料理研究家 異世界でバズる
1. 召喚された「シェフ・テンマ」
真っ白な光と、焦げ付いた肉の匂い。
天満陽介は、目を見開いた。いつも撮影に使っている自宅のキッチンではない。石造りの天井は高く、周囲にはローブ姿の男女が立っている。その中心で、陽介の目の前に供えられていたのは、カビたパンと、焦げて炭のようになった肉塊だった。
「…えーと、ドッキリですか?今回、何のコラボっすか?」
陽介はいつもの調子で、右手を頭に当てて首を傾げた。WaoTubeチャンネル登録者数1000万人の料理研究家、シェフ・テンマこと天満陽介は、今しがた「至高のペペロンチーノ」の撮影を終えたばかりだったはずだ。
ローブ姿のリーダー格の男が厳かに口を開く。
「我らは、古き盟約に基づき、勇者たる貴殿を召喚した。貴殿の力で、この飢餓と疫病に苦しむアークライド領を救ってほしい!」
「勇者…?僕、料理研究家っすけど。あ、もしかして、食材の仕入れも命がけ、的な?」
陽介は周囲を見渡す。人々の顔色は悪く、領主らしき男の娘、フィーナの目には、疲れと絶望の色が滲んでいた。
「勇者よ、まずはこの国の現状を知ってほしい。凶作続きで食糧は底を尽き、唯一の蛋白源である魔獣の肉も、不味くて誰も口にできないのだ」
フィーナは、供えられていた黒い肉塊を指差した。陽介はそれを手に取り、匂いを嗅ぐ。
「ん〜、これは…肉の臭みが尋常じゃないっすね。血抜きも下処理もしてない上に、この焦げは火力が安定してない証拠。しかも、何の肉だろ?あ、これ、ちょっと待ってください」
陽介は、脳内に突然現れた半透明の画面にタッチした。
<調理空間起動!>
取り出したのは、銀色の多機能スライサーと、高性能なガスバーナー、そして大容量のマヨネーズボトルだ。
「え、なに?今の?」フィーナが目を丸くする。
「あ、これは召喚特典的なやつですかね?便利〜!さ、料理は理屈じゃないっす!まずは、これ!**『とりあえずバズり肉!』**作りましょう!」
2. 初めての「バズり飯」
陽介は、焦げた魔獣の肉をスライサーにかけ、細かく刻んだ。
「この肉の臭みは、普通の香草じゃ無理っすね。フィーナさん、この辺で一番臭い薬草ってありますか?」
「一番臭い…?それなら、病人にしか使わない『ガロア草』だけど…」
フィーナが持ってきた、独特の刺激臭を放つ薬草を、陽介は躊躇なく刻んで肉に混ぜ込み始めた。
「これ、肉の臭みを別の強い匂いで上書きする作戦っす!そして、重要なのは『背徳感』と『ジャンキーさ』!」
彼はインベントリから特大のフライパンと、業務用の高性能バーナーを取り出した。
ゴォォォ!と、石窯からは想像もできないほどの青い炎が立ち上る。
「まずは、この脂身のない肉にコクを出すっす!はい、マヨネーズ!」
陽介は刻んだ魔獣肉をマヨネーズとガロア草、そして異世界には存在しない「醤油」と「ニンニク」で豪快に炒め始めた。
「待って…その白いドロドロは何!?そして、この強烈な香りは…薬草の臭みを完全に上回っているわ!」フィーナは料理の匂いに引き寄せられた。
炒め上がった肉を、彼はカビたパンの上に乗せ、更にその上に残りのマヨネーズを豪快に絞り出した。
「完成!『魔獣肉のジャンク・バズり・パン!』略して、『魔バズパン!』」
フィーナは恐る恐るパンを一口食べた。
その瞬間、彼女の顔が驚愕に染まる。
「…な、何これ…!肉の臭みが全くない!薬草の苦味も消えて、**中毒性のある『旨み』と、この…初めての『酸味』**が食欲を刺激するわ…!」
周囲の領民も恐る恐る食べ始め、その場は静寂に包まれた後、爆発的な歓声に変わった。
「うまい!こんなに美味しい魔獣の肉は初めてだ!」
「もう一個!もう一個食べたい!」
陽介は、満面の笑みでサムズアップした。
「よっしゃ!これで異世界バズり飯、一発クリアっすね!」
3. 領地を席巻する料理革命
シェフ・テンマこと天満陽介は、アークライド領の救世主となった。彼の目標は「飢餓の撲滅」ではなく、「領民全員をグルメにする」という、極めて現代的なものだった。
彼は領地の食材を徹底的に分析した。
<臭い魔獣の肉> 『テンマ式・二度漬け唐揚げ』でカリカリに。
<貧しい畑から採れる雑草> 『特製ジェノベーゼ・ソース』に変身。
<食べられずに捨てられていた川の魚> 『魚介系つけ麺』の出汁として活用。
陽介が作る料理は、従来の異世界料理の常識を覆した。彼が最も大切にしたのは、「再現性」と「エンタメ性」だ。
彼は領民を集め、自身のWaoTube動画の撮影スタイルで料理教室を開いた。
「今日のテーマは『誰でも作れる!時短・激ウマ・異世界スパイスカレー!』っす!」
陽介は、領民たちに、現代の「計量スプーン」や「タイマー(砂時計を組み合わせる)」といった調理器具の概念を教え込んだ。
「料理って、感覚じゃなくて『再現性』っす!これで誰でも失敗しない!」
領主は陽介の料理の力に驚愕し、彼に領地の食糧生産と販売の全権を与えた。陽介は魔獣肉の唐揚げを領地名物とし、「アークライド・バズり・チキン」と名付けて、周辺の裕福な都市に高値で売り始めた。
その結果、アークライド領は豊かになった。領民の顔には活気が戻り、フィーナは治癒魔法だけでなく、陽介の助手を務めるようになった。
4. バズりの先に
ある日、陽介はフィーナに訊ねた。
「フィーナさん、この料理で領地が潤いましたけど、僕、勇者としてはちょっとズルいっすよね?」
フィーナは笑った。
「いいえ、陽介。あなたは最高の勇者よ。魔王を倒す勇者は他にもいるかもしれない。でも、あなたは『不味い食事』という、最も身近で、最も諦められていた『日常の敵』を倒してくれた。あなたの料理は、ただお腹を満たすだけじゃない。みんなに『生きる楽しみ』と『明日の希望』を与えたのよ」
彼女は、陽介が領民のために作った、異世界では珍しい「ふわとろオムライス」を差し出した。
「ところで、陽介。この『オムライス』を食べる時の、この『動画映え』する食べ方をなんて言うの?」
陽介はオムライスを一口頬張り、最高の笑顔で言った。
「あざーっす!それはですね、『飯テロ』っす!」
こうして、現代の「バズり」を体現した料理研究家は、料理の力で異世界を席巻し、その名を「異世界グルメ王」として轟かせることになったのだった。




