05_テーゼバトルしようぜ!お前がアンチテーゼな
新年あけましておめでとうございます。
神原ハヤオです。今年もよろしくお願いします。
年末に『強いやつが勝つんじゃあない、説得力があるやつが勝つんだ!(連載第2回)』というエッセイを投稿しました。
さっそくですが、今回はその続きのお話です。
【前回のあらすじ】
簡単にまとめておきます。私の主張は
「戦闘シーンは、勝つことに説得力があるキャラクターが勝つ」
でした。
ここで言う『説得力』とは
「その作品内の強さのルール」にどこまで「勝者側になるキャラクター」が合致しているかを示すことで得ることができるもの
と定義させていただきました。
今回の話では、私個人による実際の運用について語りたいと思います。
私が私の作品内において「どのようなロジックで勝者と敗者を分けているか」についての話です。
【強さ=テーゼの強度】
私が書く作品においては、「戦闘における強さ」と「テーゼの強度」が比例するように書くようにしています。
テーゼというのはドイツ語で「主張」という意味の言葉ですが、私の作品における定義は
テーゼ=そのキャラクターが主張している、あるいは言外に体現している「価値観」
のことです。
わかりやすく「キャラの価値観」と言うべきでしょう。テーゼの方がかっこいいので、この文章中ではテーゼの方で統一します。
注意していただきたいのは、私はテーゼの「正当性」に強さの重きは置いていない、ということです。
そのキャラクターがどれだけの「切実さ」「実感」を持ってテーゼを主張できているか、という部分が「強さ」と比例するように書いています。
せっかくなので、一部実例を持ってきました。
拙作『幼女ワールド』34「世界の果てとロリコンワンダーランド」その11 から、この作品のボスキャラである「西の魔女」が能力を使って主人公たちを追い詰めているシーンです。
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西の魔女が手を鳴らすと、部屋にモンスター達が大量に入ってきました。
「私はあなたたちを守りたいの!! どうしてわかってくれないの?!」
「違う……!」
リュシンは強くかぶりを振りました。
「守るってのは、こういうことじゃない!」
リュシンが西の魔女に向かって駆け出しました。しかしその頭を、トロールが掴み上げてしまいました。
「痛い! 放して!! 放してよ!!」
「あなた達は弱いの! それに何もわかってない! だから私が守るの! あなた達から……たとえ自由を奪っても!!」
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過保護な親のもとで自由を奪われて育った「西の魔女」は、「ロリショタは根本的に無力な存在であり、大人である自分の庇護下で自由を剥奪されるべきだ」という歪んだテーゼを抱えています。
その主張に正当性がないのは言うまでもないことなのですが、それでも私の作品内において彼女が絶対的な能力を発揮できるのは、ひとえに彼女が心底自身のテーゼと一体化しているからです。
私の作品内においては、歪んでようが間違ってようが、力強くテーゼを唱えるものはその分強く表現されるのです。
それに対して、主人公サイドの少年が逆転の口火を切るシーンも引用しましょう。同様に『幼女ワールド』34話から。
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「違う……違う違う違う!! マオ(ヒロインの名前)はあなたに守られるほど弱くない!! マオは誰かを、守れる人なんだ!!」
(中略)
「もも姉(西の魔女の名前)は、もうそのお母さんに負けるほど、弱くなんてないよ!」
(中略)
トロールに持ち上げられた体勢のまま、リュシンは杖を西の魔女に向けました。リュシンの瞳と杖の宝石が、赤い輝きを放ちます。
「召喚呪文?! 魔法陣なしで?!」
「来れ、黄金の獣よ! 異形転送!!」
ゴールデン・レトリーバー(イギリス原産の大型犬)が、リュシンの目の前に召喚されました。西の魔女が目を丸くしました。
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この後、この主人公らは「西の魔女」の強大な能力を打ち破ります。
もちろん、ご都合展開ではなく逆転のための伏線も張っておいたわけですが──
本質はそこではないのです。
主人公らがボスキャラに勝てたのは
「ロリショタは根本的に無力な存在であり、大人である自分の庇護下で自由を剥奪されるべきだ」というボスキャラのテーゼを
「わたしたちは、あなたに一方的に守られる存在ではない!(昔のあなただって、本当はそうだったでしょ!?)」というテーゼで乗り越えたからに他なりません。
【テーゼバトル!】
私が書くバトルものは、究極的には「テーゼバトル」がやりたいのです。
主人公が最初に主張しているテーゼがあり
それに対して敵が、主人公のテーゼを否定する「アンチテーゼ」をかかげて立ち塞がる。
敵はその人生をかけて、主人公のテーゼが「本当は成立しないのでは?」と揺るがす。
このアンチテーゼが主人公に響けば響くほど、敵が強くなっていく仕組みです。
主人公が「そんなもの」と蹴飛ばすような「弱いアンチテーゼ」はいわゆる三下キャラが主張します。反対にボス格、それもラスボスともなれば、主人公ですら自身のテーゼを諦めかけるほどの「強大な説得力を持つアンチテーゼ」を掲げて現れます。そして主人公を精神的に打ちのめすのです。
戦闘描写で敗北するのは、精神的に打ちのめされたことのメタファーだということ!
であれば、ラスボスに主人公が勝つ、とはどう実現するのでしょうか。
主人公がラスボスに勝つとき
それは、主人公がラスボスの「アンチテーゼ」を真に乗り越えることによって、やっと勝つことができるのです。
主人公はラスボスによって、自身が掲げていたテーゼの不完全さを思い知ります。
それでも主人公が進むためには、アンチテーゼすら飲み込むほどの、より高次元に生まれ変わった新たなテーゼを獲得する必要があるのです。
ヘーゲルの弁証法になぞらえるなら、テーゼとアンチテーゼが統合された「ジンテーゼ」へ主人公は最終的に到達することになります。
その瞬間に間髪入れずパワーアップイベントを挟むことにより、物語内での物質的強さを主人公に与えるわけです。
そう、主人公がパワーアップするのは、精神的により高い次元に達したことのメタファーなのです!
(ちなみに私のこのテーゼバトル理論についてですが、長年のプリキュア鑑賞で得た肌感覚をヘーゲルの弁証法を元に考察したことで得たものです。プリキュアは進歩史観的作品であるのだと言えます……この話すると長くなっちゃうから、また今度)




