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現代社会のモンスターショップ奮闘記 ~そちらのお店から仕入れたスライム、服を溶かしてくれないんだけど、どういうこと!?~  作者: 田島ユタカ
第二章 オークED

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オークED その9

 首から上は変わらないが、その下は完全にマントで覆われている。


 シルエットだけならテルテル坊主である。

 もうちょっとマシな言い方をすると、玉座にふんぞり返る悪の親玉。


 お世辞にも官能的とは、程遠い存在である。


「マジックショーでも始まるのかしら?」と奥井さんは目を見開いてる。


 ミカヅキは険しい顔つきでサミィの方に目を向けている。


 きっと不安でたまらないのだろう。

 拍手が止む。


 今、店中の視線はサミィに集まっている。

 期待と不安……その両方が入り混じった、胃に悪い観客の目。


「とくとご覧あれ!」と静寂を切り裂く、威勢の良いサミィの声。


 そしてヒーロー登場と言わんばかりに、マントを脱ぎ捨てた。


 眼前に現れたのは……ビキニアーマーを装備したサミィだった。


 肌色は増量してるものの、不敵な笑みと細身のスタイルで台無しである。


 その上、周囲から注ぐ情け容赦ない冷ややかな目。


 そもそも、最初のムード作りからして終わってる。


 こんなノリで迫られたら、どんなに理解のある彼くんでもキャパオーバーだ。


 空気が読めないのか、神経が通ってないのか、サミィは堂々としてる。


 これが難敵と相対してるシチュエーションなら頼もしいのだが、今欲しいのはオークをその気にさせる卑猥さ。


 ヒーローはお呼びではない。

 奥井さんは「はぁ……」と深い深い溜め息を吐くと、渋々といった動作でテーブルの下に潜り込んだ。


 案の定、奥井さんの合図は『地獄に落ちろ』だった。


 テーブルの下から出てきた奥井さんが自分の席に座る。


 すると、ミカヅキが席を立った。

 周囲のお客様が一斉に一歩後ずさる。

 無理もない。

 ゴリラよりも一回り大きくて厳ついオークが突然、立ち上がったのだ。


 内情を知らない人からしたら、その存在感と威圧感で尻込みするだろう。


 席から立ったミカヅキは、ゆっくりとサミィに近づく。


 サミィとミカヅキが並ぶ。


 まるで大人と子供だ。

 実際、中身もそうなんだろうけど。

 サミィは臆する事なく胸を張った。


 それに対しミカヅキは、美しい所作でパーカーを脱ぐと、それを優しくサミィの体にかけた。


「オレが不甲斐ないばかりに、君のような若い娘に恥をかかせてしまい申し訳ない」


 それだけ言うとミカヅキは自分の席に戻った。


 呆気にとられたのか、サミィの目が大きく開いてる。


「やだ……イケメンですよ、あのオーク」


「その点については同意だ」


「店長と違って」


「一言、余計だなお前は!」


「しかも、このアウター。いい匂いがしますよ……店長と違って」


「え!? それって俺が臭いってことか!? 客商売だから、その辺は人一倍気を付けてるつもりなんだが――」


「それに、とても紳士的ですよ……店長と違って」


「それは、どういう意味だ?」


「私をこんな恥ずかしい思いをさせないところ」


「異議あり! 確かに、この一件はお前に預けた。しかし、色仕掛けを指示した覚えはない!」


「弟さん、それは聞き捨てならないわね」


 俺がサミィに異議を申し立ててると奥井さんが割って入ってきた。


「確かに、彼女の施策は褒められたものではありません。その点は同意しますし、同情もします……ですが、彼女は彼女なりにベストを尽くしたと言ってもよいでしょう。つまり、今回の件に関して言えば、結果が伴わなくとも彼女に一任した、あなたが責任を被るべきよ」


 奥井さんから火の球ストレートの正論が飛んできた。


 それに呼応するように周囲の視線がより一層、冷ややかなものとなる。


 あ……今、見逃さなかったぞ。

 サミィの口端が釣り上がってたのを。

 あいつ、俺を悪党に仕立て上げて楽しんでやがるな。


「オレも奥井様のおっしゃる通りだと思います。大億開店当時はオレも散々、奥井様にご迷惑をおかけしました。ですが奥井様は従業員を責めるような真似は一切致しませんでした。そんな奥井様だからこそ、オレを始めとする従業員一同、自分のためだけでなくお店のために尽くしたいと考えるようになったんです」


 ミカヅキからの強烈な追撃が痛い。

 奥井さんとミカヅキからの正論に周囲の冷ややか視線が、俺の心身を容赦なく刺し貫く。


 個人的な言い訳をすれば、これが普通の従業員なら無条件で俺が矢面に立つし、そもそもはしたない真似をしようものなら真っ先に止める。


 しかし、相手はサミィ。

 ちょっとやそっと雑に扱っても死なないし、したたかだし、何より図太い。


 それは、ここ一年ほど一緒に働いてきて痛いほど身に染みてる。


 最初はソシオパス疑惑を抱いたが、それは杞憂だった。


 確かにあいつは自分の事を優先するが、そのために他人を傷つけたり、蹴落としたりするような奴じゃない。


 ……世界の半分を差し出そうとしたことはあるけどさ。


 だから俺の中の評価ではギリソシオパスじゃない程度に落ち着いてる。


 現に今も俺の方をチラ見しては、ほくそ笑んでるからな!


 だがサミィ以外の人達は、俺に弁明の余地を与えないだろう。


 それは、この痛いほどの沈黙と空気が物語っている。


 なんか学校の教室でクラスのみんなの前で、自白を強要させられてる気分だ。


 この居た堪れない空気をどうやって浄化するべきか。


 俺を取り巻く空気のように、冷えた脳みそをフル稼働してると、入店のチャイムが鳴り響く。


 好機到来。

 俺は、すかさず店の入口に向かった。


「あ!? 店長、逃げた!」と後ろからサミィの声が聞こえたが無視した。

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