の防具なんです」


「ご高説は大変ありがたいけど、お前さんは患者だ。サミィの気力を削ぐ後押しをしてどうする」


「ですが! オレのせいで彼女が苦しむ姿は見てられません」


 ミカヅキはセリフもイケメンだな。

 それにしても女性がズボンを履くことがタブー視されてるとは思わなかった。


 しかし、そのおかげでミカヅキがパンツスーツの女性に目を奪われた理由が何となく見えてきた。


 あいつにとって、ズボンを履いた女性、というのは色々な意味で特別なんだ。


 趣味趣向もあるかもしれないが、普段お目にかかれない女性の出で立ちに魅了されるのは、よくある話。


 一昔前の漫画によくある、見飽きた普段着から見慣れない水着姿に切り替わることで心奪われるシーン。


 ミカヅキにとって見飽きたスカート姿、見慣れないズボン姿なんだ。


 何分、ミカヅキが普段接客してる相手はセレブ。


 セレブなら余所行きの服装がスカートなのは必然だろう。


 これは答え合わせのために、サミィにスラックスを履かせる価値がありそうだ。


 あとは、どうやってサミィをその気にさせるか……。


 アレしかないよな。


「サミィ……もしお前んところの神様がこの世界にやってきたら、アスラと一緒に追い返してやるからさ。どうかスラックスを履いてくれないか?」


「……」


 予想はしてたが、これで動くわけがない。

 つうか、実体のない神様の応対なんて出来るわけないしな。


「スタブ代、一週間分追加するからさ……この通り!」


 俺の言葉に、恐怖でぶるぶる震えてたサミィの体がゲームのバグのようにピタッと止まる。


 こいつには、これが一番だよな。


「店長……成功報酬とは別?」


「ああ、スラックスを履いてくれれば出してやる」


「わかりました! ちょっと着替えてきます」


 サミィはパーカーをミカヅキに返すと、軽い足取りで更衣室に向かった。


「現金な子ね……」と奥井さんがポツリと呟いた。


「その分、話を通しやすいですよ。それで奥井さん、折り入って相談が――」


「わかってるわよ。大衆店の飲食費用なんてタダみたいなものだし……但し、ミカヅキが完治したら、ね」


「ありがとうございます」


 程なくして、男性従業員向けの制服……黒いタキシードを着用したサミィが戻ってきた。

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