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現代社会のモンスターショップ奮闘記 ~そちらのお店から仕入れたスライム、服を溶かしてくれないんだけど、どういうこと!?~  作者: 田島ユタカ
第二章 オークED

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オークED その5

 改革と来たか。


 ステレオタイプの脳みそ海綿体オークが口にしたなら一笑に伏してるが、ミカヅキが言うと妙な説得力があるな。


「一つは教育。文字の読み書きからお金の流れに至る資本主義社会で生きるための最低限の知識を与える事です」


「へえ」


「疑念を抱くのも無理もありません」


「ああ、そういうつもりでは――」


「いえ、無理もありません。あなた方が想像する通り、我々オークの大半は、落ち着いて机に向かうことすらままなりません。教育方面は未だ道半ばです」


「でも、あんたは随分と理性的じゃないか」


「俺の場合は、ギフテッドと申せばよいでしょうか――」


「そういや稀に魔法を使いこなせる魔力と知性を持つ個体が生まれるケースもあったな」


「はい。だからと言って、他のオークに知性が無いとは限りません。その理由は脳みそは、運動することで成長するからです。すなわち生まれつき運動に適した我々オークにも、人間と同等の知性を有することが可能であることを示してるのです」


 そういえば最近の研究で脳みそは運動以外では鍛えられない、って話があったな


 知力は体力に伴うと聞いた事もある。

 昔は文武両道は神童の如く持て囃されてたが、近年は運動する体力イコール勉強する集中力が通説。


 つまり文武両道こそ秀才の近道なのだ。

 むしろ体力が無いのに頭が良い奴の方がレアケースなのだと。


 そう考えるとミカヅキのオーク改革は夢物語どころか、地に足の着いた現実的な手法だ。


「他ではない、あんたが言うなら大丈夫だろ」


「ありがとうございます。……あ、すみません自分の話ばかりして――」


「別にいいさ。うちは茶店の側面もある。お茶を飲みながら、歓談したり休憩してもいいんだ」


「お気遣い感謝します」


「何より身の上話に治療のヒントがあるかもしれない。だから、あんたが良ければ続きを聞かせてくれないか? 改革の一つ目が教育ってことは他にもあるんだろ?」


「わかりました」


 ミカヅキは仕切り直すように背筋を伸ばしてから口を開いた。


「二つ目は、教育を成果が出るまで間の収入を確保することです」


「衣食住は生活の基礎だからな」


「はい。とりわけ食べ物は数十年以上、賭博や狩りをしなくても十分な程の貯蓄を用意する必要があります。そのためオレが村を代表して、こちらの世界に出稼ぎに来た次第です」


 なるほど。

 ここで奥井さんと繋がるわけだ。


「ああ! ミカヅキとの出会いは今も鮮明に覚えてるわ!」


 まるで狙いすましたかのようなタイミングで奥井さんが割って入ってきた。


「あの時のミカヅキは着の身着のままで、河原町の貧民区にひとり寂しく突っ立っていてねぇ。目立つ体格でしょ? それはもう気になっちゃって、我慢できずにおもむろに腰蓑をペロンとめくったのよ。そしたら目の前には生涯で見た事もない、立派な大業物が目に飛び込んできたの。……それで気が付いたら、彼と寝ていたわ」


「奥井さん! 出会いがしらに何やってんだ!?」


「ははは……お恥ずかしい限りです」


「あんたもあんただ! 真っ当な知性があるなら、老若男女いきなり衣服に手をかけてくる変態を払いのけるのが常識だろ!?」


「女性に恥をかかせないよう務めるのは、男性の役目と存じます」


「さすがミカヅキ。どっかの弟さんと違って、女性の扱いを心得てますの」


 悪かったな。

 心得てなくて。


「そうして一晩過ごした後、私から彼にソープの件を持ち掛けたのよ。オークなら人間と違って、性欲と精力が無尽蔵だから商売として成り立つと考えたの」


「初めは事業内容に驚きました。何せ人間から忌み嫌われてる我々オークと、対価を支払ってまで一つになりたいと考える人間の存在するなんて信じられませんでしたから。しかし、奥井様の読みは当たりました。マンションの一角で日本の裕福層を接客するところから始まり、そこから評判が政財界に広がり、今では世界中のセレブ達から予約が殺到するほどの人気店に昇りつめました。おかげ様で村の財政も安泰。オークの未来に光が差したのです。右も左もわからないオレを奥井様が拾ってくれたからこそ、今のオレが、オーク達がいるんです」


「何、言ってんのよ。私一人では、どうにも出来なかったわ。私の方こそ、ミカヅキが居てくれたおかげよ」


「奥井様」


「弟さん。正直、私自身は売り上げなんてどうでもいいの。お店が大きくなった今、ミカヅキの他にも頼りになるオークが多数在籍してるわ」


「……」


「私には、ミカヅキに一生かかっても返しきれない恩があるの。だから、彼には彼自身の夢を叶えてほしいの」」


「は、はい……」


「いい? ミカヅキの双肩には、オークの未来がかかってるわ。でも、このままじゃミカヅキの優秀な遺伝子を未来に残す事ができないじゃない! こんなに良い人が幸せになれないなんて間違ってるわ!」


「身に余るお言葉です。奥井様」


 奥井さんとミカヅキは再び抱き合った。

 なんてこった。

 まさか超高級店どころか、オークの未来まで圧し掛かることになるとは。


 正直、歓楽街のことなら最終手段として、クソ姉貴に頭を下げることも視野に入れてたが、奥井さんがそこまで考えてたとはな。


 ああ! 自分という人間がいかに矮小かを痛いほど思い知らされたよ。


 これはもう、仕事とミカヅキのEDは無関係。


 素人目線だが、そう断言してもいいだろう。


 もし演技だったら大した役者だが、それはない。


 利益を得るために、彼がEDで一番困るのは奥井さんだ。


 だが仕事への不平不満じゃないし、オーナーとの関係は良好。


 では、一体何が原因なのだろうか。

 抱きしめ合う二人を横目に、俺は再び思案を巡らせた。


 が、先ほどから妙な気配を全身に感じる。

 言うなれば、針のむしろ。

 ざっと辺りを見回すと、複数のお客さんから奇異な目を向けられてることに気づいた。

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